監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)
目次 -INDEX-
濾胞性リンパ腫の概要
濾胞性(ろほうせい)リンパ腫は、血液のがんの一種である悪性リンパ腫で、白血球のうちのB細胞(Bリンパ球)ががん化する病気です。多くは数年かけてゆっくりと経過をたどることが多い「低悪性度リンパ腫」に分類されますが、まれに進行の速いタイプの「アグレッシブリンパ腫」になることもあり、注意が必要です。
濾胞性リンパ腫はゆるやかに進行するケースが多いため、初期の段階では自覚症状がないことも多いですが、首やわきの下、足の付け根などのリンパ節の腫脹やしこりをきっかけに診断されることがあります。進行すると「B症状」とよばれる発熱や体重減少、盗汗(大量の寝汗)などの症状が見られることがあります。
濾胞性リンパ腫の治療には化学療法や放射線治療、造血幹細胞移植などがあり、リンパ腫の広がりなどに応じて治療方針が決定します。濾胞性リンパ腫に対する化学療法の効果は比較的良好で長期生存が期待できますが、再発を繰り返すケースが多いことも知られています。
濾胞性リンパ腫は全悪性リンパ腫の約20%を占め、国内における患者数は年々増加しています。近年では、リンパ節以外の消化管や皮膚への発生も報告されています。
(出典:一般社団法人 日本血液学会 「造血器腫瘍診療ガイドライン2023年版」)
濾胞性リンパ腫の原因
濾胞性リンパ腫の原因は明らかになっていませんが、90%以上の症例でBCL2 という遺伝子や関連する染色体の異常が認められています。
濾胞性リンパ腫の前兆や初期症状について
濾胞性リンパ腫の初期症状では、首やわきの下、足の付け根など、体の表面から触れやすいリンパ節に腫脹やしこりが見られることがあります。しかし、リンパ節の腫脹は痛みや熱感を伴わないことが多く、無自覚のうちに濾胞性リンパ腫が進行していることもあります。
濾胞性リンパ腫が進行するにつれて「B症状」とよばれる、発熱、体重減少、大量の寝汗の症状があらわれることがあります。そのほか、疲労感や出血傾向、感染症にかかりやすくなるなどの症状が見られることもあります。
リンパ節の腫脹やしこりが大きくなり、尿管や静脈、脊髄などの臓器が圧迫されると、水腎症(腎臓に尿がたまる病態)、むくみ、麻痺などの症状があらわれることがあり、場合によっては緊急治療が必要になることがあります。
濾胞性リンパ腫の検査・診断
悪性リンパ腫の種類は50種類以上にも及ぶため、濾胞性リンパ腫を診断するためには、リンパ節などの病変組織を顕微鏡で確認する病理診断が必要になります。また、がん細胞や病変部位の広がりを確認するため、骨髄検査や画像検査も実施されます。
骨髄検査は、骨髄(腰の骨)に針を刺して骨髄組織を採取し、骨髄へのがん細胞の広がりを確認する検査です。画像検査では、CTやPET-CTによって病変部位の広がりを確認します。骨髄検査や画像検査は、治療方針を決めるうえでも重要になります。
濾胞性リンパ腫の治療
濾胞性リンパ腫の治療には、化学療法や放射線治療、造血幹細胞移植などがあります。
濾胞性リンパ腫はリンパ腫の広がりに応じて、病変部位の広がりが限定されている「限局期」と病変部位が広範囲で広がっている「進行期」に分けられ、それぞれの病期に応じて治療方針が決定されます。
限局期
濾胞性リンパ腫の広がりが限定的な限局期では、放射線療法による治療が推奨されます。放射線治療は、数週間行うことが一般的です。ただし、放射線治療のリスクが治療効果よりも高いと想定される場合は、放射線治療を行わず、進行期と同様の治療をすることもあります。
進行期
濾胞性リンパ腫が進行し、病変部位が広がっている進行期では、腫瘍の大きさや数、症状に応じてさらに治療方針が分かれます。
濾胞性リンパ腫の症状がなく、腫瘍の量が少ない低腫瘍量である場合は、経過観察をして腫瘍が小さくなるのを待つこともあります。経過観察の場合も、医師が濾胞性リンパ腫の進行状況を慎重に確認し、適切に治療の方向性を判断します。
腫瘍の量が多い高腫瘍量の場合などは、分子標的薬と化学療法を併用した治療が推奨されます。分子標的薬とは、がん細胞の表面にある特定の分子に作用してがん細胞を制御する薬で、濾胞性リンパ腫では抗CD20抗体(リツキシマブ、オビヌツズマブ)が使用されます。分子標的薬と化学療法の併用療法で治療効果が得られた場合は、さらに抗CD20抗体による治療を続ける維持療法が推奨されます。
進行期の濾胞性リンパ腫では、治療の効果が得られても、多くの場合再発を繰り返し、再び治療が必要になります。再発した濾胞性リンパ腫の治療では、リンパ腫の広がりやそれまでの治療内容と効果、アグレッシブリンパ腫への形質転換の有無、患者の希望などを踏まえて治療法が選択されます。造血幹細胞の移植も、再発した際の選択肢のひとつです。
濾胞性リンパ腫になりやすい人・予防の方法
濾胞性リンパ腫の原因は解明されておらず、なりやすい人や予防の方法はわかっていません。しかし、国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)によると、濾胞性リンパ腫は男性よりもやや女性に多い傾向があります。
濾胞性リンパ腫は、抗CD20抗体を用いた治療法によって、生存期間が延長できることが期待されています。進行を防ぐにはできるだけ早く適切な治療を行うことが重要であるため、リンパ節の腫脹やしこりなどの異常を感じた場合は早めに医療機関を受診しましょう。
関連する病気
参考文献
- 一般社団法人 日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版 第Ⅱ章 リンパ腫
- 国立研究開発法人国立がん研究センター がん情報サービス 濾胞性リンパ腫
- 一般社団法人 日本内科学会 日本内科学会雑誌第110巻第7号 濾胞性リンパ腫の病態・診断・治療 ~低悪性度B細胞リンパ腫の代表的病型として~
- 国立研究開発法人 国立がん研究センター リンパ腫の病気について
- 日本癌治療学会 濾胞性リンパ腫:患者さんの手引き ESMO治療ガイドラインに基づいた患者さん向け情報
- 国立がん研究センター 希少がんセンター 悪性リンパ腫(あくせいりんぱしゅ)
- 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)