

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
狭心症の概要
狭心症は虚血性心疾患の一つであり、心臓に必要な酸素や栄養が不足している状態です。心臓の筋肉が動くためには、冠動脈からの栄養が不可欠です。生活習慣による動脈硬化の進行により血流が減少し、心臓が必要とする酸素の供給が不足することで、狭心症が引き起こされます。
冠動脈は左右に分かれて合計3本あり、1本の分岐が詰まる場合を1枝病変、3本の分岐が詰まる場合を3枝病変と呼びます。詰まっている分岐が多いほど状態は重症です。この狭窄の場所によって、症状や治療法が異なります。
心筋梗塞との違いは、狭心症が血管が狭くなっている状態であるのに対し、心筋梗塞は血管が完全に詰まっている状態のことです。
虚血性心疾患はがんや脳卒中と並び、日本人の主要な死因の一つであり、高齢化社会において患者数は増加しています。狭心症の原因・症状・検査方法・治療法・予防策について説明します。
狭心症の原因
一般的に、動脈硬化によって冠動脈が狭くなることで狭心症が引き起こされます。動脈硬化とは、高血圧やその他のさまざまな要因によって血管が柔軟性を失い、硬化する状態のことです。この状態は、高血圧・脂質代謝異常・喫煙・糖尿病などの要因によって促進されます。
また、労作と関係なく一時的な冠動脈の痙攣によって引き起こされる狭心症は、冠攣縮性狭心症(安静時狭心症や異型狭心症)と呼ばれます。
狭心症の前兆や初期症状について
冠動脈の血流が悪化し心筋の一部に酸素不足が生じることで、胸に痛みや圧迫感が現れたり、息苦しさを感じたりします。
この痛みは通常、胸の中央から左側に広がり、背中・肩・首・顎・左腕・腹部に感じることがあります。体の表面ではなく、内部の深いところからの痛みとして感じることが特徴です。
痛みの特徴は、押しつけられるような圧迫感や締め付けられるような感覚であり、ひどい場合には死の恐怖を感じさせるほどの激しい痛みとも表現されます。また、冷や汗を伴うこともあります。
この痛みは通常、1〜3分程度続き、長くて15分以下が一般的です。ただし、糖尿病の場合は神経障害の影響で感覚が鈍くなり、症状がまったく出ないこともあるため、症状だけでは診断が難しい場合もあります。
症状があった場合、循環器内科の受診をおすすめします。
狭心症の検査・診断
まず、胸部の症状に関する問診を行います。その後、症状に応じて12誘導心電図検査・胸部レントゲン検査・心臓エコー検査・血液検査などを行います。これらの検査は、ほとんど体に負担のないものであり、外来で行うことが一般的です。
より詳細な診断と病態の評価が必要な場合には、負荷心筋シンチグラム検査・負荷心エコー検査を行います。また、心臓カテーテル検査は短期間の入院が必要ですが、冠動脈疾患の診断・治療に不可欠な検査です。この検査は、狭窄がある冠動脈の病変部位・狭窄血管の数・形態などを調べ、治療方針を決定するために重要です。
冠攣縮性狭心症の場合、生命に関わる危険な状態ですので、緊急入院し検査治療を始めます。血液検査・心電図・心臓エコー検査などで可能な限り早急に診断し、冠動脈造影検査時に薬物負荷による誘発試験も実施されることもあります。
狭心症の治療
治療の選択肢は大きく3つに分けられます。
- 内科的治療の【薬物治療】や【カテーテル治療】
- 外科的治療の【冠動脈バイパス手術】
内科的治療は循環器内科・外科的治療は心臓外科で行うのが一般的です。
今回は、それぞれの治療の概要について説明します。
薬物療法
β遮断薬・Ca拮抗薬・硝酸薬などの薬剤が、病態に応じて使用されます。これらの薬物療法に加えて、生活習慣の改善と定期的な検査が必要です。高血圧・脂質異常症・糖尿病の薬物治療や減塩を中心とした食餌療法・肥満予防・禁煙・定期的な運動などの生活習慣の改善も合わせて指導されます。治療目標は、動脈硬化の進行を遅らせることや退縮させることにあります。
カテーテル治療
低侵襲治療(経皮的冠動脈形成術・PCI)は、手首や足の付け根に針で穴を開け、そこから細い管に風船を取り付けて血管を拡張するバルーン拡張術のことです。また、ステントと呼ばれる細い金網の筒を血管内に挿入し、狭い箇所や詰まった箇所を開通させるステント拡張術もあります。特に、治療後の細胞増殖を抑制する薬剤を含んだ薬剤溶出型ステントを使用することで、再狭窄のリスクを軽減できます。
冠動脈バイパス術
カテーテル治療が適応でない場合は、冠動脈の狭窄や閉塞した部位の血流を確保するために、バイパス術(CABG)を行います。冠動脈の狭窄や閉塞した部位の先に穴を開け、そこに採取した血管を接続します。車の渋滞を緩和するために新しいバイパス道路を建設するのと同じ原理です。バイパスとして使用する血管は患者さんの体から採取することが必要です。バイパスに使用される血管としては閉塞のリスクが低い動脈が好まれますが、冠動脈に複数の閉塞部位がある場合、下肢の静脈も使用されることがあります。主に前胸部の内胸動脈・手首の橈骨動脈・下肢の大伏在静脈・胃の胃大網動脈などです。バイパスに使用する血管は、患者さんの状態に応じて選択されます。
狭心症になりやすい人・予防の方法
狭心症は、高齢の方・高血圧・脂質異常症・糖尿病・慢性腎臓病・喫煙歴のある方によく見られます。特に糖尿病患者は症状が不明確で、胸痛ではなく胸の違和感や息苦しさといった曖昧な症状が出やすいため、注意が必要です。
さらに、次に説明する食事や運動不足の解消・喫煙・飲酒・ストレスの軽減など生活習慣の見直しも狭心症の予防に役立ちます。
食事の工夫
野菜や魚を中心とした食事は、動脈硬化の予防につながり、カリウムを豊富に含む野菜や果物を摂取することで高血圧の予防に役立ちます。食事の量を腹八分目にすることで肥満や糖尿病のリスクを減らせます。具体的には以下のように食事を工夫するとよいでしょう。
- 減塩(1日6g以下)
- 低脂肪
- 糖質を控える
- 適正カロリーの摂取
- 肉の摂取は少な目に心がけ、不飽和脂肪酸を多く含む青魚を食べる
- 野菜から食物繊維・ビタミン・ミネラルを補う
- 適度なアルコール・カフェインの摂取
これらのことを毎日の食生活で心がけることで、生活習慣病を防ぐことにつながります。
適度な運動習慣
生活習慣を改善するためには、適度な運動も取り入れることが大切です。 日常生活のなかで少しずつ身体を動かす習慣を身につけることがおすすめです。例えば、家事で意識的に身体を動かしたり、エスカレーターを使わずに階段を利用するよう習慣をつけます。 お風呂掃除や庭の草むしりは、軽い体操と同等の運動効果が期待でき、雪かきは軽いジョギングと同程度の運動量になります。 このように、日常生活のなかで身体を動かす習慣を身につけることで、運動が苦手な人でも無理なく続けられるのでおすすめです。
飲酒・喫煙を控える
飲酒については、個人によって摂取可能な量は異なりますが、健康を考える上で程々の量を抑えることが重要です。お酒にはリラックス効果もあり、適度な飲酒は問題ありませんが、飲み過ぎには注意が必要です。一方、たばこについては禁煙が推奨されます。喫煙は動脈硬化だけでなく、糖尿病や高血圧など多くの生活習慣病の危険因子です。受動喫煙も同様に健康へのリスクを高めるので、喫煙を控えるか、完全に止めることが重要です。
ストレスや睡眠の管理
狭心症を発症しやすいタイプの人は、仕事熱心・凡帳面・負けず嫌いなどが挙げられることがあり、過度のストレスにさらされがちです。強いストレスがかかると、心臓の筋肉が一時的に血流不足となり、胸に痛みや圧迫感を生じます。気分転換をする・趣味を持つ・癒される時間を作る・無理をせずに休むといった、自分を労わる時間を作ることで健康な生活を続けましょう。
参考文献




