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乳がんの死亡率はどれくらい改善されたのか? 90年代から大幅に改善【医師による海外医学論文解説】

 更新日:2023/07/11

イギリスのオックスフォード大学らの研究グループは、早期浸潤性乳がん女性の予後は1990年代以降大幅に改善され、ほとんどの人が長期がんサバイバーとなっているものの、依然として少数例で予後不良リスクが伴うことを報告しました。この研究結果は、2023年6月13日に「BMJ」に掲載されました。こちらの研究報告について甲斐沼医師に伺いました。


甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

発表された研究内容とは?

イギリスのオックスフォード大学らの研究グループが発表した研究内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回紹介する研究は、イギリスのオックスフォード大学らの研究グループによるものです。研究グループは、1993年1月~2015年12月にイギリスで早期浸潤性乳がんと診断された患者51万2447例を特定し、2020年12月まで追跡調査を行いました。対象者は診断年によって1993~99年、2000~04年、2005~09年、2010~15年の4つに分類されました。解析の結果、乳がん年間粗死亡率は、いずれの診断年の分類でも、診断後2年間に増加して3年目にピークを迎え、その後は低下していました。また、乳がん年間死亡率と累積死亡リスクは、診断時暦年が近年になるほど低下する結果となっています。乳がん5年粗死亡率は、1993~99年に診断された患者では14.4%でしたが、2010~15年に診断された患者では4.9%でした。しかしながら、2010~15年に診断された患者のみについて解析した場合、5年累積乳がん死亡率は異なる特性の組み合わせによって大きなばらつきがあり、62.8%を占める特性群の5年累積乳がん死亡率は3%未満でしたが、4.6%を占める特性群では20%以上でした。研究グループは論文で、「最近診断された患者の5年間の乳がん死亡リスクは、現在の患者の乳がん死亡リスクの推定に使用できる。早期浸潤性乳がんの患者の予後は1990年代から大幅に改善した。少数の患者ではリスクは依然として高いが、大半は長期間のがんサバイバーになることが期待できる」と結論づけています。

発表内容への受け止めは?

今イギリスのオックスフォード大学らの研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

早期浸潤性乳がんの診断を受けた患者の乳がんによる死亡リスクは、過去数十年単位で低下傾向であることがこれまでの研究で示唆されてきましたが、実際にどの程度低下したのか、あるいはどのような患者で低下したのかなど詳細な項目については明確になっていませんでした。今回、Taylor氏らの研究結果によって、早期浸潤性乳がん患者の予後が大きく改善したことが示されて、早期浸潤性乳がん患者とその治療を行う臨床医にとって最新データに基づく可能性の高い予後の推定を提供できるものと考えられます。ただし、この研究においては死亡リスク低下の直接的な原因を特定することはできず、がんの再発に関する情報も入手できなかった点などが限界点として挙げられます。

早期浸潤性乳がんとは?

今回の論文のテーマになった早期浸潤性乳がんについて教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

乳がんは乳腺に発生するがんで、女性が罹るがんの中で最も多いものです。日本人では40〜50代女性の発症が多く、全体の半数近くが、乳首を中心として外側の上部分にできるという調査結果があります。乳がんは、がん細胞の広がり方によって、大きくは非浸潤がんと浸潤がんに分類されます。非浸潤がんは、母乳を作成して乳頭まで届ける小葉と乳管内にがん細胞がとどまっているがんです。今回紹介した論文で扱っている浸潤がんは、乳管の外側に存在する基底膜をこえて、がん細胞が乳管の外の間質に広がっているものを指します。間質には血管やリンパ管が存在するため、浸潤がんでは乳房を超えてほかの臓器にがん細胞が転移する可能性が出てきます。非浸潤がんの段階で適切な治療を受ければ治ることが見込まれ、浸潤がんも浸潤が小さいうちに治療を受ければ、多くのケースで治ることが期待できるとされています

まとめ

イギリスのオックスフォード大学らの研究グループが、早期浸潤性乳がん患者の予後は1990年代以降に大幅に改善され、多くの人が長期がんサバイバーとなっているものの、依然として少数例で予後不良リスクが伴うことを報告したことが今回の研究発表で分かりました。乳がんは、日本で女性が罹るがんの中で最も多いがんであるため、このような予後についての研究は注目を集めそうです。

原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=37311588&keiro=journal

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