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腹部大動脈瘤
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

腹部大動脈瘤の概要

腹部大動脈瘤は、大動脈という心臓から腹部に向かって血液を送る大きな血管が異常に膨れ上がった状態を指します。通常、大動脈の直径は2〜3センチメートルですが、腹部大動脈瘤ではこれが1.5倍以上に膨れ上がります。この状態が進行すると、血管が破裂する危険性があり、命にかかわることがあります。

腹部大動脈瘤は、一般的にゆっくりと進行し、多くの場合、初期には症状が現れません。しかし、瘤が大きくなると、周囲の臓器や組織を圧迫し、さまざまな症状が現れることがありますが、多くの場合は破裂する直前まで無症状であることがほとんどです。最も危険なのは、瘤が破裂することであり、これが起こると大量の出血が生じ、迅速な医療処置が必要です。

腹部大動脈瘤の原因

腹部大動脈瘤の主な原因は動脈硬化(どうみゃくこうか)です。動脈硬化は、血管の内壁に脂肪やコレステロールが蓄積し、血管が硬くなり弾力を失う状態です。この状態が続くと、血管の壁が弱くなり、腹部大動脈瘤が形成されやすくなります。 その他の原因としては、以下が挙げられます。

  • 高血圧(こうけつあつ) 血圧が高い状態が続くと、血管の壁に強い圧力がかかり、血管が傷つきやすくなります。
  • 喫煙 タバコに含まれる有害物質が血管の壁を傷つけ、動脈硬化を進行させます。
  • 遺伝性疾患 マルファン症候群(Marfan Syndrome)やエーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome)などがあり、これらの疾患は大動脈の壁が弱くなりやすく、腹部大動脈瘤のリスクを高めます。
  • 動脈炎 血管の炎症です。代表的なものに、高安動脈炎(たかやすどうみゃくえん)や巨細胞性動脈炎(きょさいぼうせいどうみゃくえん)があります。
  • 外傷 交通事故などで腹部に強い衝撃を受けると、大動脈に傷がつき、それが瘤の形成につながることがあります。

これらの要因が組み合わさることで、大動脈の壁が弱くなり、腹部大動脈瘤が形成されます。特に動脈硬化と高血圧は、最も一般的なリスク要因です。

腹部大動脈瘤の前兆や初期症状について

腹部大動脈瘤は多くの場合、初期には症状がありません。しかし、膨れ上がった部分が大きくなると、周囲の臓器や組織を圧迫し、さまざまな症状が現れることもあります。これらの症状は瘤の位置や大きさによって異なります。

腹部大動脈瘤の場合の症状

  • お腹の痛みや違和感 膨れ上がった部分が臓器を圧迫するためです。痛みはお腹の中心部や背中に感じることがあります。
  • 脈打つ塊を感じる 痩せている人では、お腹に脈打つ塊が感じられることがあります。これは瘤が大きくなり、脈動が伝わるためです。
  • 腰痛 瘤が神経を圧迫するため、腰に痛みを感じることがあります。
  • 足のしびれや冷感 瘤が血流を妨げるため、足にしびれや冷感が現れることがあります。

これらの症状が現れた場合、特に急に痛みが強くなったり、ショック状態(血圧低下、意識消失など)になったりした場合は、腹部大動脈瘤の破裂を疑い、すぐに心臓血管外科や循環器内科、夜間や休日は救急外来などで緊急医療を受ける必要があります。

腹部大動脈瘤の検査・診断

腹部大動脈瘤の診断には、いくつかの検査が用いられます。以下に代表的な検査方法を紹介します。

  • 超音波検査 超音波検査は、音波を使って体内の構造を映し出す方法です。腹部大動脈瘤の診断に大変有効で、瘤の大きさや位置を詳細に把握できます。痛みや放射線被曝がないため、特に初期診断に適しています。
  • CT検査 CT検査は、X線を使って体内の詳細な断面画像を得る方法です。造影剤を使うことで、血管の状態をより正確に把握できます。腹部大動脈瘤の大きさや形状、周囲の臓器との関係を評価するために有効です。
  • MRI検査 MRI検査は、磁気共鳴画像法を使って体内の構造を詳しく調べます。造影剤を使わずに血流を評価できるため、特定の状況で有効です。特に造影剤を使用する方法は、血管の詳細な画像を得るのに適しています。
  • そのほかの検査 血液検査:高血圧やコレステロール値の管理に役立ちます。特定のマーカー(フィブリノーゲン、Dダイマー、CRP、IL-6、MMP9など)がリスク評価に使用されることがあります。 血管造影検査:CTやMRIが利用できない場合や手術前の詳細な評価など特定の状況で使用されることがあります。

これらの検査により、腹部大動脈瘤の大きさや位置、形状を詳細に評価し、治療方針を決定します。

腹部大動脈瘤の治療

瘤が大きくなり破裂のリスクが高い場合に行われます。 開腹による腹部大動脈置換術 と血管内治療(Endo-Vascular Aortic Repair:EVAR)であるステントグラフト内挿術 があります。

  • ステントグラフト内挿術(EVAR:EndoVascular Aneurysm Repair) カテーテルを使って血管内にステントと呼ばれる金属の筒を挿入し、膨れ上がった部分を補強します。この手術は傷が小さく、回復が早いのが特徴です。
  • 人工血管置換術 膨れ上がった部分を人工血管に置き換える手術です。根治性が高いのが特徴です。

手術の適応は、瘤の大きさや進行速度、症状の有無などによります。一般的には、瘤の直径が5センチメートル以上、または拡大速度が6ヶ月で5ミリメートル以上の場合、手術が推奨されます。手術後は定期的なフォローアップが必要で、特にEVARの場合はエンドリーク(ステントグラフトで塞いだはずの瘤の内側に血液が漏れること)の有無を確認するための定期的なCT検査が重要です。

腹部大動脈瘤になりやすい人・予防の方法

腹部大動脈瘤になりやすい人の特徴として、高血圧、喫煙、動脈硬化の家族歴がある人が挙げられます。また、マルファン症候群などの遺伝性疾患を持つ人もリスクが高いです。 予防のためには、以下の点に注意することが重要です。

  • 健康的な生活習慣の維持 バランスの取れた食事、定期的な運動、十分な睡眠が基本です。特に野菜や果物を多く摂り、塩分を控えることが推奨されます。
  • 定期的な健康チェック 特に高血圧や高コレステロールのリスクがある場合、定期的に血圧やコレステロールのチェックを行いましょう。早期発見と早期治療が重要です。
  • ストレス管理 リラックスする時間を持ち、ストレスを溜めないようにしましょう。ヨガや瞑想、深呼吸などのリラクゼーション法が有効です。
  • 家族歴の確認 家族に腹部大動脈瘤の患者さんがいる場合、遺伝的なリスクがあるため、医師と相談して予防策を講じることが重要です。遺伝性疾患のスクリーニングを受けることも検討してください。
  • 禁煙 タバコを吸わないことが最も重要です。既に喫煙している場合は、禁煙プログラムなどを利用して、早期に禁煙することを目指しましょう。
  • 適度な運動 過度な運動や重い物を持ち上げることは避けるべきですが、ウォーキングや軽いジョギングなどの適度な運動は血管の健康を保つのに役立ちます。
  • アルコールの摂取を控える 過度な飲酒は高血圧を引き起こす可能性があるため、適量を守ることが重要です。

腹部大動脈瘤の予防には、生活習慣の改善と定期的な健康チェックが欠かせません。自分自身のリスクを理解し、早期に対策を講じることで、腹部大動脈瘤の発症を防ぐことができます。特に家族歴がある場合や、高血圧や動脈硬化のリスクが高い場合は、医師と相談しながら適切な予防策を講じることが重要です。

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参考文献

  • 日本循環器学会/日本心臓血管外科学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会編:2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン

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