監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
がん性腹膜炎の概要
がん性腹膜炎とは、がんが腹膜に転移し、腹膜炎を起こした状態です。
腹膜というのは、お腹の中で大事な臓器を覆っている薄い膜のことです。
肝臓や胃、小腸、大腸などの臓器を覆う「臓側腹膜」と、お腹の内側の壁や横隔膜、骨盤腔を覆う「壁側腹膜」からなっています。
この腹膜に炎症が起こることを腹膜炎と呼びます。
がん性腹膜炎ではお腹の中に腹水が溜まることで、腹痛や吐き気、食欲の低下、息苦しさなどの症状が現れ、全身状態が悪化します。
すべてのがんで発症する可能性がありますが、とくに胃がん、卵巣がんで発症することが多いです。
治療は原因となる疾患の治療が中心となり、そのほか、がん性腹膜炎によって起こるさまざまな症状を緩和させるための対症療法が行われます。
がん性腹膜炎の原因
腹部には腹膜と呼ばれる一層の細胞で覆われた大きな空間があり、その中には胃や腸、肝臓、胆嚢などの消化器官や、卵管や子宮などの女性生殖器があります。
これらの臓器にできたがんが悪化すると、内側の粘膜から外側の表面まで進みます。
表面から剥がれたがん細胞が腹膜の中に散らばることで、がん性腹膜炎が生じます。
がん性腹膜炎は主に腹部の臓器である、胃などの消化器官のがんや卵巣などの女性生殖器のがんから発生しますが、食道がんや乳がんなど腹部以外のがんから発生するケースもあります。
また、外科手術中に腫瘍が破裂することで、がん細胞が腹膜に広がり、腹膜炎を引き起こすこともあります。
がん性腹膜炎の前兆や初期症状について
がんが腹膜に転移しても最初は非常に小さく、症状は出ないことが多いです。しかし、がん細胞が大きくなるにつれて、さまざまな症状が現れます。
がん性腹膜炎は、お腹の中で炎症が起こっているため、腹痛や吐き気などの腹部症状が出ることが多いです。
食べたものが逆流する感じや、息がしづらくなることもあります。
また、気持ち悪くなったり、吐いてしまったりする場合、食欲が落ちて体重が減ってしまうこともあります。
がん性腹膜炎が進行すると、腸閉塞、腹水、水腎症などの症状が現れることがあります。
腸閉塞
がんが腹膜に広がることで、腸に癒着が生じたり、がん細胞が増殖したりすることがあります。
これにより、腸の通り道が狭くなり、食べ物や消化液が正常に移動できなくなる状態が腸閉塞です。
この腸閉塞が起こると、腹痛や吐き気、お腹の圧迫感、嘔吐、便秘などの症状が現れます。
腹水
がんが原因で炎症を起こすと、体内の液体が漏れて腹腔内にたまります。この液体が腹水です。
腹水によりお腹の中で圧迫感が生じた場合、空腹でも食事をするのが難しくなり、食べ物を摂ることでさらに圧迫感が増すため、息が苦しくなることもあります。
水腎症
水腎症とは、腎臓や尿管が正常に働かなくなり、尿が腎臓や尿管に溜まってしまう状態のことです。腎臓は背中側に位置しているため、この状態が長く続くと背中に痛みを感じることがあります。
また、尿がたまることで腎臓の機能が低下し、排泄されない尿に細菌が増えてしまい感染症が起こることもあります。
がん性腹膜炎の検査・診断
お腹の中の臓器や腹水の中にがん細胞が見つかると、がん性腹膜炎と診断されます。
がん細胞が腹腔内に広がっても、最初は非常に小さく目に見えません。
大きな塊になると、超音波検査やCT検査などの画像検査でも異常を発見することができます。ただし初期には画像検査では診断がつかないことも多く、がん性腹膜炎の状態を正確に把握するためには、腹水検査やがん細胞を顕微鏡で観察する必要があります。
腹水検査
腹水を確認するために、指でお腹を押して波のような動きを感じたり、体の向きを変えることで濁った音の場所が動くことを調べたりします。
また、エコー検査やCT検査で腹水の量やお腹の状態を確認したり、腹腔穿刺という方法で腹水を少しだけ取り、性状を確認したりする場合があります。
術中洗浄細胞診
術中洗浄細胞診は、がんの進行状況を詳しく調べるための検査方法です。
手術中に、胸や腹に生理食塩水を注入しその液体を回収します。
回収した液体を顕微鏡で調べると、肉眼では見えないがん細胞が見つかることがあります。
がん性腹膜炎の治療
がん性腹膜炎の治療は主に原発がんに対する化学療法と、症状を和らげるための治療が中心です。
化学療法の内容は元のがんの種類に応じて決定されます。
化学療法
がん性腹膜炎は手術だけでは治すことが難しく、放射線治療もお腹全体に行うのは難しいため、抗がん剤を使った化学療法が中心となります。
抗がん剤には、飲み薬と、注射や点滴で投与する薬があり、注射薬を直接お腹の中に入れる治療方法(腹腔内化学療法)もあります。
対症療法
がん性腹膜炎によって生じる様々な症状を和らげるために、痛み止めなどを用いて症状の緩和を目指します。
消化管が詰まって食事ができなくなった場合には、内視鏡で管を広げるステント留置術が検討されます。
腹水に対しては、利尿薬を使い腹水を減らしたり、腹水を抜いて症状を和らげる方法(腹水穿刺排液)があります。最近では体に有用な成分だけを取り出して再度体に戻す方法(CART)も用いられています。
がん性腹膜炎になりやすい人・予防の方法
がん性腹膜炎は、すべてのがんで発生する可能性がありますが、特に胃がん、大腸がん、卵巣がんなどで発生しやすいとされています。
確実な予防方法はありませんが、原疾患の治療を適切に行うことが最も重要です。
がんの早期発見と治療が、がん性腹膜炎の発症を防ぐための基本です。
さらに、がんが再発したり転移したりしないかどうかを定期的に検査することも重要です。
参考文献