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2008年宮崎大学卒業後、東京都立大久保病院にて初期研修。東京大学医学部付属病院産婦人科に入局。東京大学医学部付属病院、東京北医療センター、JR東京総合病院などの勤務を経て、現在は生殖医療クリニックに勤務。日本産科婦人科学会専門医。
卵胞期短縮症の概要
卵胞期短縮症とは、
卵胞期が通常よりも短くなる状態のことです。生理のことを医学用語では
月経と呼びます。月経とは、排卵が起きた後、妊娠に至らなかった場合、子宮内膜と呼ばれる壁の一部が崩れて、血液などが子宮外に排出されることです。
「約1ヶ月の間隔で起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血」であり、周期的に腟を通って出血し、数日で止まるという現象と定義されています1)。
月経周期とは、月経が開始した日から次の月経が始まる前日までのことです。25日から38日が正常範囲とされています。月経周期が24日以下の場合を
頻発月経、39日以上の場合を
稀発月経(きはつげっけい)と言います。3ヶ月以上月経がこない場合は、
無月経と呼ばれます2)。
月経周期は、月経開始から排卵までの卵胞期、排卵から月経開始までの黄体期に分けられます1)。卵胞期では、卵巣の中で卵胞が発育し、排卵できる状態まで成熟します。卵胞期短縮症では、月経周期のうち卵胞期が短縮するため、月経周期全体も短くなります。同じように、頻発月経を来すものの中に
無排卵性の出血があります。この場合は排卵が起こっておらず、卵胞期短縮症とは異なる状態です。必要となる対応が違うため、区別する必要があります。
卵胞期短縮症の原因
卵胞期短縮症の原因としては、加齢などによる
卵巣機能の低下や
ホルモンバランスの乱れが考えられます。通常、性成熟期の女性の身体では、次に示すような仕組みで排卵が起こります。脳内にある視床下部から
ゴナドトロピン放出ホルモンが分泌され、脳下垂体に卵胞刺激ホルモンを出すよう命令が出されます。この命令により脳下垂体から
卵胞刺激ホルモンが分泌されます。卵胞刺激ホルモンは卵巣に作用し、卵胞を成熟させます。このとき、卵胞からは女性ホルモンである
エストロゲンが分泌されます。その後、脳下垂体から黄体化ホルモンが分泌されることにより、卵巣から卵子が排出され、排卵が起こります1)。
加齢などにより卵巣機能が低下すると、
卵胞刺激ホルモンの分泌が増加します。卵巣機能低下が起こり始めた段階では、増加した卵胞刺激ホルモンの刺激に卵胞は反応し、卵胞の発育が早まり、排卵の時期も早まります3)。排卵の時期が早まることにより、結果的に卵胞期が短くなります。
卵胞期短縮症の前兆や初期症状について
卵胞期短縮症では、
月経周期の短縮、
基礎体温の変化、
不妊などが症状として見られます。月経周期が短くなったと感じる場合は、
産婦人科を受診しましょう。その際に、これまでの月経周期の確認をする、基礎体温を測定するなどの準備をしておくと、スムーズに診察を受けることができます。
月経周期の短縮
月経周期のうち、卵胞期が短くなるため、月経周期全体も短縮します。そのため、
月経回数も増加します。以前は1ヶ月に1回であった月経が、1ヶ月に2回来るようになる、というように自覚することもあるようです。月経量に関しては、あまり変化がない場合が多いですが、卵巣機能低下にともない減少する場合もあります。
基礎体温の変化
基礎体温を測定している場合は、基礎体温にも変化が現れます。卵胞期は低温相の時期ですので、
低温相が短縮します。一方で、黄体期に見られる高温相は正常な場合が多いとされます。ただし、卵巣機能の軽度低下が見られる時期には、黄体機能不全を合併していることも多く3)、その場合は黄体期の短縮を認める場合もあります。
不妊
卵胞期短縮症では、卵胞期が短縮されるため、
卵胞が十分発育しないまま排卵することがあるため、妊娠しにくくなることがあります。また、卵巣機能が低下してくる時期の卵子は質が低下していることが多く、そのために妊娠しにくくなったり、流産しやすくなったりする場合があります。
卵胞期短縮症の検査・診断
卵胞期短縮症の検査としては、まず
基礎体温を測定します。そのほか、妊娠を希望する場合など、詳細な評価が必要な場合は、血液検査でホルモン値を測定したり、経腟超音波検査を用いて、卵胞の発育の仕方を確認したりすることもあります。
基礎体温
基礎体温は、
婦人体温計で起床時寝たまま舌の下に体温計をいれて測定します。基礎体温が正確に測定できていないと判断される場合は、基礎体温の測定の仕方を指導します。基礎体温が正確に測定できていれば、記録された基礎体温表をもとに、排卵の有無を確認します。排卵がある場合は、卵胞期の期間を確認し、短縮を認めるか判断します。
血液検査
妊娠を希望する場合など詳細な評価が必要な場合は、卵巣の状態や排卵の状態などを確認するために、ホルモン検査を行うことがあります。ホルモン検査では女性ホルモンや卵巣を刺激する
卵胞刺激ホルモン・
黄体化ホルモンなどを測定します。そのほか、必要に応じて母乳を分泌する
プロラクチンや
甲状腺ホルモンの検査を行います。不妊治療を行う場合には、全身の状態を評価するために、血糖などそのほかの項目を追加で検査することもあります。
経腟超音波検査
卵胞の発育の仕方や排卵の時期などを詳細に評価したい場合は、経腟超音波検査を行うことがあります。経腟超音波検査とは、細い超音波プローブを腟から挿入し、観察する検査です。お腹の上からプローブをあてる経腹超音波検査よりも、子宮や卵巣の様子を詳細に観察できます。経腟超音波を使って、
卵胞の大きさを測定します。卵胞の発育の仕方などを評価するには経過を追う必要があるため、数日間隔などの頻回な検査が必要となることもあります。
卵胞期短縮症の治療
妊娠の希望の有無で治療法が異なります。
妊娠を望まない場合
妊娠の希望がない場合は、この状態が継続することによって問題が起こることはないと考えられるため、
治療の必要はありません。
妊娠を望む場合
妊娠の希望がある場合は、内服薬や注射薬を用いて
排卵誘発療法を行います。短縮した卵胞期をのばして卵胞の発育を促し、適切な時期に排卵誘発剤で排卵を誘発します。治療時の卵巣機能の状態によっては、治療に難渋することもあります。
卵胞期短縮症になりやすい人・予防の方法
卵胞期短縮症は
閉経前の卵巣機能が低下し始めた方に起こりやすいとされます。
卵胞期短縮症は、それ自体では閉経までの過程でおこりうる症状の一つであり、大きく問題となることはありません。しかし、卵胞期短縮症を認めた時期が妊娠を希望する時期と重なると、問題が生じることがあります。卵巣機能低下に伴う卵胞期短縮症が不妊の原因となった場合、卵巣機能低下の程度によっては治療が困難となる可能性があります。卵巣機能を根本的に改善することは簡単ではなく、
卵巣機能が低下する前に治療開始できることが望まれます。現在妊娠を希望している、あるいは将来的には妊娠を望む場合は、月経周期が短くなり卵胞期短縮症を疑ったときは、早めに産婦人科を受診することをおすすめします。
また、月経周期が短くなり卵胞期短縮症の症状のように思われる場合でも、月経と思っていた出血が不正出血である場合があります。日本人の閉経の平均は50歳頃とされており、子宮体がんが増え始める年齢です。不正出血は子宮体がんの初発症状の一つです。妊娠希望がない場合も、月経周期が極端に短い、明らかに不規則など、
卵胞期短縮症以外の病気の可能性がある場合は、産婦人科を受診し、相談することがすすめられます。