

監修医師:
大坂 貴史(医師)
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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
神経内分泌腫瘍の概要
神経内分泌腫瘍(NET)は、全身に存在する神経内分泌細胞を発生母体とする腫瘍性疾患の総称です。消化器領域に約6割、呼吸器領域に約3割が発生します (参考文献 1) 。腫瘍から分泌されるホルモンによる症状が目立つ「機能性」のものは特徴的な症状から気づかれることも多いですが、非機能性の場合には検診や他の検査で偶然見つかることも少なくありません。 血液・尿検査や、画像診断、病理診断で腫瘍の悪性度や進行度を判断し、根治手術が可能であれば切除による治癒を目指しますが、進行例では集学的治療を行い疾患のコントロールを目指します (参考文献 2, 3) 。神経内分泌腫瘍の原因
神経内分泌細胞は、ホルモンや神経伝達物質といった体の働きを調節する物質を作る細胞です。これらの細胞は、膵臓や消化管、肺、副腎などの臓器に幅広く存在します。何らかのきっかけで、これらの細胞が無秩序に増殖するようになると神経内分泌腫瘍になります。神経内分泌細胞は全身に存在するため、様々な部位に神経内分泌腫瘍ができることがありますが、消化器に発生するものが全体の 60%、他には肺や気管支といった呼吸器にできるものが 30% を占めています (参考文献 1) 。 神経内分泌腫瘍は2000年あたりまで「カルチノイド」と呼ばれていました。カルチノイドは「がんもどき」という意味ですが、カルチノイドと分類されていた腫瘍でも遠隔転移をする例が少なくなく、「がんもどき」だと誤ったイメージを持ちかねないということで神経内分泌腫瘍と名前が変わった経緯があります (参考文献 1) 。神経内分泌腫瘍の前兆や初期症状について
神経内分泌腫瘍には、分泌するホルモンによって症状が出る「機能性」のタイプと、ほとんどホルモン関連の症状が出ない「非機能性」のタイプがあります。機能性の場合は、分泌されるホルモンによって症状が異なります。代表的な神経内分泌腫瘍の初期症状は次のようなものです (参考文献 2, 3) 。- インスリノーマ: 血糖値を下げるインスリンというホルモンを出しすぎることによる、めまいや動悸、手足のふるえ、ひどいときには意識がぼんやりするなどの低血糖症状が起こりやすくなります。
- ガストリノーマ: 胃酸を増やすホルモンが過剰に出るため、胃や十二指腸の潰瘍や腹痛、胸やけといった症状が出ることがあります。慢性の下痢や体重の減少も症状のひとつです。
- グルカゴノーマ:皮膚の発赤・発疹が症状として現れるほか、体重が減ることがあります。
- ソマトスタチノーマ:食べ物の消化に関わる様々なホルモンや消化管の動きを抑制するホルモンが分泌されます。症状としては腹痛、高血糖、胆石症、便が白く脂っこくなる (脂肪便)、下痢があります。
- カルチノイド症候群(胃腸や肺など): 顔がほてったり(紅潮)、下痢、息苦しさなどが起こります。
神経内分泌腫瘍の検査・診断
神経内分泌腫瘍が疑われる場合には、血液検査や尿検査でホルモンや関連するマーカーの測定をします。 血液検査の結果や症状、家族歴から神経内分泌腫瘍疑わしいと考えられる場合には、、エコーやCTやMRなどの画像検査を行い、腫瘍がどこにあるのかや、大きさ、ほかの場所への転移がないかを調べます。 内視鏡などを用いて組織の一部を取ってきて顕微鏡で見る病理診断が、治療法選択に重要です。 病理診断では、生検でとってきた神経内分泌腫瘍の増殖能力を評価することで、神経内分泌腫瘍の「悪さのレベル」を判定します。 神経内分泌腫瘍のなかでも特に増殖能が高く悪性度が高いと判断されるものは「神経内分泌がん」と呼ばれるほか、それ以外のものも病理診断によりグレード1~3まで細かく分類されます (参考文献 2, 3)。 これらの情報から神経内分泌腫瘍のタイプや進行度を総合的に判定して、適切な治療を選択します。神経内分泌腫瘍の治療
腫瘍を物理的に取り除くことで治癒を目指せると判断されれば、手術や内視鏡での切除が第一選択です (参考文献 2, 3) 。手術が難しい場合や、すでにほかの臓器に転移している場合には、様々な治療法を組み合わせて疾患をコントロールします。 薬物療法としては従来から用いられているような抗がん剤に加えて、ホルモン分泌を抑える薬剤、標的を選択的に攻撃する分子標的薬を使うことが一般的です (参考文献 2, 3) 。最近ではホルモン受容体に放射性物質をくっつけた薬剤を投与して、治療標的を選択的に放射線で攻撃する治療 (放射性核種標識ペプチド治療; PPRT) が注目されています。 薬物療法の他にはカテーテルで腫瘍に流れる血液を止める方法や、転移巣への放射線照射、腫瘍の減量によってホルモン症状や閉塞症状などを改善することを目的とした腫瘍減量手術などの方法があります (参考文献 2, 3) 。神経内分泌腫瘍になりやすい人・予防の方法
神経内分泌腫瘍は幅広い年齢層の方が発症し、男女差はあまりないとされています (参考文献 2) 。しかしながら、神経内分泌腫瘍には一部遺伝性疾患の側面があり、多発性内分泌腫瘍やvon Hippel-Lindau (フォン・ヒッペル・リンドウ) 病などの遺伝性疾患の患者やその家族で発生しやすいことが知られています (参考文献 4) 。 神経内分泌腫瘍と分かったときに遺伝子検査の提案をされる場合があります。遺伝性素因を有していることが明らかとなれば、患者本人は遺伝素因ごとに知られている罹患リスクの高い疾患に対して、先手先手での検査が可能になります。他の血縁者にとっても関連疾患の早期発見や重症化予防につながるでしょう。しかしながら「遺伝性疾患である」と分かることは本人や血縁者、関係者にとって大きなイベントですので、検査をするかどうかを家族や医療スタッフとよく相談することをお勧めします。参考文献




