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B型慢性肝炎
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

B型慢性肝炎の概要

B型慢性肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染して長い間ウイルスが体に残ってしまうと起こる、肝臓に慢性的な炎症が生じる病気です。明らかな症状が現れないことが多いですが、炎症により肝細胞は壊され続けてしまううちに肝臓は傷だらけになり、最終的には肝臓が機能を失って硬くなった肝硬変という状態になります。肝細胞癌につながる可能性も高くなります。治療としてはインターフェロンや核酸アナログ製剤などの抗ウイルス薬を使います。しかし、現在の治療薬ではB型肝炎ウイルスを完全に排除することはできないため、ワクチン接種などによる予防が非常に重要です。(参考文献1)

B型慢性肝炎の原因

B型慢性肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)に感染し、感染が持続すると発症します。
そもそもB型肝炎ウイルスが感染する経路には、次の2つがあります。

  • 1. 垂直感染(母子感染):出産時に母親から赤ちゃんへ感染することです。
  • 2. 水平感染:垂直感染以外の経路による感染全般を指します。B型肝炎ウイルスでは主に血液や体液を通じて感染します。具体的には、次のような状況で感染する可能性があります。
    ・傷口に唾液などの体液が付着する
    ・性的接触
    ・注射針の使い回し(薬物の乱用など)
    ・不衛生な器具による医療行為や刺青、ピアスの穴あけ

出産時もしくは乳幼児期はまだ免疫系が未発達のため、この時期にB型肝炎ウイルスに感染しても感染後数年〜数十年間は肝炎を起こしません。このような症状はないがウイルスが体内にいる状態を無症候性キャリアと言います。
思春期を過ぎると自己の免疫系が高まり、B型肝炎ウイルスを病原体であると認識できるようになります。その結果、一般に10〜30代に一過性に強い肝炎を起こします。その後、多くの場合は肝炎はおさまり肝機能に大きな影響は見られません。しかし、1〜2割の人は肝炎の状態が持続します。この状態をB型慢性肝炎と呼びます。(参考文献1)

B型慢性肝炎の前兆や初期症状について

B型慢性肝炎はほとんど症状がありません。しかし、進行して肝硬変をきたすと次のような症状が現れることがあります。
・体がだるい(倦怠感)
・食欲がなくなる(食欲不振)
・皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
・お腹に違和感や痛みがある
・尿の色が濃くなる(褐色尿)
・体重の減少や筋力の低下
・むくみや腹水の増加(進行した場合)
また、B型慢性肝炎の状態が長く続くと肝細胞癌のリスクも高くなります。(参考文献1)

B型慢性肝炎の検査・診断

B型慢性肝炎を診断するには、血液検査を行います。以下のような項目があります。
HBs抗原:陽性の場合、B型肝炎ウイルスに感染しています。
HBs抗体:B型急性肝炎を発症して治った人、もしくはB型肝炎ワクチンを接種した人において陽性になります。
HBc抗体:陽性の場合、B型肝炎ウイルスにこれまで感染したことがあることを意味します。B型肝炎ウイルスワクチンを接種しただけの人は陰性になります。
HBc-IgM抗体:最近B型肝炎ウイルスに感染した人が陽性になります。
HBe抗原・HBe抗体:ウイルスの増殖力や肝炎の程度を表します。HBe抗原(+)・HBe抗体(-)の場合はB型肝炎ウイルスの増殖力が強く他の人に感染させやすいです。一方、HBe抗原 (-) ・HBe抗体 (+) の場合は肝炎は落ち着いており他の人に感染させる可能性は低いです。ただし、この場合も肝炎は徐々に進行して肝硬変になったり肝細胞癌が生じたりするリスクはあるので定期的な経過観察が必要な状態です。
HBV-DNA:血液中のウイルスの量を表します。治療効果を確認する際に用いられます。

HBs抗原が陽性である場合は、B型肝炎である可能性が非常に高いです。すぐに医療機関を受診するようにしましょう。そして、HBc-IgM抗体 (-) ・HBe抗原 (-) ・HBe抗体 (+) という検査結果の場合はB型慢性肝炎であると考えられます。
また、炎症の度合いや病気の進行を詳しく調べるために、肝機能検査肝生検を行うこともあります。(参考文献1)

B型慢性肝炎の治療

B型慢性肝炎の患者さんの身体からウイルスを完全に排除することはできません。そこで、B型慢性肝炎の治療では、ウイルスの増殖を抑え、肝臓の炎症を軽くすることが目的です。主に次の治療方法があります。

1. インターフェロン療法

インターフェロンとは、抗ウイルス作用のあるタンパク質で、風邪をひいた時などに体内でも作られます。インターフェロン療法とはインターフェロンを注射することで免疫を強化してB型肝炎ウイルスを減らす治療法です。週3回の注射を24週間行う場合と、週1回の注射を48週間行う場合があります。治療が上手く効けばインターフェロンを中止してもB型肝炎ウイルスは増殖しなくなります。しかし、インターフェロン療法の奏効率(治療が上手く効く確率)は30〜40%と言われており、効果が不十分だとインターフェロンを中止するとウイルスが増殖して肝炎が再燃してしまいます。
また、インターフェロン療法の副作用としては以下のようなものがあります。
治療開始すぐに現れる、38℃を超える発熱・体のだるさ・関節痛・筋肉痛:これらは治療を継続していると次第に消えていくことが多いです。
白血球、血小板、まれに赤血球の減少:インターフェロンが骨髄の働きを抑えるため出現することがあります。
肺炎:しぶとい空咳や胸痛が出た場合は注意が必要です。

他にもうつ病、眼底出血、脱毛などが生じることがあります。38℃を超える発熱・体のだるさ・関節痛・筋肉痛以外の副作用はそれほど頻繁に起こるわけではありませんが、心配になった場合は医療者に相談しましょう。

2. 核酸アナログ製剤

核酸アナログとは、DNAを作るのに必要な材料である核酸に構造が似ているけれども少しだけ違うものです。核酸アナログはウイルスDNAの合成を阻害することでウイルスの増殖を防ぎます。薬が効いている間はB型肝炎ウイルスのウイルス量は低下し、肝炎は起きなくなります。しかし、インターフェロン療法と異なり核酸アナログ製剤の使用を中止すると多くの場合で肝炎は再燃します。時に肝炎の急性増悪を起こし、死に至る可能性もあります。そのため、核酸アナログ製剤は絶対に自己判断で中止してはいけません。

3. 肝庇護療法

肝炎を抑えて肝臓の機能を保護することを目指す治療です。一般的に飲み薬のウルソデオキシコール酸と注射薬のグリチルリチン製剤が用いられます。薬の詳しい作用機序はわかっていませんが、どちらも軽度の慢性肝障害にはある程度有効とされています。
(参考文献1,2)

B型慢性肝炎になりやすい人・予防の方法

B型肝炎ウイルスの感染予防として、日本では以下の3点が行われています。

1. 母子感染予防

母親がB型肝炎ウイルスに持続感染していると、出産時に子どもが産道を通る際に感染する可能性があります。そのため、出生後できるだけ早期にB型肝炎ウイルスに対する免疫グロブリンとB型肝炎ウイルスワクチンを注射し、生後1か月6か月に2回ワクチンの追加接種を行います。これにより、殆どの母子感染を防げるようになります。

2. B型肝炎ウイルスワクチンの定期接種化

B型肝炎ウイルスは母子感染だけでなく、ピアスの穴あけや刺青、性行為などにより感染する可能性があります。そこで、2016年から、日本ではすべての0歳児が公費(無料)でB型肝炎ウイルスワクチンを接種できるようになりました。生後2か月から接種可能で、1回目の接種から27日以降後に2回目、さらに1回目の接種から20~24週後に3回目の接種を行うことになります。
なお、1歳の誕生日の前日までに3回接種ができなかった場合、誕生日以降の接種は有料となってしまうため注意が必要です。また、母子感染予防として出生時にB型肝炎ウイルスワクチンの接種を受けたことがある人は定期接種を受ける必要はありません。

3. 医療従事者などに対するワクチン接種

医療従事者は業務中の針刺し事故によりB型肝炎ウイルスに感染する危険性があります。また、警察官や消防士、B型肝炎ウイルスに感染している人と同居する家族はB型肝炎感染リスクが高いとされており、B型肝炎ウイルスワクチン接種が推奨されています。
(参考文献1)

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