目次 -INDEX-

腹膜がん
木村 香菜

監修医師
木村 香菜(医師)

プロフィールをもっと見る
名古屋大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院や、がんセンターなどで放射線科一般・治療分野で勤務。その後、行政機関で、感染症対策等主査としても勤務。その際には、新型コロナウイルス感染症にも対応。現在は、主に健診クリニックで、人間ドックや健康診断の診察や説明、生活習慣指導を担当している。また放射線治療医として、がん治療にも携わっている。放射線治療専門医、日本医師会認定産業医。

腹膜がんの概要

腹膜がんは、腹腔内の臓器を覆う薄い膜である腹膜に発生する悪性腫瘍です。
このがんは一次性と二次性の2つに分けられます。 一次性腹膜がんは腹膜そのものに発生するもので、稀な疾患です。卵巣がんと似た特徴を持つため、時に診断が難しくなることがあります。
対して、二次性腹膜がんはほかの臓器、特に大腸や胃、卵巣などに発生したがんが腹膜に転移して広がるものです。二次性腹膜がんはより一般的であり、進行が早く、腹腔全体に拡散しやすいという特徴があります。

一次性腹膜がんと卵巣がんの違い

一次性腹膜がんは、卵巣がんと似た症状や組織学的特徴を持っています。しかし、卵巣そのものにはがんが発生しておらず、腹膜だけにがん細胞が発生する点が異なります。このため、診断時に卵巣がんと混同されることが少なくありませんが、治療方針や予後はやや異なる場合があります。

腹膜がんの原因

一次性腹膜がんの原因については、未だ詳しいメカニズムが解明されていませんが、卵巣がんと同様にBRCA1およびBRCA2遺伝子の変異が関与していると考えられています。これにより、特に家族に卵巣がんや乳がんの既往がある人は、一次性腹膜がんのリスクが高くなるとされています。加えて、環境因子や生活習慣もがん発生に寄与する可能性があります。

二次性腹膜がんの主な原因

二次性腹膜がんの発症は、ほかのがんからの転移によって引き起こされます。卵巣がん、大腸がん、胃がんのがんが腹腔内に広がることで腹膜に腫瘍が発生します。特に、腹腔内に浸潤性の高いがんでは、腹膜への転移が多く見られ、治療が複雑化することが多いです。

腹膜がんの前兆や初期症状について

腹膜がんは、早期には特異的な症状が現れにくい疾患であるため、発見が遅れがちです。しかし、がんが進行するにつれて、いくつかの前兆や初期症状が現れることがあります。これらの症状は、ほかの消化器系の疾患と重なるため注意が必要です。

腹部膨満感と腹痛

腹膜がんの最も一般的な初期症状として、腹部膨満感があります。これは、腹腔内にがんが広がることで臓器が圧迫されることや、がんによる炎症反応で腹腔内に液体がたまる腹水が原因です。腹水の蓄積が進むと、腹部が張った感覚や膨張感が強くなり、時に圧痛を伴うこともあります。腹痛も同様に、腫瘍が臓器や神経を圧迫することで生じるため、軽度の痛みから重度の痛みまでさまざまです。痛みが持続的に続く場合は、がんの進行が疑われるため、早急な診察が必要です。

消化器症状

腹膜がんが進行すると、消化器系に影響を及ぼし、便秘や下痢、消化不良、食欲不振といった症状が見られることがあります。これらの症状は、がんが消化管を圧迫したり、腫瘍が腸管の正常な動きを阻害することで発生します。特に食欲不振や早期満腹感は、患者さんが体重を急激に減少させる要因となります。これに伴う栄養不足が患者さんの全身状態を悪化させている可能性があり、がんが進行している兆候とみなされます。

腹水の発生とその影響

腹膜がんの進行に伴って、腹腔内に腹水が蓄積することが多く、これが腹部膨満感を引き起こす主な原因となります。腹水が大量に溜まると、腹部の不快感だけでなく、呼吸困難や食欲不振も引き起こすことがあります。腹水が溜まりすぎると、穿刺による排液が必要となる場合がありますが、これは症状の緩和を目的とした対症療法にすぎず、がんの根本的な治療とはなりません。

全身症状

腹膜がんの進行によって引き起こされる全身症状には、著しい体重減少全身倦怠感発熱などが挙げられます。これらの症状は、がんによる栄養吸収不良や免疫反応、炎症の影響によるものであり、がんが進行するにつれて悪化することが多いです。特に体重減少は、多くのがんに共通する症状であり、急激な減少が見られた場合には早急に医療機関を受診することが推奨されます。

どの診療科目を受診すべきか

腹膜がんが疑われる場合、最初に受診すべき診療科は、消化器内科や婦人科、腫瘍内科です。腹部の不快感や消化器症状が主であれば、消化器内科が適していますが、婦人科症状や卵巣がんの既往歴がある場合は婦人科も考慮されるべきです。また、がんの専門医によるさらなる検査が必要になる場合があります。

腹膜がんの検査・診断

腹膜がんの診断には複数のアプローチが必要です。まず、腹部の超音波検査やCTスキャン、MRIなどの画像診断が行われ、腫瘍の位置や広がりを評価します。さらに、血液検査により腫瘍マーカー(CA125やCEAなど)の値を測定し、がんの存在を示す手がかりとします。

腹腔鏡検査の重要性

画像診断だけでは確定診断が難しい場合、腹腔鏡検査が行われます。この手法では、腹部に小さな切開を入れて内視鏡を挿入し、腹膜や周囲の臓器を直接観察します。必要に応じて、病変部から組織を採取し、病理検査によりがんの種類や進行度を判断します。腹腔鏡検査は正確な診断に欠かせない重要な手法です。

腹膜がんの治療

腹膜がんの治療は、がんの進行度や患者さんの全身状態に応じて異なります。主な治療法は手術と化学療法です。手術では、可能な限り腫瘍を切除し、化学療法で残存するがん細胞を攻撃します。

腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の役割

腹腔内温熱化学療法(HIPEC)は、手術後に温めた抗がん剤を直接腹腔内に投与する治療法で、残存する微小ながん細胞を効果的に攻撃することができるとされています。この方法は、特に進行がんにおいて有望視されており、生存率の改善が期待されています。

化学療法の進歩

標準的な化学療法に加えて、近年では免疫療法や分子標的療法が注目されています。これらの新しい治療法は、がん細胞に特異的に作用し、副作用を最小限に抑えることを目指しています。特に、BRCA1やBRCA2遺伝子変異を持つ患者さんに対しては、パープインヒビター(PARP阻害薬)などが有効な治療選択肢として期待されています。

腹膜がんになりやすい人・予防の方法

腹膜がんのリスクが高い人には、卵巣がんや大腸がんの既往歴がある人、BRCA1BRCA2遺伝子に変異を持つ人が含まれます。特に、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)に該当する女性は、一次性腹膜がんのリスクが高いことが知られています。また、慢性的な腹部の炎症や家族性大腸腺腫症などの遺伝的要因もリスクを高める要素となることがわかっています。

腹膜がんの予防法

腹膜がんそのものの予防策は明確に確立されていませんが、リスクを減らすためにいくつかの方策が考えられます。特に卵巣がんや大腸がんのリスクを持つ人は、定期的な健康診断やスクリーニング検査を受けることが推奨されます。具体的には、腫瘍マーカー(CA125など)の定期的な測定や、超音波検査CTスキャンなどの画像診断が有効です。早期発見ががんの進行を抑えるための鍵となります。

健康的な生活習慣の維持

日常生活において、バランスの取れた食事や適度な運動、禁煙、過度の飲酒を避けることが、がん全般のリスクを減らすために推奨されます。特に肥満はさまざまながんのリスクを高める要因となるため、適正体重を維持することが大切です。また、抗酸化作用を持つ食品や食事バランスの改善が、全身の健康を保つうえで役立つ可能性があります。健康的な生活習慣は、腹膜がんを含むがん全般の予防に寄与すると考えられています。


関連する病気

この記事の監修医師