「アルツハイマー病」の進行抑制に”抗うつ薬”が有効か、東邦大の新発見
東邦大学らの研究グループは、抗うつ薬「ネファゾドン」が既存のアルツハイマー病治療薬と同様の作用を示す可能性があると発表しました。この内容について、中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
東邦大学らが発表した研究内容とは?
今回、東邦大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。
中路先生
今回紹介する研究は、東邦大学らの研究グループによるもので、成果は学術雑誌「Biological and Pharmaceutical Bulletin」に掲載されています。
アルツハイマー病患者に対しては、薬物療法によって脳内のアセチルコリンの量を増加させ、症状の進行を抑制しています。研究グループはこれまでに、臨床で使用されている26種類の統合失調症治療薬がアセチルコリンの活性を阻害する可能性を検討しています。統合失調症治療薬「アリピプラゾール」が臨床で達成可能な血中濃度範囲内で、アセチルコリンの分解酵素である「アセチルコリンエステラーゼ」を阻害する可能性があることを発見しています。
今回、研究グループは、31種類の抗うつ薬、21種類の催眠薬、12種類の抗不安薬のアセチルコリンエステラーゼの阻害作用を評価しました。その結果、抗うつ薬のネファゾドンのみがアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を示すことが明らかとなりました。ネファゾドンは現在、アメリカでのみ使用されている抗うつ薬で、日本では未発売となります。
今回の研究結果で、ネファゾドンによってアルツハイマー病の進行を遅らせる可能性が見出されたことになります。ただし、ネファゾドンのアセチルコリンエステラーゼ阻害作用は、既存のアルツハイマー病治療薬の阻害作用よりも弱くなります。そのため、研究グループは「アルツハイマー病の認知症状に対するネファゾドンの効果は限定的である可能性がある」とコメントしています。
アルツハイマー病とは?
今回の研究テーマになったアルツハイマー病について教えてください。
中路先生
アルツハイマー病は認知症を起こす代表的な病気の1つで、脳内にアミロイドβという異常なタンパク質がたまることで神経細胞の働きが衰え、神経細胞の数が減ることで発症すると考えられています。
アルツハイマー病の症状について、初期段階では新しい記憶が障害されたり、時間や場所などが覚えにくくなったり、うつ状態になったり興奮したりするなどの性格の変化がみられたりすることがあります。また、中期段階では記憶障害が進行し、言葉が理解できなくなったり出てこなくなったりする失語という状態になる場合もあります。さらに、目の前にあるものが何かわからない失認、衣服を着ることができないなどの失行も出てくることがあります。後期段階になると、しゃべる回数が減り、手足の動きも悪くなり、多くの場合は寝たきりになります。
アルツハイマー病の治療法は、記憶障害を中心とした認知症の中核症状に対する薬物療法と抑うつ、興奮、性格変化などの周辺症状への薬物療法に大まかに分けられます。認知症の中核症状に対する薬物治療で保険適用される薬物はいくつかあります。それぞれの薬剤は病気の重症度などにより使用方法が決められているので、症状や合併症の有無などを慎重に検討しながら投薬することになります。
今回の研究内容への受け止めは?
東邦大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。
中路先生
今回の研究の特記すべき点は、認知症の周辺症状に用いられる抗うつ薬のアセチルコリンエステラーゼを阻害する効果を複数の薬剤を用いて、網羅的に検討したことであると言えます。また、既存の薬剤を用いた研究であるため、効果は市販の認知症薬には劣るもの、低コストなので医療経済学的にも有益な研究であると考えます。
まとめ
東邦大学らの研究グループは、抗うつ薬ネファゾドンが、臨床で到達可能な血中濃度範囲で既存のアルツハイマー病治療薬と同様の作用を示す可能性があると発表しました。研究グループは「アルツハイマー病の認知症状に対するネファゾドンの効果は限定的である可能性がある」とコメントしていますが、アルツハイマー病をめぐる新たな発見は注目を集めそうです。