柳沢先生
事前に黒木さんには、自分の睡眠タイプを調べることができる「朝型夜型質問票」に答えていただいたと思うのですが、結果は「超朝方」でしたね。
図1:黒木瞳さんの朝型夜型質問票結果
黒木さん
「超朝方」の人は少ないのですか?
柳沢先生
はい。朝方でも夜型でもない、「中間型」の人が一番多いですね。朝方、もしくは夜型に移行してくと人数は少しずつ減っていきます。最近の睡眠状況はいかがですか?
黒木さん
撮影で朝早くから深夜までの仕事が入ると、睡眠が不規則になることもありますね。
柳沢先生
何時に寝て、何時に起きますか?
黒木さん
仕事がないときは遅くても9時までには寝て、朝は4〜5時の間には起きます。
柳沢先生
筋金入りの朝型ですね。若い頃から、生活は朝方でしたか?
黒木さん
10代の頃は、深夜に勉強したりしていたので夜型だったと思います。規則正しい舞台の世界に入った時は、それに合わせて睡眠も取るようにしていましたね。その後、女優になってからは撮影に合わせなければならないので、睡眠も不規則になっていったと思います。
柳沢先生
舞台をやっていた頃は、朝方の生活に合わせるトレーニングはしましたか?
黒木さん
トレーニングは特にしませんでしたね。感覚的に朝の方が何をするにもはかどるので、自然に朝方になっていったと思います。早起きは三文の徳とも言いますし。
柳沢先生
朝型や夜型は、トレーニングをすることで社会に合わせていくことは可能です。しかし、生まれつきの遺伝子で決まっている一種の体質なので、極端に変えることは出来ないと考えられています。
黒木さん
朝方や夜型は、遺伝で決まっているんですね。
柳沢先生
はい。それだけではなく、年齢によっても変化します。(図2)横軸が年齢を表しています。縦軸は上にいくほど夜型、下に行くほど朝型です。この図を見ていくと、10歳の子どもは朝方で、思春期から20歳にかけて急に夜型になっていきます。その後、30〜80代と年齢とともに、徐々に朝方に戻っていきます。
図2:年齢別朝型夜型分布
黒木さん
朝方や夜型はそれぞれ、健康面に影響などはありますか?
柳沢先生
例えばメンタルの不調やうつ病については、朝方の人でリスクが低下すると言われています。理由は明らかになっていませんが、社会は基本的に朝型の人に有利にできているので、ストレスの影響を受けにくいことも要因と考えられています。
黒木さん
実は、私も30歳くらいの時に蕁麻疹が出て、心療内科を受診したことがありました。その時、医師にはストレスの中でも特に、時間に関係するストレスが原因だと言われましたね。
柳沢先生
生活スタイルの変化が、ストレスに繋がったのでしょうね。
黒木さん
そうですね。1日って朝から始まるけど、撮影は朝も夜も関係ないじゃないですか。夜の仕事がある時は、日中もずっと緊張をしているので、かなりストレスを感じていましたね。朝方や夜型という体質は遺伝で決まるということは、改善方法はないのでしょうか?
柳沢先生
体質自体を変えることは、難しいと思います。ただ、夜型の人は体内時計が遅れやすいので、それを予防するような生活習慣を意識したほうが良いと思いますね。
黒木さん
具体的には、どのような方法がありますか?
柳沢先生
体内時計は目から入る光によって調整されているので、朝に明るい光を浴びることが最も大切ですね。逆に日が暮れてからは、明るい光を浴びないように早めに照明を暗くするなど、環境を整えることも大事ですね。
黒木さん
目から入る光の量やタイミングを、意識することが大切なのですね。
柳沢先生
その通りです。ところで黒木さんは、睡眠に関する悩みは何かありますか?
黒木さん
ないです。
柳沢先生
途中で起きることもないですか?
黒木さん
よほどのことがない限り、起きないです。夜中に必ず3回起きるという知人がいるのですが、睡眠との関係は何かありますか?
柳沢先生
何歳ぐらいの方ですか?
黒木さん
60代の方です。
柳沢先生
実は睡眠は、年齢とともに変化していきます。正常な加齢による睡眠の変化について解説していきますね。赤ちゃんは1日中眠っていますし、子どもの頃のほうが睡眠量は多いですよね。
黒木さん
はい。そのイメージはありますね。
柳沢先生
そのあとは、高校生〜大学生と徐々に睡眠量は減り、大人になると1日あたり平均7時間で落ち着いてきます。
黒木さん
その後の変化は、どうなるのでしょうか?
柳沢先生
(図3)上が若年者、下が高齢者の睡眠パターンです。グラフは全体的に左に移動しているので、高齢者は早寝・早起きになっていきます。また、グラフの赤い部分が「中途覚醒」と言い、自分では覚えていなくても、脳が途中で起きる時間帯が増えていきます。
図3:健常な加齢による睡眠の変化
黒木さん
途中で起きている回数が多いですね。
柳沢先生
その通りですね。それから下の青い部分が深い睡眠です。若年者は、夜の前半に深い睡眠が多くなります。この深い睡眠は、高齢になると少なくなっていきます。
黒木さん
深い睡眠は、かなり減っていますね。
柳沢先生
そうですね。そして、緑の部分はレム睡眠です。夢を見る睡眠ですが、それも高齢者になると少しずつ減っていきます。睡眠自体も不安定となり、浮き沈みが激しくなりやすいです。
黒木さん
年齢を重ねていくと、覚醒も頻回になりトイレにも行きたくなるということですね。
柳沢先生
そうですね。黒木さんのお知り合いの方も、年齢に伴う睡眠の変化があるのだと思います。
黒木さん
よく分かりました。年齢に伴う睡眠の変化がある中でも、できるだけ良質な睡眠をとる方法は、何かありますか?
柳沢先生
睡眠は減点法で考えることが重要ですね。
黒木さん
減点法って何ですか?
柳沢先生
良質な睡眠をとる上で、万人に共通する方法はほとんどありません。しかし、睡眠を悪くする要因はいろいろあるので、その要因を一つずつ潰していくことが大切です。
黒木さん
その要因には何がありますか?。
柳沢先生
温度や明るさ、音など眠る環境が主な要因になります。朝方に寒くなったり、逆に暑くなったりするなど、温度の変化は避けたいです。また、照明やテレビをつけたままの状態は、光や音の刺激によって脳の休息を妨げるので、暗く静かな環境を作ることも大切です。
黒木さん
そういった要因を減らしていくことが重要なのですね。それ以外には何かありますか?
柳沢先生
口に入れるものではカフェインとアルコールですね。コーヒーに含まれるカフェインには覚醒作用があるので、就寝の5〜6時間前からは控えたほうが良いです。アルコールには催眠作用もあるのですが、寝付いた後の睡眠の質を悪くすると言われているので、晩酌以降はなるべく控えたほうが良いです。
黒木さん
自分の体質を知るだけでなく、睡眠の環境や年齢による変化についても知っておくことが大切なのですね。