FOLLOW US

目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. NEWS
  3. 「胃がん」の新たな発生メカニズム解明! “バナナ”の成分が治療薬に!? 世界初の研究発表

「胃がん」の新たな発生メカニズム解明! “バナナ”の成分が治療薬に!? 世界初の研究発表

 更新日:2024/05/07

東京大学らの研究グループは、「ムチンの一種であるMUC6が失われると、胃がんが発生することを明らかにした」と発表しました。この内容について中路医師に伺いました。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

プロフィールをもっと見る
1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

研究グループが発表した内容とは?

東京大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介する研究報告は東京大学らの研究グループによるもので、研究は学術誌「Gastroenterology」に掲載されています。

研究グループは、ムチンの一種であるMUC6遺伝子を欠損・無効化させたMUC6KOマウスを独自で作成し、MUC6が喪失されることで直接胃がん発生が引き起こされることを世界で初めて発見しました。さらに、この発がん経路と新規治療標的の提案がおこなわれました。MUC6KOマウスは3カ月ほどで異形成を示しました。その後、半年以降の全個体で胃がんが観察され、12カ月で粘膜下に浸潤する浸潤がんが確認されています。

また、MUC6KOマウスにおける腫瘍部分では「マンノース」という異常糖鎖が存在していることがわかりました。研究グループは、がん細胞だけに発現するマンノースに着目し、バナナ由来のレクチンから、マンノースに特異的に接着する新規レクチン薬物複合体を開発しました。その結果、MUC6KOマウス、またMUC6喪失を伴うヒト胃がん細胞株を用いたゼノグラフトにおいて、このバナナレクチン薬物複合体は腫瘍縮小効果を認めたとのことです。

研究の背景と成果は?

今回取り上げた研究の背景と成果について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

胃がんによる死亡者数が、がん死亡者数全体の上位を占めている状況が今回の研究の背景にあります。ピロリ菌の除菌療法の普及・感染率の低下により、胃がん患者数のゆるやかな減少がみられていますが、手術ができない進行胃がんは既存の薬物療法に対して抵抗性を示すことが多いため、新規発がん経路の同定、新規治療標的の探索が待たれていました。

また最近、胃がんの全ゲノム解析の結果が報告されたことで、MUC6遺伝子変異が胃がんの10%程度でみられることがわかっています。MUC6遺伝子変異がある胃がんは治療抵抗性を示しやすく、予後不良であることが報告されていますが、胃がん発生への関与は明らかになっていませんでした。ここに研究グループは着目して、今回の研究を実施しました。研究グループは、MUC6喪失によって直接胃がん発生が引き起こされることを世界で初めて発見しただけではなく、発がん経路や新規治療標的の提案もおこなっています。

研究グループは、今回の結果について「より幅広い疾患におけるゴルジ体ストレス、GOLPH3遺伝子の関与の検証がされ、その治療標的として異常糖鎖に着目したレクチン薬物複合体の活用が期待される」とコメントしています。

研究グループが発表した内容への受け止めは?

東京大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

従来、胃がんの1割程度に胃粘液産生に関わるMUC6遺伝子の変異がみられることは知られていました。本研究で特記すべきは、MUC6ノックアウトマウスを用いて、MUC6が失われることによって胃がんが自然発生することを発見した点です。また、臨床応用として、身近な果物であるバナナ由来の薬物複合体が治療に有効である可能性まで言及した点であると考えます。

まとめ

東京大学らの研究グループは、「ムチンの一種であるMUC6が失われることが、直接胃がんの発生を引き起こす」と発表しました。さらには治療標的として、異常糖鎖に着目したバナナ由来レクチン薬物複合体が提案もおこなわれたことで、今後も注目を集める研究になりそうです。

この記事の監修医師