監修医師:
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
鉄芽球性貧血の概要
鉄芽球性貧血(てつがきゅうせいひんけつ)は、体内の鉄分を上手く利用できないために起こる貧血で、「環状鉄芽球」という異常な赤芽球を認めることが特徴です。
鉄芽球性貧血は、遺伝性鉄芽球性貧血と骨髄異形成症候群やアルコール、薬剤が原因である後天性鉄芽球性貧血に大別されます。
このうち発生頻度が高いのが「後天性鉄芽球性貧血」であり、「遺伝性鉄芽球性貧血」は非常にまれだと言われています。
遺伝性鉄芽球性貧血のなかで最も多く発生するのは「X連鎖性鉄芽球性貧血」で、性染色体であるX染色体のALA2という遺伝子の変異によって発生します。
症状は疲れやすさや動悸、息切れなど一般的な貧血の症状のほか、正しく利用されない鉄が体内に蓄積されることで肝機能障害や膵臓機能障害などが現れることがあります。
病気の種類や状態に応じて、薬物療法や輸血療法などをおこないます。
鉄芽球性貧血の原因
鉄芽球性貧血の原因は、遺伝性のものと後天性のものに大別されます。
遺伝性鉄芽球性貧血は、X染色体上の遺伝子であるALAS2の変異が原因となる場合が多く、「X連鎖性鉄芽球性貧血」と呼びます。
X連鎖性鉄芽球性貧血は男性に発症することがほとんどですが、絶対に女性に発症しないとも言い切れません。
X連鎖性鉄芽球性貧血以外の遺伝性鉄芽球性貧血が発症することは極めてまれで、発症しやすい性別や症状などはさまざまです。
後天性鉄芽球性貧血の原因は、抗結核薬などの薬剤やアルコールの多飲、鉛中毒などです。
血液疾患である骨髄異形成症候群にともなって発症することもあり、骨髄で正常な血液細胞が作られなくなった結果、鉄芽球性貧血を引き起こします。
鉄芽球性貧血の前兆や初期症状について
鉄芽球性貧血の症状は、一般的な貧血と同様に疲れやすさや息切れ、動悸や頭痛、立ちくらみなどです。
顔色や唇、下まぶたの血色が悪いことも症状の一つです。
正常に利用されない鉄が体内に蓄積されることで、肝機能障害や糖尿病、心不全などの重篤な症状を引き起こすこともあります。
遺伝性鉄芽球性貧血の場合、原因となる遺伝子の数が多いため神経や筋肉までも影響を及ぼすことがあり、症状の程度もさまざまです。
鉄芽球性貧血の症状には一般的な貧血と似ている症状もあるため、症状を感じた場合は自己判断せずに医療機関を受診し、適切な検査や治療を受けることが大切です。
鉄芽球性貧血の検査・診断
鉄芽球性貧血の診断における主な検査は血液検査です。赤血球やヘモグロビン、血清鉄やフェリチンなどの数値を調べます。
一般的な貧血とは異なり、血清鉄やフェリチンが高い値を示す傾向があります。
また、鉄芽球性貧血では骨髄検査による分析において、環状赤芽球(かんじょうせきがきゅう)が認められる点が特徴です。
環状赤芽球とは、赤血球の前段階の細胞である赤芽球の核を取り囲むように鉄が沈着したものを指します。
環状赤芽球が全赤芽球の15%以上を占めることや、血清鉄およびフェリチンの上昇などを認める場合、鉄芽球性貧血と診断されます。
出典:遺伝性鉄芽球性貧血の診断基準と診療の参照ガイド 改訂版作成のためのワーキンググループ「遺伝性鉄芽球性貧血診療の参照ガイド 令和1年改訂版」
また、原因を特定するために遺伝子検査をおこなうことがあります。
鉄芽球性貧血の原因となる遺伝子は数多く確認されていますが、未確認の遺伝子もまだあるのではないかと推測されています。
さらに、鉛中毒が疑われる場合は、血中鉛の濃度を測定する検査をおこないます。
複数の検査に加えて症状の内容や程度、これまでの経緯、服用している薬剤などの確認も含めて総合的に判断して診断します。
鉄芽球性貧血の治療
鉄芽球性貧血の治療には、ビタミン補充療法や鉄キレート療法、輸血療法などがあります。
遺伝性鉄芽球性貧血の一つであるX連鎖性鉄芽球性貧血の治療では、ビタミンB6の大量投与が有効で、患者の約半数に対して効果を示すといわれています。
病因によってはビタミンB1を投与する場合もあり、患者の状況によって投与するものを選択します。
また、輸血依存状態などにより鉄が体内に蓄積されている場合は、鉄キレート療法といって鉄を除去する治療をおこなうこともあります。
貧血の程度が重い場合は輸血療法を実施することもありますが、鉄芽球性貧血は鉄の利用に障害を来たしているため、実施にあたっては慎重な判断を要します。
薬剤性の場合は薬剤の使用の中止や変更を検討し、骨髄異形成症候群にともなう鉄芽球性貧血の場合は、基礎疾患である骨髄異形成症候群の治療が必要です。
世界では数例のみ造血幹細胞移植がおこなわれていますが、標準的な治療法として確立するには至っていません。
鉄芽球性貧血になりやすい人・予防の方法
鉄芽球性貧血になりやすい人は、家族のなかに鉄芽球性貧血の患者がいる人や原因薬剤を使用している人、過度な飲酒をする習慣がある人などです。
遺伝性鉄芽球性貧血の場合は完全な予防は難しいですが、リスクを軽減するために備えることは重要です。
遺伝性鉄芽球性貧血の家族歴がある人は、 定期的な健康診断で貧血の有無を確認することが推奨されます。
薬剤性の鉄芽球性貧血については、抗結核薬などを使用している人にリスクがあるため、定期的な血液検査を受け、早期発見につなげることが大切です。
また、日常的にアルコールを過剰摂取する人は、アルコール摂取量を減らし節酒に努める必要があります。
厚生労働省が推奨している1日のアルコール摂取量は、純アルコール約20g程度が目安となりますが、断酒が必要となる場合もあるため、主治医の指示に従いましょう。
アルコール摂取量の制限のほか、食事面でも健康的な生活を送ることを心がけ、貧血の症状を感じたら早めに医療機関を受診することが大切です。
参考文献