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網膜動脈閉塞症
柿崎 寛子

監修医師
柿崎 寛子(医師)

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三重大学医学部卒業 / 現在はVISTA medical center shenzhen 勤務 / 専門は眼科

網膜動脈閉塞症の概要

網膜動脈閉塞症は目の奥に位置する網膜の血管が詰まり、ものを見る上で重要な視細胞への血流が途絶えて、視野が欠けたり視力が低下したりする疾患です。加齢や喫煙習慣、高血圧などによる「動脈硬化」によって発症することがあります。

網膜は目の奥の一面を覆う薄い膜で、視細胞と、視細胞につながる神経繊維によって構成されています。視細胞は色や光を感じるのに重要な役割があり、網膜から供給される血液によって酸素や栄養を受け取ることで正常に機能できています。

私たちの目は、光が入ってきた際に網膜で焦点を結び、その光が視細胞によって電気信号に変えられ、脳に伝えられることで初めて光を感じることができます。

しかし、網膜動脈閉塞症では、網膜の血管が詰まることで視細胞への血液供給が途絶え、光を感じることができなくなります。その結果、急に目の前が暗くなったり、視野の一部が欠けたりすることがあります。

網膜の動脈は、眼球の後ろ側を通って網膜全体に枝分かれするように広がっており、網膜動脈閉塞症も血管が詰まる部位によって分類されます。枝分かれする部分より前の心臓に近い部分(網膜中心動脈)が詰まるものを「網膜中心動脈閉塞症」、枝の部分が詰まるものを「網膜分枝動脈閉塞症」といいます。

網膜動脈分枝閉塞症では、詰まった部分から先の血管のみが障害されるため、残された部分の機能は保たれます。しかし、黄斑(おうはん)の部分になる網膜の中心が障害された場合は、視力が著しく低下することもあります。網膜中心動脈閉塞症では障害される部位が広いことから視力低下が著しく、治療を行なっても視力が0.1以下まで低下するケースもあります。

治療には網膜の血流を促すための処置や薬物療法が行われますが、血流が途絶した時間が長ければ長い程、網膜へのダメージが大きくなり、低下した視力は完全に戻らない場合もあります。

網膜動脈閉塞症

網膜動脈閉塞症の原因

網膜動脈閉塞症の主な原因は動脈硬化です。

動脈硬化とは、本来柔らかく弾力のある血管が硬くなる状態です。加齢や喫煙習慣のほか、高血圧、糖尿病、脂質異常症などによって発症することがあります。

網膜の動脈に動脈硬化が生じると血圧の変動などでできた血栓が詰まることがあります。また、網膜とは離れた心臓に近い動脈に動脈硬化が生じることで、血栓などが剥がれて血流に乗って運ばれ、網膜の動脈が詰まるケースもあります。

そのほか、網膜の動脈に炎症を起こしていたり、何らかの要因によって血流が変化したりすることでも発症することがあります。

網膜動脈閉塞症の前兆や初期症状について

網膜動脈閉塞症の初期症状では、突然片目の前が真っ暗になったり、見ている範囲の一部が見えなくなったりします。

網膜分枝閉塞症では、詰まった部分から先の血管のみが障害されるため、残された部分の機能は温存されます。そのため、血流が途絶えた部分に相当する視野が欠けることがあります。また、網膜の中心部にあたる黄斑まで障害された場合には、視力が著しく低下します。

一方、網膜中心動脈閉塞症では、網膜全体の視細胞が障害されて光を感じることができなくなり、視力も著しく低下します。

網膜動脈閉塞症の検査・診断

網膜動脈閉塞症の検査では、問診や眼底検査、光干渉断層計(OCT)などが行われます。

眼底検査とは、目の奥にあたる「眼底部」を特殊なカメラで撮影する検査です。網膜や網膜の血管、視細胞の状態を観察できます。一方、光干渉断層計(OCT)は、近赤外線を用いて網膜の断層像を確認する検査です。

網膜動脈閉塞症では、眼底検査で血管が詰まった部分が白く写ったり、光干渉断層計(OCT)で網膜のむくみが確認されたりします。

網膜動脈閉塞症の治療

網膜の血流を再開させるための処置や薬物療法が行われます。網膜の血流を再開させるために眼球のマッサージを行ったり、「血栓溶解薬」「網膜循環改善薬」などを投与したりします。また、網膜への血流を増やすため、首の神経節にブロック注射を投与する「頸部交感神経節ブロック」や、眼球内の圧を下げるために水分(房水)を吸引する治療が行われることもあります。

しかし、これらの治療を行なっても、視力が元の状態に改善できないケースもあります。

一度詰まった網膜の動脈は、時間が経過すれば血流が再開します。しかし、視細胞は豊富な酸素や栄養を必要とするため、血流が途絶えるとすぐに障害されて機能不全になります。発症後、速やかに治療を行うことができれば視力の改善が期待できることもあるものの、ある程度時間が経過した場合は、血流を再開させても多くの場合視力の改善を期待することが困難です。

そのため、突然視力の低下や視野の変化を認めた場合は、速やかに医療機関を受診して適切な処置を受けることが重要です。

網膜動脈閉塞症になりやすい人・予防の方法

動脈硬化がある人は、網膜動脈閉塞症を発症するリスクがあります。発症を予防するためには、動脈硬化の悪化を予防するための取り組みを行うことが重要です。

動脈硬化は、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や、喫煙習慣、飲酒習慣、肥満などがある場合に発症します。動脈硬化の進行を抑えるためには、基礎疾患に対して適切な治療を受け、生活習慣を改善する必要があります。

日ごろ喫煙の習慣がある場合は禁煙に努め、アルコールの摂取は適度な量に留めてください。肥満がある場合は食事摂取量や運動習慣を見直し、適正体重を目指しましょう。定期的に医療機関を受診して経過観察を受けることも重要です。


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