中高年の“心の不調” じつは「認知症」のサインかも… 意外な関連が研究で判明

中高年期にみられるうつ症状や気分の落ち込みは、じつは「認知症」の前兆かもしれません。量子科学技術研究開発機構(QST)をはじめとする日本の研究チームは、晩年型気分障害の背景に、アルツハイマー型認知症にみられる異常タンパク質の蓄積が関係している可能性を示しました。この研究成果は、学術誌「Alzheimer’s & Dementia」に掲載されました。この内容について伊藤医師に伺いました。

監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
研究グループが発表した内容とは?
量子科学技術研究開発機構の研究員らが発表した内容を教えてください。

量子科学技術研究開発機構の研究員らは、晩年型気分障害の背景にアルツハイマー病(AD)やアルツハイマー病以外のタウ病理が関与している可能性を調べることを目的とした研究を実施しました。52名の晩年型気分障害患者と年齢・性別を一致させた47名の健常対照者を対象に、タウおよびアミロイドβの陽電子放出断層撮影(PET)をおこないました。また、208例の剖検データをもとに、臨床と病理の関連を分析しました。
その結果、晩年型気分障害患者は健常者と比べてタウおよびアミロイドβのPET陽性率が高く、また、晩年に躁状態やうつ状態を示す人は多様なタウオパチーを有している傾向があることが、死後の解剖結果からも確認されました。
これらの所見から、アルツハイマー病および非アルツハイマー病型のタウ病理が、一部の晩年型気分障害症例における神経病理の根底にある可能性が示唆されました。
研究テーマになったアルツハイマー型認知症(アルツハイマー病)とは?
今回の研究テーマに関連するアルツハイマー病について教えてください。

アルツハイマー病は、軽度認知障害や認知症の主な原因となる脳の病気で、初期にはもの忘れといった記憶障害から気づかれることが多い傾向にあります。ただし、比較的若い人の場合は、記憶障害以外の症状が目立つこともあります。アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積し、さらにリン酸化タウが塊となって神経原線維変化を起こすことで、神経細胞が障害されて脳が萎縮していきます。最近では、アミロイドβを標的とした治療薬の開発も進んでいます。なお、認知症に似た症状は、ほかの脳の病気や身体の不調でも表れることがあるため、症状や進行の仕方には個人差があります。気になる症状がある場合は、医師に早めに相談しましょう。
認知症に関する研究内容への受け止めは?
量子科学技術研究開発機構が発表した内容への受け止めを教えてください。

認知症の人がうつ状態を併発することはよくありますし、うつ状態のため認知機能が低下してしまい、認知症のような症状になってしまう人もいます。しかし、今回の研究では、中高年でうつ病などの気分障害を発症した人が、アミロイドβからなる異常なタンパク質が健常者よりも蓄積していることが分かりました。これは、うつ病などの気分障害を発症した人がアルツハイマー型認知症になりやすい傾向がある可能性があり、アミロイドβの蓄積に関してより細やかなフォローが必要と言えます。新規の治療薬がアミロイドβを標的としており、治療の対象となる可能性があります。
編集部まとめ
晩年に躁状態やうつ状態を発症した人の脳には、アルツハイマー病にみられるようなタンパク質の異常が隠れている可能性があることがわかってきました。年齢を重ねてからの心の不調を「気のせい」とせず、早めに専門機関に相談することが、将来の健康を守る第一歩になるかもしれません。気になる変化があれば、まずは身近な医療機関に相談してみましょう。