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「甲状腺がん」は喫煙でリスク低下!? 研究で判明した“タバコの意外な側面”とは

 公開日:2025/05/07

国立がん研究センターの研究員らは、喫煙および飲酒習慣と甲状腺がんリスクの関連について調査しました。その結果、喫煙している人の方が、甲状腺がんを発症する割合は低いという傾向がみられました。この内容について五藤医師に伺いました。

五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

研究グループが発表した甲状腺がんに関する研究内容とは?

国立がん研究センターの研究員らが発表した内容を教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

今回紹介する研究報告は、前向きコホート研究に基づいて実施されたもので、日本人を対象に喫煙および飲酒と甲状腺がんリスクの関連について検討したものです。研究には10万1849人の日本人が参加し、平均18.7年の追跡期間中に232例の甲状腺がん発症が確認されました。ベースライン時に自記式質問票を用いて喫煙および飲酒習慣を評価し、Cox比例ハザードモデルによってハザード比と信頼区間を算出しました。

研究の結果、20Pack-year以上の喫煙者では、非喫煙者と比べて甲状腺がんのリスクが低く、特に男性において有意な逆相関が認められました。飲酒に関しても、エタノール摂取量が多い群でリスクの低下傾向がみられましたが、信頼区間が広く1を含んでおり、統計学的な有意性は確認されませんでした。

喫煙および飲酒は一般的ながんのリスク因子として知られていますが、本研究では甲状腺がんにおいて逆相関が示唆された点は注目されます。ただし、甲状腺がんの組織型が欧米と異なるアジアにおいては、これまでのエビデンスが限られているため、今回の結果を過信せずにより大規模かつ詳細な研究による検証が今後は必要とされます。

研究テーマになった甲状腺がんとは?

今回の研究テーマに関連する甲状腺がんについて教えてください。甲状腺がんの初期症状やなりやすい人の特徴などについて教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

甲状腺がんは、のどぼとけのすぐ下にある甲状腺に発生するがんで、進行が比較的ゆっくりで予後も良好なケースが多いとされています。初期には自覚症状がほとんどなく、首のしこりで気づかれることが一般的です。進行すると、声のかすれや飲み込みにくさ、呼吸のしづらさ、血の混じった痰、首の痛みなどの症状が表れる場合もあります。

甲状腺がんを発症しやすい人の特徴としては、「若い女性」「放射線被ばく歴のある人」「家族に甲状腺がんの患者がいる人」などが挙げられます。また、ヨウ素の摂取量が過多または不足することも、甲状腺の機能に影響が出る可能性はあります。

甲状腺がんは、定期的な健康診断や首の視診・触診、超音波検査などで早期発見が可能です。気になる症状がある場合には、早めに耳鼻咽喉科や内分泌科を受診しましょう。

甲状腺がんに関する研究内容への受け止めは?

国立がん研究センターの研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

今回の研究結果は非常に興味深いものです。一般的に喫煙や飲酒はがんのリスクを高める要因として知られている中で、甲状腺がんに関しては逆相関が示唆された点は、今後の研究への道を開くものでしょう。特に、本研究は10万人以上の日本人を対象とした前向きコホートであり、信頼性の高いデータに基づいています。とはいえ、甲状腺がんの組織型や診断精度、報告バイアスなど、解釈に慎重を要する要素も多いため、今後は多施設・多民族を対象とした追試が求められます。また、仮に相関があったとしても、喫煙や過度の飲酒はほかの臓器がんや循環器疾患、糖尿病などのリスクを著しく高めることは周知の事実です。したがって、本研究の結果をもって「喫煙や飲酒が健康に良い」と誤解しないよう、生活習慣全体を俯瞰する姿勢が重要です。

編集部まとめ

今回の研究では、喫煙や飲酒が甲状腺がんリスクと逆相関する可能性が示されましたが、ほかの多くのがんや疾患のリスクを高める習慣です。生活習慣と病気の関係は一面だけで判断できないため、安易に「リスクが下がる」とは受け取らず、バランスの取れた生活を心がけることが大切です。健康診断や気になる症状の早期受診も心がけてください。

この記事の監修医師