

監修医師:
五藤 良将(医師)
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クリオグロブリン血症性血管炎の概要
クリオグロブリン血症性血管炎とは「クリオグロブリン」という血液中の異常なタンパク質が原因で、血管に炎症が起こる疾患です。比較的まれな疾患で、発症頻度は約10万人に1人とされています。主に50〜60歳代で発症しやすく、やや女性に多い傾向があります。
クリオグロブリンには、37℃以下になると沈殿し、それ以上の温度になると再び溶けるという性質があります。クリオグロブリンは、ウイルス感染症や自己免疫性疾患、血液疾患などに関連して増加します。
クリオグロブリン血症性血管炎では、クリオグロブリンが血管の内側に沈着することで、炎症が起きたり血流が妨げられたりします。その結果、皮膚や関節、神経、腎臓など、体のさまざまな部分に症状があらわれます。
症状としては、発熱や倦怠感など全身にわたる不調に加えて、血流の悪化によって指先が白や青に変色する「レイノー現象」がみられることもあります。皮膚には、紫色の斑点や網目状の模様があらわれることがあり、ときには潰瘍ができることもあります。
これらの皮膚症状は、寒さによって悪化しやすい傾向があります。そのほか、血栓の形成、関節痛、筋肉のこわばりなどの症状がみられます。さらに、腎機能の低下や手足のしびれなどが生じることもあります。
クリオグロブリン血症性血管炎はさまざまな疾患が関係しますが、特にC型肝炎ウイルス(HCV)との関連が深いとされています。治療は、原因となる病気の治療を行いながら、ステロイドや免疫抑制薬を使用した対症療法をします。
クリオグロブリン血症性血管炎の原因
クリオグロブリン血症性血管炎の原因は、体内で「クリオグロブリン」という異常な免疫タンパク質がつくられることにあります。クリオグロブリンは、37℃以下では血液中に沈殿し、それ以上の温度になると再び溶ける性質を持っています。この過程で血管の内側にクリオグロブリンが沈着すると、炎症が引き起こされます。
クリオグロブリンが増える背景には、C型肝炎ウイルスの感染や、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫といった血液のがんなどが関与しています。特に、C型肝炎ではクリオグロブリンが陽性となる割合が高いことが報告されています。
クリオグロブリン血症性血管炎の前兆や初期症状について
クリオグロブリン血症性血管炎では、体のさまざまな部分に多様な症状があらわれます。とくに特徴的な症状として知られているのが、紫斑、関節の痛み、全身のだるさの3つの症状です。
皮膚には、足を中心に紫色の斑点や盛り上がった発疹、褐色色の色素沈着、血がたまったような水ぶくれ、網目状の模様、潰瘍、寒さの刺激で生じる蕁麻疹などがみられることがあります。
また、発熱や筋肉の痛みなどが生じることもあり、腎臓の機能が低下することで、尿中に血液やタンパクが混じることもあります。ネフローゼ症候群や急性腎不全といった深刻な腎障害につながることもあり、こうした症状は病気の経過や予後に大きく影響するため注意が必要です。
さらに、手足の感覚が鈍くなったりしびれたりする末梢神経の異常もよくみられ、特に知覚神経や運動神経といった神経が影響を受けやすい傾向があります。
クリオグロブリン血症性血管炎の検査・診断
クリオグロブリン血症性血管炎を診断するには、まず血液検査でクリオグロブリンの存在を確認することが重要です。
血液中にクリオグロブリンが確認された場合は、血清中のタンパク質の分布(血清蛋白分画)を調べる検査や、免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)の量などを測定する検査が行われ、詳細なクリオグロブリンのタイプを診断します。
一方で、最初の血液検査でクリオグロブリンが確認されなかった場合でも、C型肝炎ウイルスに感染していることが明らかになった場合や、補体という血液成分の値の低下がみられる場合には、症状の経過を見ながら再検査が検討されます。
C型肝炎ウイルスの感染や補体の低下がみられず、症状も落ち着いている場合は、経過を観察し、必要に応じて別の時期に再検査を行うことがあります。
クリオグロブリン血症性血管炎の診断を確定するには、血清中にクリオグロブリンが検出されることに加え、似たような症状を示す他の病気と鑑別することも重要です。
クリオグロブリン血症性血管炎の治療
クリオグロブリン血症性血管炎の治療は、原因となっている疾患や、症状の程度、影響を受けている臓器によって異なります。
症状が軽い場合には、原因となっている疾患の治療と並行して、非ステロイド性抗炎症薬や鎮痛補助薬などを使って痛みや炎症をやわらげる対症療法が行われます。また、寒さによって症状が悪化する場合があるため、寒冷刺激を避けることも重要です。必要に応じて、少量のステロイド(グルココルチコイド)を使用することもあります。
一方で、腎臓や神経、消化管、皮膚などに重い症状が出ている場合には、免疫の働きを抑える治療が必要になります。多くの場合、ステロイドと免疫抑制薬を併用した治療が行われ、状況によっては、血液中のクリオグロブリンを物理的に取り除く「血漿交換療法」が行われることもあります。
また、C型肝炎やB型肝炎、HIV感染症と関連しているケースでは、免疫を抑える治療を先に始めるとウイルスが再び活性化するおそれがあるため、まずは抗ウイルス治療が優先されます。
クリオグロブリン血症性血管炎になりやすい人・予防の方法
クリオグロブリン血症性血管炎は、自己免疫疾患やウイルス感染症など、特定の基礎疾患と関連して発症することが多いため、これらの疾患を抱えている人は注意が必要です。
特に、C型肝炎ウイルスに感染している人は、クリオグロブリン血症性血管炎を発症するリスクが高いとされています。
また、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、関節リウマチといった自己免疫疾患や、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫などの血液疾患をもつ人も、発症しやすいと考えられています。
現時点では、クリオグロブリン血症性血管炎を肝炎に予防する方法は確立されていません。そのため、発症リスクの高い基礎疾患を持つ方は、定期的に検査を受けて症状の変化に注意し、医師の指示に従って治療を続けることが重要です。
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参考文献




