歯科治療で金属を使うことにリスクはあるの? 台頭してきた「メタルフリー」とは
歯の治療に銀歯(金銀パラジウム合金)を選択することは、保険適用も認められた公的な治療です。一方、近年では、歯科治療に用いることのリスクも取り上げられるようになり、「メタルフリー」という治療法を選択する人も増えています。一体、歯科治療に金属を使うことに、どのようなリスクが考えられるのでしょうか。シールズデンタルクリニックの大石知弘先生に教えてもらいました。
監修医師:
大石 知弘(シールズデンタルクリニック 院長)
2012年明海大学歯学部卒業。2013年明海大学歯学部付属明海大学病院臨床研修課程修了、明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科入局。2014年同科退局後、都内某歯科医院とさいたま市某歯科医院にて勤務。2018年シールズデンタルクリニック開院。「セルフケア向上による根本治療」をコンセプトに、一人ひとりに合った口腔内の環境改善法をコーディネート。地元である池袋を口腔内から日本一健康な地域にしたいと思い、この地に開院した。
歯科治療での金属アレルギーのリスクとは?
編集部
歯科治療では、どんなときに金属を使うのですか?
大石先生
歯が欠けてしまったり、割れてしまったり、むし歯を削ったりしたとき、歯に詰め物や被せ物をすることがありますが、それらの材料として主に銀歯が使われることが多かったのです。
編集部
具体的に、銀歯はどのような素材なのですか?
大石先生
銀歯は金銀パラジウム合金という素材でできています。それから最近ではほぼ行われなくなっていますが、数十年前までは歯に詰め物をする際、アマルガムという素材を使うのが一般的でした。これは水銀を多く含む物質です。
編集部
「歯科治療に金属を使わないほうがいい」ということを耳にするときがあります。本当なのでしょうか?
大石先生
そういう考え方もあります。金銀パラジウム合金の場合は、唾液で溶かされるとイオン化して体内に蓄積し、突然、金属アレルギーを起こすことがあるからです。また、アマルガムは水銀を多く含んでいることからもわかる通り、非常に有害な物質です。しかし、保険適用外ですが、金合金である白金加金などは口腔内で大変安定しており、金属アレルギーを起こしにくく、現在でもメタルボンドクラウン(金属焼き付け陶材冠)のベースの金属として使用している歯科もあります。
編集部
もし金属アレルギーになると、どうなるのですか?
大石先生
たとえば、銀歯を入れたあたりが炎症を起こし、赤くなることがあります。さらにアレルギーの元となるアレルゲンは全身を巡り、頭や足などあちこちに症状を出す可能性があります。手足に皮膚疾患が出て激しいかゆみを引き起こしたり、円形脱毛症になったり、頭痛、肩こり、めまいなどの不定愁訴を引き起こしたりすることが考えられます。
金属を使わないメタルフリーとは
編集部
銀歯を使いたくない場合、どのような治療法があるのですか?
大石先生
近年では「メタルフリー」と呼ばれる治療を行うケースが増えてきました。これは文字通り、金属を使わない治療法。金属アレルギーのリスクがないので、すでに金属アレルギーを発症してしまった方だけでなく、金属アレルギーが心配な方にも選択されています。
編集部
メタルフリー治療とは、どのようなものですか?
大石先生
銀歯の代わりに、セラミックやレジン(医療用樹脂)を使って治療します。よく用いられるのがセラミック。セラミックとは陶器の一種です。茶碗などに使われる真っ白な陶器といえばピンとくる人も多いでしょう。
編集部
従来の銀歯に比べて、セラミックにはどのようなメリットがあるのですか?
大石先生
まずはもちろん、金属アレルギーの心配がないということ。また、真っ白で美しく、審美性が高いということもメリットです。「銀歯の詰め物や被せ物をすると目立つので嫌だ」という人でも、メタルフリーなら安心です。
編集部
確かにメタルフリーの方が変に目立たず、満足いく仕上がりになりそうです。
大石先生
それから銀歯に比べてセラミックは、むし歯のリスクが低くなるというのもメリット。なぜならセラミックは物質の特性として、プラークを寄せつけにくいからです。そのため、むし歯や歯周病のリスクを下げるだけでなく、口臭の予防にも効果的です。
編集部
セラミックの治療は、どのように行われるのでしょうか。
大石先生
一口にメタルフリーの詰め物や被せ物といっても、実はさまざまな種類があります。100%セラミックで作られた詰め物や被せ物を使用する方法や、歯の表側を薄く削り、その表面にセラミックを貼る方法(ラミネートベニア)、また、人工ダイヤモンドと言われるジルコニアを使ったものなどさまざまです。それぞれ審美性も少しずつ異なるので、目的や予算に応じて選ぶと良いと思います。
編集部
人工ダイヤモンドを使う治療もあるのですね。
大石先生
セラミックとジルコニアを比較すると、セラミックの方がジルコニアよりも透明度に勝り、複雑な色味を出すことができるので、審美的な面ではセラミックに軍配が上がります。しかし、ジルコニアのメリットはとても強度が高いこと。そのため、奥歯など噛む力が強い歯の治療には適しています。このように、素材によって特徴が異なるので、どの歯に治療を行うのか、何を優先したいのかなどを考慮しながら素材を選ぶと良いでしょう。
セラミック治療の注意点
編集部
メタルフリーのメリットはわかりました。しかし、デメリットはないのでしょうか?
大石先生
気をつけたいのが、強度の問題です。以前と違って、近年のセラミックは非常に性能が良く、強度も高くなってきましたが、それでも従来の銀歯と比べると強度の点では劣ります。欠けたり、割れたりする可能性はゼロではありません。
編集部
それは困ることもありそうですね。
大石先生
しかし、欠けたり割れたりするのは必ずしも悪いことではありません。銀歯は、割れることはありませんが、変形することがあります。そのため、口のなかで詰め物が変形することにより、歯と詰め物の間に隙間ができ、むし歯の温床になることがあるのです。長い目で見ると、銀歯の方が歯を失う原因になりやすく、そうした意味では、セラミックの方が優れていると言えるかもしれません。
編集部
それでは、どんな人はセラミックの治療を注意した方が良いのでしょうか?
大石先生
まず、歯ぎしりや食いしばりの習慣がある人。それから、噛む力が強い人もセラミックだと欠けたり割れたりするリスクがあります。その場合、ジルコニアを選んだ方が良いでしょう。
編集部
ほかに、注意したほうが良いケースはありますか?
大石先生
普段から知覚過敏で歯がしみる人や、歯がぐらぐらしている人も注意が必要です。その場合はまず、マウスピースを使って噛み合わせを調整したり、噛み合わせの力を軽減したりしてから、詰め物などの治療を行う必要があるかもしれません。まずは歯科医師に相談することをお勧めします。
編集部
メタルフリーの治療は保険が適用になるのですか?
大石先生
いいえ、メタルフリーの治療は保険が適用になりません。ただし、治療する歯の位置によってはCAD/CAM装置使用に限り、ハイブリッドセラミックレジン冠での治療が保険適用になります。また、金属アレルギーの診断を受けている場合は、条件つきで保険適用になることもあります。詳しくは歯科医師に相談してみてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
大石先生
銀歯を除去してセラミックに置き換えるだけで、頭痛やめまいなど、体の不調が改善され、QOL(生活の質)が上がったという人も少なくありません。これから行う治療をメタルフリーにするだけでなく、口のなかを見直すことも大切。体のなかからメタルフリーをめざしましょう。
編集部まとめ
銀歯の中でも、とりわけアマルガムが残っている人は要注意です。アマルガムは水銀を多く含む物質で、水銀は体に重篤なリスクをもたらします。特に、アマルガムが日本でよく用いられた年代を考えると、現在、60代以上の人は口のなかにアマルガムが残っていないかよく見た方が良さそうです。
医院情報
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