全国で感染相次ぐ“麻疹”の症状・現在の動向を医師が解説「ワクチン接種が唯一の予防法」
麻疹(はしか)の感染者が全国で相次いで確認されています。厚生労働省は、患者数増加でワクチンの需要が高まる可能性があるとみて、定期接種を確実に進めるため卸売業者に対して、優先して小児科などにワクチンを供給することを要請しています。この内容について中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
麻疹の感染状況とは?
麻疹の感染状況について、最近の動向を教えてください。
中路先生
麻疹の感染をめぐっては、2024年2月以降に、日本各地で感染者の報告が相次いでいます。2024年3月22日時点で、8都府県で合計20人の感染者が確認されています。それぞれの感染状況を見ると、奈良県では海外から入国した男性が麻疹に感染し、この男性と接触のあった別の男性も感染しています。3月1日にアラブ首長国連邦から帰国した大阪府の男性も、麻疹の感染が判明しています。この男性を含め、同じ飛行機に乗っていた男女8人が感染していたとのことです。また、東京都でも5歳未満の男児の麻疹感染が確認されています。男児は2024年3月4日に発熱や発疹などの症状が出て、11日に麻疹への感染が確認されました。男児には海外の渡航歴があり、症状が出た前日の2024年3月3日に足立区内の飲食店を利用していました。東京都は、症状が疑われる人は医療機関に相談するよう呼びかけています。
麻疹の有効な対策は2回のワクチン接種で、1990年4月2日生まれ以降は公費助成がある定期接種を2回受ける機会がありました。現行の定期接種は1歳と小学校入学前の子どもを対象にしていますが、接種率は低下傾向にあります。特に2回目の接種は2022年度が過去10年で最低の92.4%となり、流行を防ぐための目標値である95%以上を下回ってしまっています。
厚生労働省は、「自分が麻疹のワクチン接種を2回完了しているかどうかを確認したうえで、接種が必要な場合はワクチンの接種を検討してほしい」と呼びかけています。ワクチンの接種の履歴については、母子手帳などで確認することができます。また、厚生労働省は2024年3月21日、麻疹の患者数増加でワクチンの需要が高まる可能性があるとみて、定期接種を確実に進めるため、卸売業者に対して優先して小児科などにワクチンを供給することを要請しています。
麻疹とは?
今回のニュースで取り上げた麻疹について教えてください。
中路先生
2015年に日本は、WHO(世界保健機関)から麻疹の土着ウイルスが存在しない排除国として認められています。つまり、2015年以降の麻疹感染は、海外から持ち込まれたウイルスによるものになります。近年の感染者数について、2019年は744人の患者が報告されましたが、コロナ禍の2020~2022年は10人以下でした。それが2023年には28人に増加し、2024年3月22日時点では8都府県で少なくとも20人の感染が確認されています。
麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の全身感染症で、感染経路は空気感染や飛沫感染、接触感染となっており、感染力が非常に強いのが特徴です。免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%の確率で発症し、感染して発症すると一生免疫が持続すると言われています。感染してから約10日後に発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状が表れます。2~3日熱が続いた後、39℃以上の高熱と発疹が出現します。また、肺炎や中耳炎を合併しやすいことに加えて、1000人に1人の割合で脳炎が発症すると言われています。
麻疹は、ワクチン接種が最も有効な予防法となります。麻疹患者に接触した場合でも、72時間以内にワクチンの接種をすることで、発症を予防できる可能性があります。ワクチンを接種することで、95%程度の人が麻疹ウイルスに対する免疫を獲得することができると言われています。
麻疹の感染状況への受け止めは?
麻疹の感染状況への受け止めを教えてください。
中路先生
現時点では、麻疹には特効薬がないため、ワクチンで感染を防ぐことが唯一の手段となります。日本では就学前の子どもが定期接種として公費での接種が可能ですが、年代によっては接種されていない場合があります。そのため、定期接種が可能な小児科などの医療機関を優先し、必要な量を供給することが求められます。日本国内では麻疹の感染者が相次いで報告され、ワクチンの需要が高まっています。限りある医療資源を各医療機関で有効に使うため、必要以上の予約・注文は慎むべきであると考えます。
まとめ
全国で相次いで麻疹の感染者が確認されており、自治体や厚生労働省が注意を呼びかけています。厚生労働省は、麻疹のワクチン接種を2回完了しているかどうかを確認したうえで、必要な場合はワクチンの接種を検討してほしいと呼びかけています。