監修医師:
伊藤 喜介(医師)
目次 -INDEX-
門脈圧亢進症の概要
門脈とは肝臓に入る血管の一つを指します。門脈は胃、腸、脾臓、膵臓などといった腹腔内の臓器から肝臓に血液を送る血管であり、特に腸から肝臓へ栄養素などのさまざまな物質を運ぶ働きをしています。
門脈圧亢進症とは何らかの原因により、この門脈の圧力が異常に上昇してしまった状態のことを指します。門脈圧が上昇するためには、肝臓を通り抜ける血液が滞る必要があります。肝臓から心臓へと血液を送る肝静脈、肝臓そのもの、肝臓に入るまでの門脈のいずれかに異常が起きた時に門脈圧の上昇が見られます。門脈圧が上昇したことにより、さまざまな症状を呈します。
門脈圧亢進症の原因
門脈圧が上昇する要因は、肝臓から心臓へと血液を送る肝静脈の異常による肝後性門脈圧亢進症、肝臓そのものの異常による肝内性門脈圧亢進症、肝臓に入るまでの門脈の異常による肝前性門脈圧亢進症に分類されます。
以下に、いくつかの原因となる疾患について説明していきます。
肝硬変
門脈圧亢進症の最も多い原因となる疾患となります。肝硬変とは肝炎などの病態により、肝臓内に繊維化が広がっていく疾患です。肝臓内が繊維化を起こすと組織が「硬く」なります。硬い組織では血管が広がりにくいため、肝臓へ多くの血液を送ることができません。門脈の血流が滞ってしまうことで、門脈圧の上昇が引き起こされます。
バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari症候群)
肝臓から心臓へと血液を送る肝静脈や肝部下大静脈が閉塞してしまう病気のことです。血栓形成や血液凝固異常などが原因と考えられていますが、原因不明である場合も多く見られます。肝臓から血液が流れ出ることができないため、肝臓に血液が溜まりうっ血を起こします。そして最終的には流入路である門脈圧の上昇が引き起こされます。
肝外門脈閉塞症
何らかの原因で肝臓に流入する門脈が閉塞してしまう疾患です。明らかな原因のない原発性肝外門脈閉塞症と、膵炎や胆嚢・胆管炎、腹腔内手術などの影響で門脈閉塞してしまう続発性肝外門脈閉塞症がみられます。門脈が閉塞してしまうため、それよりも腸や脾臓側では血流がうっ滞し、門脈圧の上昇が引き起こされます。
門脈圧亢進症の前兆や初期症状について
門脈圧亢進症は軽症の場合、症状を自覚することはほとんどありません。しかし、門脈圧亢進症が続くと、門脈血は肝臓を迂回するような流れである側副血行路を形成し流れていきます。これらによって以下のような病態を引き起こしさまざまな症状が現れます。
胃・食道静脈瘤
側副血行路の最も形成されやすい部位として、胃や食道の静脈の逆流があります。逆流した静脈は時に拡張してコブ状になり、このような状態を胃静脈瘤、食道静脈瘤といいます。拡張した血管は破れやすいため、破裂すると消化管内に出血し、吐血や下血を生じます。止血が遅れると死に至るような重篤な結果を引き起こす場合もあります。
脾腫・脾機能亢進
脾臓から門脈へと向かう血流が滞るため、脾臓の血流も滞ってしまいます。よって脾臓は腫大して脾腫を起こします。また、脾臓は古くなった白血球や血小板などの血液成分を壊す働きがあります。脾臓に血液が滞ることでこの働きが亢進し、結果として過剰な血液成分の破壊が起き、貧血、血小板減少、白血球減少を引き起こします。
腹水
門脈圧が上昇すると毛細管圧の上昇が起こり、肝臓や腸の表面から水分が漏れ出てきます。腹腔内に貯留すると腹水となります。量が増えるとお腹が張って苦しくなり、栄養が漏れ出ることで栄養の喪失が起こります。
肝性脳症
門脈圧が上昇すると肝臓へ流入する血液が減少します。アンモニアなどの毒素は肝臓で除去されますが、門脈圧亢進症では除去量が少ないまま全身に流れていきます。脳にアンモニアが貯留することで、意識障害、眠気などの症状を引き起こします。
気になる症状があるときは内科を受診しましょう。
門脈圧亢進症の検査・診断
下記に示すような検査を行い、先ほど示したような症状が見られた場合には臨床的に門脈圧亢進症があると判断されます。
採血
慢性肝疾患(肝不全)が併発していることが多いため、肝機能、凝固因子などを行います。また、血算で脾機能亢進の程度を確認します。
腹部超音波検査
侵襲の少ない簡便な検査です。肝硬変の確認だけでなく、脾腫や腹水を確認できます。また、ドップラー超音波検査で門脈の血流を確認することや、側副血行路の確認ができます。
腹部CT検査
肝前性や肝後性門脈圧亢進症の場合には、造影剤を用いて腹部CT検査を行うことで、閉塞部位を確認でき診断につながります。また、腹部超音波検査と同様に側副血行路を明瞭に観察することができます。
上部消化管内視鏡検査
いわゆる胃カメラであり、胃食道静脈瘤の診断に必要な検査となります。時に出血の前兆が確認できることがあり、予防的に静脈瘤の治療を行う場合もあります。
門脈圧亢進症の治療
門脈圧亢進症に対してはその治療だけでなく、引き続いて起こした病態に対しても治療を行う必要があります。
薬物療法
門脈圧降下を期待して、βブロッカー、バゾプレシン、ニトログリセリン、ソマトスタチン、スピロノラクトンなどを用いることがあります。
また、血栓が原因で起こっている場合にはヘパリン、ワルファリン、アンチトロンビンなどの抗血栓、抗凝固製剤を用います。
静脈瘤に対する治療
静脈瘤に対しては内視鏡下に硬化療法や結紮術を行います。また、胃静脈瘤に対してはバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BーRTO)というカテーテル治療を選択することもあります。
脾腫・脾機能亢進に対する治療
脾腫・脾機能亢進によって血小板減少が起こった場合は、カテーテルにて脾臓の体積を減らす部分的脾動脈塞栓術(PSE)と手術で脾臓を取り去る脾臓摘出術があります。脾臓を摘出してしまった後は感染症にかかりやすいため、肺炎球菌ワクチンの接種を必ず行います。
腹水に対する治療
腹水に対しては塩分制限による食事療法や利尿剤を用いた薬物療法を行います。栄養の喪失を防ぐため腹水穿刺は好んで行うことはありません。難治性の腹水となった場合には、腹水を静脈内に還流するデンバーシャントと呼ばれる治療を行う場合もあります。
肝性脳症に対する治療
肝性脳症に対しては蛋白制限による食事療法や、ラクツロースやマンニトールによる薬物療法などを行います。
門脈圧亢進症になりやすい人・予防の方法
門脈圧亢進症の最も多い原因は肝硬変症です。そのため肝硬変の方は門脈圧亢進症になりやすいと考えられます。しかし、門脈圧亢進症を予防する方法は存在しません。
よって、門脈圧亢進症に伴った病態を早期発見し、早期に治療介入することが重要となります。定期的に病院を受診し検査を行うことが大切です。
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