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重症円形脱毛症、バリシチニブが毛髪再生を促すとの研究結果【医師による海外医学論文解説】

公開日:2022/05/13

アメリカ・イエール大学の研究グループは、重症の円形脱毛症患者にヤヌスキナーゼ阻害薬のバリシチニブを投与する臨床試験で、脱毛範囲が縮小した患者の割合が投与していないグループに比べて約3割高くなったと報告しました。この報告は、2022年3月26日のNEJM誌電子版に掲載されました。この研究報告について松澤医師に伺います。

松澤 宗範 医師

監修医師
松澤 宗範(医師)

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2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会

イエール大学の研究グループの報告内容とは?

イエール大学の研究グループが報告した研究内容について教えてください。

松澤 宗範 医師松澤先生

今回の研究はアメリカのイエール大学のブレット・キング氏らの研究グループによるもので、研究結果は今年3月26日のNEJM誌の電子版に掲載されています。研究グループは、10カ国の169施設で臨床試験を行いました。対象になる患者を選ぶためにSALTスコアと呼ばれる指標を利用しました。SALTスコアは脱毛が見られない状態の0から、頭部全体が脱毛している状態の100までの範囲を表します。研究グループは脱毛状態が半年以上8年未満で持続しており、半年以内にSALTスコアが10点以上となった患者を対象としました。対象になった患者のうち、53.2%がSALTスコアで95~100に該当する重篤な円形脱毛症で、90.6%は何らかの治療を受けた経験を持っていました。研究グループは対象患者を、バリシチニブ4mg、2mg、偽薬を投与するグループに分けて臨床試験を行い、試験期間中はほかの治療を受けないように同意を得て試験を進めました。試験は2019年3月に始まったもの(試験①)と、2019年7月から開始されたもの(試験②)の2つの回に分けて実施され、それぞれ654人と546人の患者が分析対象になりました。36週時点でSALTスコアが20以下になっていた患者の割合は、試験①のバリシチニブ4mg投与グループでは38.8%、2mg投与グループでは22.8%、偽薬投与グループは6.2%でした。試験②の4mg投与グループでは35.9%、2mg投与グループでは19.4%、偽薬投与グループは3.3%となり、2つの試験回ともに有意な差が出たということです。

円形脱毛症とは?

今回の研究テーマになった円形脱毛症について教えてください。

松澤 宗範 医師松澤先生

円形脱毛症は、頭髪に自己免疫反応というものが起きて起こります。自己免疫反応は体内に異物が入ってきた際に、異物を攻撃するTリンパ球が正常な細胞も攻撃してしまうことでおこります。Tリンパ球が毛根を攻撃することで髪の毛が抜けてしまうのです。原因はストレスや睡眠不足、疲労、出産、ケガ、風邪など様々な要因が指摘されています。また、円形脱毛症には複数の種類があり、脱毛が1か所であれば単発型、2か所以上は多発型と分類され、脱毛範囲が頭皮の25%以上になると重症となります。急性期で軽症の円形脱毛症の治療はステロイド外用薬を主体に治療を行い、セファランチンや抗ヒスタミン薬の内服や紫外線療法も適宜併用します。急性期で重症の場合はステロイドパルス療法を行い、症状固定期の軽症患者でステロイド外用療法が効かない場合はステロイド局所注射を行います。さらに症状固定期の重症例では局所免疫療法を行いますが、局所免疫療法はどこの医療機関でも受けられるものではなく、保険対象ではありません。

研究グループの報告内容の受け止めは?

研究グループの報告内容に対する受け止めを教えてください。

松澤 宗範 医師松澤先生

ヤヌスキナーゼ(Janus kinase:JAK)阻害薬はチロシンキナーゼであるJAKを標的とした分子標的薬です。円形脱毛症では細胞傷害性T細胞、および毛包上皮細胞ともにJAK-STATシグナル伝達経路を介して活性化する病態が考えられており、JAK阻害薬による円形脱毛症の治療は従来の治療法に比べて、病気のメ力ニズムに基づいた治療です。従来の円形脱毛症に対する治療法は、重症例や難治例に対する効果は乏しいという現状があったので、新しい治療法として選択肢が増え、治療効果をさらに上げることが期待されます。

まとめ

アメリカ・イエール大学の研究グループが、重症の円形脱毛症患者にヤヌスキナーゼ阻害薬のバリシチニブを投与する臨床試験で、脱毛範囲が縮小した患者の割合が投与していないグループに比べて約3割高くなったと報告したことが今回明らかになりました。今後もこうした研究が進み、治療の選択肢が増えることが期待されます。

原著論文はこちら
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2110343