日本人の「腎臓がん」の70%に未知の発がん要因!? 世界11カ国の調査で判明
国立がん研究センターらの研究グループは、「世界11カ国の腎臓がん患者のがん細胞を全ゲノム解析したところ、日本人患者の7割に特有の遺伝子変異があった」と発表しました。この内容について村上医師に伺いました。
監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
研究グループが発表した内容とは?
国立がん研究センターらの研究グループが発表した内容について教えてください。
村上先生
今回紹介する研究は国立がん研究センターらの研究グループが実施したもので、研究結果は学術誌「Nature」に掲載されています。
研究グループは、淡明細胞型腎細胞がんの発症頻度の異なる、日本を含む11カ国から962症例のサンプルを収集し、全ゲノム解析をおこないました。962症例は、日本から36症例、イギリスから115症例、チェコから259症例、セルビアから69症例、リトアニアから16症例、ルーマニアから64症例、ポーランドから13症例、ロシアから216症例、カナダから73症例、ブラジルから96症例、タイから5症例を集めました。これらの症例を対象に、全ゲノム解析データから突然変異を検出して解析し、「変異シグネチャー」と呼ばれる、がん細胞のゲノムに発生する様々な変異が要因で示される異なるパターンを抽出しました。
その結果、日本の淡明細胞型腎細胞がんの72%の症例でSBS12」が検出されたものの、ほかの国では2%程度の症例でしか検出されませんでした。このSBS12について、過去の遺伝子解析研究では、日本人の肝細胞がんで多く検出されていたものです。研究グループは、これらの結果から「日本での腎細胞がん、そして肝細胞がんでのSBS12を誘発する発がん物質に接する頻度が高く、ほかの国では珍しいことである」としています。「SBS12を誘発する要因は現在のところ不明」と研究グループは述べていますが、「遺伝子変異パターンから、高確率で環境要因の発がん物質であることが示唆された」と語っています。
研究グループは、今回の結果について「今後の研究で、原因物質やこの変異パターンによって誘発されるドライバー異常が明らかになれば、日本における淡明細胞型腎細胞がんの新たな予防法や治療法の開発が期待されます」とコメントしています。
腎臓がんとは?
今回の研究テーマになった腎臓がんについて教えてください。
村上先生
腎臓の細胞が、がん化したものが腎臓がんです。腎実質の細胞ががん化して悪性腫瘍になったものが「腎細胞がん」で、腎盂にある細胞ががん化したものが「腎盂がん」です。腎臓がんのほとんどは腎細胞がんなので、一般的に腎臓がんと呼ぶ場合は、腎細胞がんのことを指します。腎細胞がんは、肺に転移しやすく、骨や肝臓、副腎(ふくじん)や脳などに転移することもあります。
日本国内の腎臓がんの患者は、2019年には2万1347人が新たに診断されています。腎臓がんは初期段階ではほとんど自覚症状が出ないので、早期発見されるケースの多くは健康診断などで偶然、発見されます。腎細胞がんが大きくなると、血尿や背中などの痛み、腹部のしこり、足のむくみ、食欲不振、吐き気や便秘、腹痛などが起きることもあります。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
国立がん研究センターらの研究グループによる発表への受け止めを教えてください。
村上先生
腎細胞がんは以前、抗がん剤や放射線治療が非常に効きにくく、唯一の治療が手術とインターフェロンしかないという時代が長く続きました。その後、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤といった新しい治療方法が登場しました。しかし、患者さんの予後は改善してきているものの、いまだ十分な治療効果があげられているとは言えない状況です。
今回の研究が、腎細胞がんの新たな原因の追究につながるとともに、そこから新しい治療方法が見つかり、腎細胞がん患者の予後の改善へとつながることを期待しています。
まとめ
国立がん研究センターらの研究グループは、世界11カ国の腎臓がん患者のがん細胞を全ゲノム解析したところ、日本人患者の7割に特有の遺伝子変異があったことを発表しました。腎臓がんは日本でも毎年2万人以上の患者が報告されているので、今後の研究により新たな治療法が開発されることに期待が集まっています。