「膵臓がん」に抗がん剤が効きにくいのは“コラーゲン”が原因!? 新薬開発の希望となる研究結果
岡山大学らの研究グループは、「膵臓がんに抗がん剤が効きにくいのは、がん細胞を取り巻くように蓄積する大量のコラーゲンが原因である」と発表しました。このニュースについて中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
今回、岡山大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
中路先生
今回紹介するのは岡山大学らの研究グループが発表した内容で、研究成果は学術誌「Journal of Controlled Release」に掲載されています。
研究グループは、膵臓がんの特徴である「線維化」が、がん細胞に抗がん剤が到達することへの障壁となっていることに着目しました。この線維化による障壁を解決するためには、実験的に再現して研究を進める必要がありますが、これまでは線維化障壁が形成される理由もわかっていませんでした。 こうした課題を解決するために、研究グループは独自の技術を活用して、膵臓がん患者から由来する線維芽細胞を立体培養しました。
培養された立体組織では、コラーゲンなどの線維性タンパクの沈着に伴い、抗がん剤に形を似せた物質が通過しにくくなることが確認されました。つまり、試験管内に線維化障壁を再現することに成功したことを意味します。さらに詳しく分析した結果、タンパク質「ROCK2」が線維化の過程でみられるコラーゲンの過剰沈着などの異常に関与することを発見しました。加えて、「ROCK2を標的化することで、線維化障壁を克服できる可能性を見出した」とのことです。
今回の研究成果について、研究グループは「膵臓がんの難治化への関与が明らかとされながらも、有効な治療法が未確立であった“線維化障壁”のメカニズム解析をおこないました。線維化障壁形成への関与を明らかにしたROCK2は、既にほかの疾患での適応を目指して薬剤の開発が進んでいます。本研究成果は、これら既存薬剤を用いた線維化障壁の克服の可能性を示唆するとともに、線維化障壁の形成メカニズムとその克服法の詳細な解析を可能とする実験基盤を確立したことで、膵臓がんの新たな治療戦略開発の足掛かりとなることが期待されます」とコメントしています。
膵臓がんとは?
今回の研究で取り上げられた、膵臓がんについて教えてください。
中路先生
多くの場合、膵臓がんは膵管に発生します。膵臓がんはサイズが小さいうちからリンパ節や肝臓などに転移しやすいのが特徴で、腹膜播種が起こる恐れもあります。膵臓にできる腫瘍は、膵管内乳頭粘液性腫瘍、神経内分泌腫瘍などもあります。日本で膵臓がんと診断された人は2019年時点で4万3865人おり、5年生存率は約1割です。
切除できる場合の膵臓がんの治療は、手術や薬物療法、放射線治療を組み合わせた集学的治療を実施します。切除できない場合は、主薬物療法や放射線治療を組み合わせた治療をおこないます。がんのステージによっては緩和ケアのみをおこなう場合もあります。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
岡山大学らの研究グループが発表した内容について、受け止めを教えてください。
中路先生
線維化は膵臓がんの特徴であり、腫瘍内への薬物の到達を妨げます。本研究の特記すべき点は、独自の立体培養技術を用いて、膵がんの線維化障壁が形成されるメカニズムを解析したことです。また、ROCK1ではなくROCK2 をターゲットにした方が効果的であったことから、現在進行中の他疾患のROCK2をターゲットとした既存薬剤を用いて膵がんの線維化障壁克服の効果がある可能性も示唆しています。このことは、新薬開発に関わる時間・コストを削減できる可能性も秘めており、画期的な研究結果であると言えるでしょう。
まとめ
岡山大学らの研究グループは、膵臓がんに抗がん剤が効きにくい原因が、がん細胞を取り巻くように蓄積する大量のコラーゲンであると発表しました。膵臓がんの難治化の原因を明らかにし、克服することは極めて重要な社会的課題とされているだけに、今回の発見は注目を集めそうです。