「筋膜リリース」と「鍼灸治療」はどう違う? 効果や目的を徹底比較
頑固なコリや痛みなどの対処法として用いられる「筋膜リリース」と「鍼灸治療」。どちらも即効性があり、体に優しい施術として人気がありますが、コリや痛みがある際にはどのような基準で選べばいいのか気になります。今回は筋膜リリースと鍼灸療法の違いについて、「大江戸鍼灸整骨院」の島村先生にお聞きしました。
監修柔道整復師・鍼灸師:
島村 隼人(大江戸鍼灸整骨院)
筋膜リリースとは?
編集部
筋膜リリースとはなんでしょうか?
島村先生
簡単に言うと、筋膜リリースは、筋肉を覆っている筋膜の癒着を手技によって調整していく施術です。
編集部
筋膜について、もう少し詳しく教えてください。
島村先生
筋膜は全身をウェットスーツのように覆っている膜で、筋肉だけでなく内臓、神経、血管などともつながっており、「第二の骨格」とも呼ばれています。筋膜は浅筋膜、深筋膜、筋外膜、筋周膜、筋内膜と層になっていて、それらの組織は滑り合うようにして動いています。
編集部
筋膜にはどのような働きがあるのですか?
島村先生
- 体の姿勢を保つ作用
- 筋収縮時の滑りを助ける作用
- 筋肉や骨を包み込み、保護する作用
- 血管や神経、リンパ管を支えて通過させる作用
- 組織同士がこすれあうことで生じる摩擦から保護する作用
編集部
その筋膜をリリースするとは、どういうことですか?
島村先生
健康的な筋膜はとても弾力があって滑らかですが、長時間同じ姿勢を取ったり、疲労が蓄積したりすると、筋膜が癒着を起こしてしまうことがあります。癒着を起こすと血流が悪化したり、関節の可動域が低下したり、筋収縮力が落ちたりしてしまいます。これらの不調を改善し、筋膜の滑りを改善したり、筋膜のねじれやよじれを伸ばしたりするのが筋膜リリースです。
編集部
どのようにして滑りをよくしたり、伸ばしたりするのでしょうか?
島村先生
筋肉をストレッチしたり、もみほぐしたりするほか、小さいブレードを使って筋膜をほぐす方法があります。筋肉のほぐし方は施術者や症状によって異なりますが、軽くつまむなど弱い刺激を与えたり、バターを溶かすような感覚でじんわりとほぐしたりすることもあります。
鍼灸治療とは?
編集部
一方、鍼灸治療とはなんですか?
島村先生
鍼や灸を用いた施術のことを鍼灸治療と言います。東洋医学の一分野として中国に起源を持ち、日本で発展した伝統医療で、世界保健機関(WHO)から「さまざまな症状に効果がある」と認められている方法です。
編集部
具体的には、どのような施術をするのですか?
島村先生
疾患や症状に適した経穴(ツボ)に金属の細い鍼を打ったり、もぐさを置いて燃焼させたりします。生体に刺激を加えることで症状を改善するだけでなく、体が本来もっている自然治癒力を高めることを目指します。
編集部
経穴とはなんですか?
島村先生
東洋医学では、気(+血・水)の流れる通路を「経絡」と言います。経絡上の要所には、気の出入り口である経穴があり、その数は約360と考えられています。東洋医学では、この経絡が詰まると体に何らかの不調が表れると考えられています。経穴を鍼灸で刺激することで、経絡の詰まりが解消されて気の巡りがよくなります。
編集部
肩こりや痛みなども経穴を刺激すれば治るのですか?
島村先生
はい。肩こりや痛みには、それぞれに効果的な経穴があり、そこを鍼灸などで刺激をすると気の巡りが改善され、肩こりや痛みが解消されると考えられています。
編集部
気の流れをよくして改善を目指すのですね。
島村先生
そのとおりです。東洋医学では、体内に気をはじめとするエネルギーが流れているという考え方があります。その流れが滞ったり、少なくなったりすることで病気や症状が出ます。そのため、鍼灸治療では気などの流れがよくなる部位に刺激を与えます。刺激を与える経穴は気などの状態に合わせて選択するため、症状を改善するにはその見立てが非常に重要なのです。
筋膜リリースと鍼灸治療の違いや選び方
編集部
筋膜リリースと鍼灸治療は、どのように使い分ければいいのでしょうか?
島村先生
どちらもコリや痛みを改善するのに効果的な方法ですが、適切に使い分けるためにはまず、コリや痛みの原因がなんであるのか考える必要があります。筋膜リリースは筋肉と筋膜が癒着している状態を手技によってほぐします。
編集部
具体的に、どのような症状がある場合に筋膜リリースが有効なのですか?
島村先生
例えば、「可動域の制限がある」「体を動かすときに引っ掛かりを感じる」という場合には、筋膜の癒着が起きていることが考えられるので、鍼灸治療よりも筋膜リリースの方が適しているかもしれません。
編集部
そのほか、使い分けるポイントは?
島村先生
「どのような痛みが生じているか?」というのも、使い分ける上で重要なポイントです。神経痛のような痛みが生じている場合には、神経の出入り口に直接鍼を打って電気を流し、神経の興奮を落ち着かせる鍼灸治療が適していると言えるでしょう。
編集部
なるほど。痛みの性質によっても使い分けが必要なのですね。
島村先生
はい。また、患部の血流が滞っていたり、疲労物質が溜まっていたりして痛みが出ている場合には、鍼を打って筋肉の収縮をゆるめる鍼灸治療を選択します。
編集部
原因や症状によって使い分けることが大事なのですね。
島村先生
それから、筋膜リリースは手技でおこなうのに対して、鍼灸治療は鍼や灸を使って深部にアプローチするという違いがあります。そのため、コリや痛みの原因が深部にある場合には、手技では難しいことがあります。
編集部
深部に原因がある場合には、鍼灸治療の方が適しているということですか?
島村先生
筋膜リリースは、癒着が起こっている筋肉にアプローチして筋膜をはがすことで、痛みやコリを改善します。筋膜は層になっているので、皮膚からアプローチしても癒着をはがしてほぐすことができます。しかし、深部に原因がある場合には、手技ではなかなか届かないことがあります。その場合には鍼灸治療が有効です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
島村先生
筋膜リリースや鍼灸治療を実際に受けたことがある人は少ないかもしれませんが、一度体験するとすぐに効果を実感しやすい施術です。「マッサージに通っているけれど症状が取れない」「痛みやコリが慢性化している」という場合には、ぜひ試してほしいと思います。筋膜リリースと鍼灸治療は、どちらも痛みやコリを改善するのに有効ですが、性質が異なります。また、どちらかだけを受けるのではなく、両方の施術を受けることで相乗効果が得られる場合もあります。加えて、どちらも施術者の個性が出やすいのが特徴です。ぜひ、ご自分の症状や体質、好みに合った施術を探して、心身ともに健康な状態を目指してほしいと思います。
編集部まとめ
マッサージで痛みやコリを改善しても、すぐにぶり返してしまうという人も多いと思います。その場合にはぜひ、鍼灸治療や筋膜リリースがおすすめとのことでした。施術者との相性や好みもありますから、できれば複数の鍼灸整骨院を訪ね、信頼できる場所を見つけられるといいですね。
医院情報
所在地 | 〒110-0016 東京都台東区台東4丁目22−4 エスパルハイム 1階 |
アクセス | 都営大江戸線「新御徒町駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 鍼灸院、整骨院 |