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ヘルペスウイルス感染が「アルツハイマー病」の発症に関与? リスク増加の可能性を研究で示唆

 公開日:2025/08/08

イギリスのマンチェスターにある大学研究機関が、医学誌「The Lancet」にアルツハイマー病(AD)の原因に迫る研究内容を発表しました。研究の注目点は、遺伝子のタイプであるAPOEε4と、一般的なウイルスである単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)の関係です。この内容について本多医師に伺いました。

本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

研究グループが発表した内容とは?

検眼・視覚科学部門・分子神経生物学研究所が発表した内容を教えてください。

本多 洋介 医師本多先生

マンチェスターにあるUMIST(現・マンチェスター大学)の検眼・視覚科学部門および分子神経生物学研究所は、アルツハイマー病と遺伝的要因やウイルス感染との関係に着目した研究を実施しました。報告によると、アルツハイマー病の発症にはAPOEε4という遺伝的危険因子が関与していますが、単独では発症に至らないことから、ほかの因子も関与していると考えられています。研究ではアルツハイマー病患者および非罹患の高齢者の脳からDNAを抽出し、単純ヘルペスウイルス1型とAPOE遺伝子型の関係をPCR法で解析しました。 研究の結果、単純ヘルペスウイルス1型が陽性でAPOEε4を持つ患者は、ほかの群と比べて有意にアルツハイマー病の発症リスクが高く、オッズ比は16.8と報告されました。また、再発性口唇ヘルペス患者においてもAPOEε4の頻度が高かったことから、単純ヘルペスウイルス1型とAPOEε4の組み合わせが神経系に損傷を与え、アルツハイマー病の発症に強く関与している可能性があると示唆されています。

ヘルペスの原因は?

ヘルペスの原因は? 放置するとどうなりますか?

本多 洋介 医師本多先生

ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる感染症です。上半身に症状が表れる「口唇ヘルペス」の原因は単純ヘルペスウイルス1型で、主に顔や唇に水ぶくれなどが生じます。一方、性器やお尻まわりに表れる「性器ヘルペス」は、主に単純ヘルペスウイルス2型が原因ですが、1型によって性器に感染するケースも増えています。これらのウイルスは神経節に潜伏し、体調不良やストレスで再発することがあります。治療せずに放置すると症状が悪化したり、脳炎などの重篤な合併症を引き起こしたりすることもあります。 現在の医療ではウイルスを完全に排除することはできませんが、抗ウイルス薬で増殖を抑えて再発を軽くすることが可能です。違和感や前兆に気づいたら、早めに医療機関を受診しましょう。

研究内容への受け止めは?

検眼・視覚科学部門・分子神経生物学研究所が発表した内容への受け止めを教えてください。

本多 洋介 医師本多先生

この研究は、アルツハイマー病の発症における要因と感染症の相互作用に着目した興味深い報告です。APOEε4という遺伝子がアルツハイマー病の主要な遺伝的リスク因子であることは広く知られていますが、本研究は単純ヘルペスウイルス1型の感染がリスクを大幅に増加させる可能性を示しています。特に、オッズ比16.8という数値は注目に値し、両者の相互作用が病態に深く関与していることを示唆します。再発性口唇ヘルペスとAPOEε4の関連も、単純ヘルペスウイルス1型が中枢神経系で再活性化し神経障害を引き起こす可能性を支持しています。 今後、この知見が予防や治療戦略の開発につながることが期待され、より詳細な病歴の把握が一層重要となるかもしれません。

編集部まとめ

ヘルペスは身近な感染症ですが、ある遺伝子型と組み合わさることで、アルツハイマー病の発症リスクが将来的に高まる可能性が示されました。日常生活でのストレスや疲れが再発の引き金になることもあり、症状が出たときの早めの対応が大切です。ウイルスと上手につき合う意識を持ち、違和感を覚えたら早めに受診しましょう。

この記事の監修医師