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肝臓病
田中 茉里子

監修医師
田中 茉里子(医師)

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・弘前大学医学部卒業 ・現在は湘南鎌倉総合病院勤務 ・専門は肝胆膵外科、消化器外科、一般外科

肝臓病の概要

肝臓病は、肝臓がウイルスや生活習慣などが原因で正常に機能しなくなる病気です。

肝臓病は、急性と慢性に分類され、それぞれ特徴が異なります。急性肝臓病の代表例としては、B型ウイルス肝炎やC型ウイルス肝炎などの急性肝炎や、服用した薬剤によって生じる薬剤性肝障害などが挙げられます。
一方、慢性肝臓病には、慢性肝炎や肝硬変、肝臓がんなどがあります。

肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、症状があらわれるまでには時間がかかるため「気付いたときにはすでにあらゆる損傷を与えていた」というケースも多いです。

そうならないように、定期的な検査が非常に重要です。初期段階で病気を発見し、適切な治療を行うことで進行を抑えることができ、肝臓の再生能力を生かして機能回復も期待できます。

肝臓病

肝臓病の原因

代表的な肝臓病の原因として、ウイルス感染、生活習慣、薬剤、自己免疫異常などが挙げられます。

ウイルス感染

ウイルス感染では、主にB型肝炎やC型肝炎などのウイルスが原因で肝臓に炎症を引き起こします。B型肝炎は体液や血液を介して感染し、C型肝炎は主に血液を介して感染します。慢性化すると肝硬変や肝臓がんのリスクが高まります。B型肝炎はワクチン接種で予防可能ですが、C型肝炎はワクチンが存在しないため、感染の早期発見と治療が重要です。

B型肝炎ウイルスの罹患者は約100万人、C型肝炎ウイルスの罹患者は、感染していることに気付かず受診していない人を含めると、約230~280万人と言われています。
(出典:一般社団法人 日本肝臓学会「肝臓病の理解のために」

生活習慣

アルコール摂取や肥満、メタボリックシンドロームなどの生活習慣が影響して肝臓病を引き起こす場合もあります。

たとえば、長期的かつ過剰なアルコール摂取は、肝臓に負担が大きくかかり、アルコール性肝炎、肝硬変、さらには肝臓がんなどを引き起こすことがあります。アルコールは肝臓で分解される過程で「アセトアルデヒド」と呼ばれる毒素を作り出し、アセトアルデヒドが肝臓の細胞に損傷を与えます。

また、非アルコール性のものとして、肥満や糖尿病、メタボリックシンドロームが原因となり、肝臓病を引き起こします。非アルコール性の肝臓病には、良性である脂肪肝と肝硬変や肝臓がんを発症する可能性があるものがあるため、アルコールを摂取していなくても油断してはなりません。

薬剤

長期間にわたる薬物の使用が肝臓病を発症することもあります。特に肝臓で代謝される薬物は、肝臓に負担をかけ、肝障害を引き起こしやすいです。抗がん剤や抗生物質が一例として挙げられます。
近年では、薬剤とは少し異なりますが、健康食品やサプリメントによる肝臓病も増加しています。

自己免疫異常

自己免疫システムの異常によって、自分の肝細胞を攻撃することで引き起こされる肝臓病です。原因は明確ではなく、治療しないと肝硬変に進行するリスクがあります。

肝臓病の前兆や初期症状について

肝臓病は、初期段階で自覚症状がほとんどあらわれないため、病気が進行するまで気づかず、進行してから症状に気付くケースは珍しくありません。代表的な症状は以下のとおりです。

疲労感と倦怠感

肝臓の機能が低下すると、体内でのエネルギー生産が不十分になるため、慢性的な疲労感や倦怠感を感じることがあります。休息を取っても疲れが取れない場合は、肝臓に問題がある可能性があります。

黄疸

肝臓が運ばれてきたビリルビン(赤血球が分解されるときに生じる色素)を処理できなくなると、血中にビリルビンが蓄積し、皮膚や眼の白い部分が黄色くなる黄疸があらわれます。黄疸が見られた場合、肝臓の障害が進行しているサインになります。

食欲不振や体重減少

肝臓病が進行すると、肝臓で作られる消化液「胆汁」の分泌量が減るため消化機能が低下し、食欲不振や急激な体重減少が見られることがあります。

右上腹部の痛み

肝臓が腫れると、右上腹部に痛みや不快感が生じることがあります。特に進行した肝硬変や肝臓がんでは、この症状が顕著に現れます。

むくみや腹水

肝機能が低下すると、体内の水分バランスが崩れ、足のむくみや腹部に水が溜まる腹水が見られることがあります。この症状が見られた場合も肝臓病が進行している可能性があります。

肝臓病の検査・診断

肝臓病では、必要に応じて下記の検査を行います。

血液検査

血液中のALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)やAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)といった肝酵素の数値を確認することで、肝細胞の損傷や炎症が起きていないかが分かります。
また、ビリルビン値、アルブミン値、プロトロンビン時間(血液が固まる時間)など、肝臓の機能状態を把握できる指標の確認も重要です。

また、ウイルス性肝炎の検査として血液検査の一種である「肝炎ウイルスマーカー検査」も行われます。B型肝炎やC型肝炎のウイルスなどが体内に存在するかどうかを調べるために、血液中のウイルス抗原や抗体を測定します。

画像診断

肝臓の状態を詳細に把握するために、超音波検査(エコー)やCT、MRIといった画像診断が用いられます。肝臓の形状や大きさ、腫瘍・肝硬変の有無などを確認できます。

肝生検

肝生検は、肝臓の一部組織を採取して調べる検査です。肝炎や肝臓がん、線維化の進行程度などを調べるのに有効ですが、侵襲的な検査のため、必要に応じて行われます。

肝臓病の治療

肝臓病の治療は、原因や進行度に応じて異なります。主な治療方法として、生活習慣の改善とともに薬物療法や重症の場合には外科的治療が行われます。

肝炎

肝炎の治療は、ウイルス性、アルコール性、非アルコール性など原因によって異なります。ウイルス性肝炎の場合、B型肝炎には抗ウイルス薬が使われ、C型肝炎にはインターフェロンや直接作用型抗ウイルス薬が有効です。
アルコール性肝炎の場合は、アルコールを完全に断つことが基本的な治療となり、重度の場合はステロイド剤などによる治療が行われることもあります。
また、非アルコール性脂肪肝炎の場合は、食事や運動の改善が治療の中心となります。

肝硬変

肝硬変は、肝臓が長期にわたり損傷と再生を繰り返すことで硬くなり、正常な機能を果たせなくなった状態です。そのため、肝硬変の治療は進行を遅らせることが主な目的となります。

肝硬変を生じた原因(ウイルス感染やアルコールなど)を取り除くことが有効な治療となります。たとえば、アルコール性の場合は禁酒とともに栄養状態の改善や利尿薬の処方が行われます。

また、肝硬変では、腹水や黄疸などのさまざまな合併症を引き起こすため、合併症に応じた治療も必要となります。

肝がん

肝がんの治療は、手術やラジオ波焼灼療法、エタノール注入療法など、がん細胞を直接除去もしくは破壊する治療が行われます。
他にも、抗がん剤や免疫療法、分子標的薬といった薬物治療、放射線治療、肝臓移植などが行われることもあります。

肝臓病になりやすい人・予防の方法

長期的かつ過剰なアルコール摂取をしている人や、メタボリックシンドローム、糖尿病などの生活習慣病がある人は肝臓病になりやすいです。これらによって引き起こされるアルコール性肝疾患や非アルコール性肝疾患は、肝硬変や肝臓がんに進行するおそれがあるため注意が必要です。

また、肝臓病のなかには遺伝的要因で発症リスクが上がるものもあるため、家族に肝臓病の既往歴がある人も肝臓病になりやすい傾向があります。

予防の方法としては、まずアルコールの摂取量を控えることが重要です。適量を守り、肝臓に負担をかけない生活を心がけましょう。また、バランスの取れた食事と適度な運動は、肥満や生活習慣病を防ぐことも不可欠です。

また、ウイルス性肝炎の予防として、B型肝炎の予防接種を受けることが推奨されます。感染を防ぐために血液や体液に触れないようにすることも大切です。

加えて、肝臓病は症状に気付かないことが多いため、定期的な健康診断も行うとよいでしょう。


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