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腸内環境が新型コロナワクチンの抗体価にも影響か【医師による海外医学論文解説】

 更新日:2023/01/30

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究グループは、腸内細菌叢(腸内フローラ)と食物繊維が新型コロナウイルスのワクチン接種後の抗体に影響していることを学術誌で発表しました。この研究結果は、2022年12月22日に「Gut誌オンライン版」に掲載されました。こちらの研究報告について甲斐沼医師に伺いました。


甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

研究グループが発表した内容とは?

カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究グループが発表した内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究グループは、新型コロナワクチンに対するスパイク蛋白質の競合結合抗体値およびIgG値が高い被験者は、ベースライン時のPrevotella、Haemophilus、Veillonella、およびRuminococcus gnavusといった腸内細菌のグループの数が多かったことを示しました。この結果について研究グループは、腸内フローラの構成や機能の差が新型コロナワクチンに対する抗体反応を制御することを裏付けるものだと述べています。また新型コロナワクチンが誘導した抗体結合の成熟度と腸内フローラとの関連についても探索した結果、Bifidobacterium bifidum、Acidaminococcus intestiniという腸内細菌は抗体結合親和性を増強させることと負の関連、Bifidobacterium animalis、Bacteroides plebeius、Bacteroides ovatusは正の関連があったということです。研究グループは、今回の結果から、一部の腸内細菌が新型コロナワクチンの接種により引き起こされるIgGの機能的結合を増強する可能性を示すことについてのエビデンスが得られたと述べています。また、細菌の発酵基質である食物繊維の摂取量の違いが、IgGの結合強度に影響するか調べたところ、食物繊維摂取量が多い人は、新型コロナワクチンの初回接種から2回目接種までの結合親和性の変化量が有意に大きくなりました。このことから、食物繊維の摂取量が新型コロナワクチンに対する反応の成熟度を制御している可能性が示唆されたほか、食物繊維摂取量が多い人はワクチン接種後の総BCFA = 分枝鎖脂肪酸の値も減少したとしています。

発表内容の受け止めは?

カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

ヒトの腸内フローラと新型コロナウイルスワクチンに対する抗体反応との間にはこれまでの研究でもある程度の関係性があることは示されてきましたが、今回のカナダからの研究報告はこれらの仮説を裏付ける結果となり、Gut誌オンライン版で公表されたものになります。この研究発表を受けて、新型コロナワクチンの免疫原性として、腸内細菌の蛋白質発酵に由来する分枝鎖脂肪酸(BCFA)値が負の影響を与える一方で、食物繊維の摂取量が正の影響を与える可能性が示唆されたことになります。

今後の研究に期待することは?

カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究グループが今回の研究で、腸内フローラと食物繊維が新型コロナのワクチン接種後の抗体に影響していることを示しましたが、今後の研究に期待することを教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回の研究結果によって、新型コロナウイルスの感染率や合併症リスクと腸内環境の個人差が影響している可能性があると推察されます。したがって、同じ日本人でも、新型コロナウイルスの感受性や新型コロナに伴う合併症のリスクに違いが生じるのは、それぞれの異なる腸内細菌の割合や代謝物質の濃度が、新型コロナウイルス感染症における合併症の発症リスクに関連している可能性が予測されます。今般の新型コロナウイルス感染症の臨床像では、腸内細菌が合成する短鎖脂肪酸、糖代謝物質、神経伝達物質とも関連しており、特定の細菌や代謝物質を介して、外部から侵入してきたウイルスなどから身体を保護するために、生体内でユニークな免疫応答がみられると想像されています。
今後期待される研究テーマとしては、ヒトの腸内環境が新型コロナウイルスワクチンの接種効果や副反応の個人差にまで影響しているか関連性が位置付けられるかが焦点となると考えられます。

まとめ

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の研究グループが、腸内フローラの構成と食物繊維の摂取量が新型コロナウイルスのワクチン接種後の抗体に影響していることを学術誌で発表しました。今後さらに研究が進むことで、新型コロナウイルスワクチンの有効性の開発に役立てられる日がくることを望みます。

原著論文はこちら
https://gut.bmj.com/content/gutjnl/early/2023/01/05/gutjnl-2022-328556.full.pdf

この記事の監修医師