

監修医師:
神宮 隆臣(医師)
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可逆性後頭葉白質脳症症候群の概要
可逆性後頭葉白質脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome:PRES)は、1996年にHincheyらにより提唱された疾患で、主に急性の異常高血圧や腎機能障害、免疫抑制薬などの影響によって発症します。
特徴的な症状には頭痛、視力障害、けいれん、意識障害などがあり、脳の後頭葉を中心とする可逆性の白質における浮腫性変化がMRIで確認されます。
PRESという名称には可逆性という語が含まれていますが、脳出血や不可逆性の障害に進行する例もあり注意が必要です。
可逆性後頭葉白質脳症症候群の原因
PRESの原因は単一ではなく、血管内皮障害と脳血流の自律調節破綻が共通の病態機序とされています。特に、血圧の急激な上昇やサイトカインによる内皮障害が重要な引き金になります。
高血圧と脳血流の自律調節機能の破綻
健常な状態では、脳の血管は血圧の変化に応じて血流を自動的に調整する機能(自律調節能)を持っています。しかし、急激な血圧上昇や持続する高血圧によってこの機能が破綻すると、血管が拡張しすぎて血漿成分が漏れ出し、脳実質に浮腫が生じます。特に後頭葉・頭頂葉はこの機能が弱いため、障害が集中しやすいのです。
免疫抑制薬や化学療法薬の影響
タクロリムスやシクロスポリンといったカルシニューリン阻害薬は、血管内皮に対して直接的な毒性を持つとされ、PRESの発症に関与します。これらの薬剤は臓器移植後や自己免疫疾患の治療で広く使われており、血中濃度が高い場合や腎機能が低下している場合に発症リスクが上昇します。
妊娠高血圧症候群・子癇
妊娠中の血圧上昇や胎盤由来因子の関与により全身性の血管内皮障害が引き起こされ、脳浮腫を来す病態がPRESの発症機序に一致します。PRESはしばしば子癇発作の画像的基盤として認識されており、妊婦でけいれんを起こした場合はこの病態が疑われます。
腎疾患と電解質異常
腎不全や透析患者さんでは、水分・電解質バランスの異常や高血圧のコントロール不良が内皮障害と脳血流変化を引き起こし、PRESの原因となります。低マグネシウム血症や高カルシウム血症なども関連しています。
炎症性サイトカインの関与
敗血症や自己免疫疾患では、TNF-αやIL-6などのサイトカインが血管内皮を障害し、血液脳関門の透過性を亢進させることが知られています。SLEや血管炎の活動期などではPRESを合併することがあります。
可逆性後頭葉白質脳症症候群の前兆や初期症状について
PRESの臨床症状は非特異的ですが、共通して急性かつ多様な神経学的異常を呈する点に特徴があります。多くは症状が急に出現し、複数の症状が同時に現れることもあります。
頭痛
PRESの頻度の高い初発症状の一つで、後頭部を中心とした鈍痛や拍動性の頭痛として現れます。血圧の急上昇と関連しているとされ、高血圧性脳症との鑑別が必要です。
けいれん発作
小児や妊婦ではけいれん発作から発症することが多く、全身けいれんや部分発作、さらにはけいれん重積状態を呈する例もあります。特に免疫抑制薬使用中や透析患者さんでは、突然のけいれんがPRESの第一徴候である可能性が高いため、見逃さないことが重要です。
視覚異常
PRESの名前のとおり、後頭葉が障害されることで視覚野が侵され、視覚異常をきたすのが大きな特徴です。
- 一過性の皮質盲
- 視野の欠損(半盲)
- 色覚異常、視覚のゆがみ
「見えづらい」「視界が欠ける」といった訴えがあれば即座に画像検査を検討する必要があります。
意識障害・もうろう状態
急速に意識が低下し、傾眠や昏迷、昏睡へと進行する例もあります。脳幹に波及する病変やけいれん後の意識障害も関与するため、症状の進行が早い場合には集中治療が必要です。
精神症状
認知の混乱、不穏、幻覚などの精神症状が前景に立つ場合もあり、高齢者では誤ってせん妄や認知症と判断されるケースもあります。
受診する診療科目
このような神経学的症状を認めた場合、脳神経内科または救急科の受診が必要です。基礎疾患がある患者さんに新たに中枢神経症状が出現した場合は、PRESを念頭に置くことが重要です。
可逆性後頭葉白質脳症症候群の検査・診断
PRESは臨床症状が非特異的であり、診断には画像検査を中心とした総合的な評価が必要です。特に早期の脳MRIが診断の決め手となります。
画像検査(MRI)
診断に有用なのは脳MRIのFLAIR(Fluid Attenuated Inversion Recovery)像と拡散強調画像(DWI)です。
PRESでは、後頭葉および頭頂葉の白質を中心に左右対称性の高信号領域を示します。これは血管性浮腫(vasogenic edema)によるものであり、神経細胞の不可逆的な壊死を伴わない可逆性病変です。
病変は白質を中心としながら灰白質にも及ぶことがあり、また典型的な後頭・頭頂葉以外にも前頭葉、小脳、脳幹に病変を認めることがあります(非典型例)。
早期にMRIが撮影できない場合には、まず頭部CTを行うこともありますが、初期では異常が見られないことが多いため、PRESが疑われる場合はMRIを早急に行うことが推奨されます。
血液検査と全身評価
PRESは全身状態と密接に関わるため、脳局所の画像だけでなく、背景にある全身的異常の把握も不可欠です。
脳波検査
けいれんが疑われる症例では脳波を施行します。PRESでは特異的な所見は乏しいですが、びまん性徐波や焦点性異常波、けいれん焦点の存在を確認することで、てんかん発作との鑑別や抗けいれん薬の導入判断に役立ちます。
髄液検査
髄膜炎や脳炎との鑑別のために髄液検査が必要な場合もあります。感染性疾患や自己免疫性疾患(中枢神経ループスなど)との鑑別が難しいときには、髄液細胞数、蛋白、糖、抗体検査を行います。
可逆性後頭葉白質脳症症候群の治療
PRESの治療は原因除去と対症療法を軸に進めます。
血圧コントロール
急激な降圧は避けつつ、2〜3時間で25%程度の降圧を目指します。使用薬はニカルジピンやラベタロールが一般的です。過度な降圧は脳虚血を招くリスクがあるため注意が必要です。
けいれん発作への対応
ジアゼパムやミダゾラムが第一選択薬です。難治性発作に対してはフェノバルビタールの投与や全身麻酔を導入し人工呼吸管理下での治療が検討されます。
原因薬剤の中止
免疫抑制薬などが原因と疑われる場合は、可能であれば中止または減量し、代替薬を検討します。原疾患の管理とバランスをとる必要があります。
可逆性後頭葉白質脳症症候群になりやすい人・予防の方法
なりやすい人
PRESはあらゆる年齢層で発症しえますが、特に以下のような条件を持つ方では発症リスクが高いとされています。
まず、高血圧の既往がある方、特に急激な血圧変動を繰り返す患者さんは注意が必要です。PRESは、血圧の急上昇により脳の自律的な血流調整機構が破綻し、脳血管から液体成分が漏れ出すことで浮腫が生じるため、急性高血圧性脳症の一形態としてとらえることができます。
また、臓器移植後の患者さんや自己免疫疾患の治療を受けている患者さんも発症しやすいとされています。これらの患者さんでは、免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリンなど)を継続的に使用しており、薬剤による血管内皮障害や高血圧がPRESの誘因となります。
その他、慢性腎疾患のある方や透析を受けている患者さんでは、水分・電解質のバランスが不安定になりやすく、血圧コントロールも困難なケースが多いため、PRESを発症するリスクが高まります。
予防の方法
PRESの発症を未然に防ぐためには、日常的な血圧管理が基本かつ重要な対策です。高血圧を指摘されている患者さんでは、降圧薬の服用を怠らず、血圧測定の記録をつけながら、急激な上昇を避ける生活習慣の見直しも必要です。特に腎機能障害を伴う場合は、過度の食塩摂取や脱水を避け、安定した体液バランスの維持を心がけることが重要です。
関連する病気
- 高血圧緊急症
- 高血圧性脳症
- 全身性エリテマトーデス
- 血栓性微小血管症
- ベーチェット病
- 皮膚筋炎
- 慢性腎不全
- ネフローゼ症候群
- 急性間欠性ポルフィリン症
参考文献
- 小児内科 Vol.54 増刊号 2022「可逆性後頭葉白質脳症」名古屋大学医学部附属病院小児科 山本啓之
- 臨牀透析 Vol.29 No.10 2013「透析患者における可逆性後頭葉白質脳症」済生会横浜市南部病院 江原洋介、横浜市立大学 平和伸仁
- 小児内科 Vol.51 増刊号 2019「可逆性白質脳症」日本大学医学部 福田あゆみ




