【世界初】「全身性エリテマトーデス」発症メカニズムを一部解明 新たな治療法に期待
京都大学らの研究グループは、免疫細胞の活性化に関わるタンパク質「LUBAC(ユビキチンリガーゼ)」が、「全身性エリテマトーデス」の発症に関わることを明らかにしたと発表しました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
京都大学らが発表した研究内容とは?
今回、京都大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介する研究は、京都大学らの研究グループによるもので、成果は学術雑誌「JCI insight」に掲載されています。
研究グループは、これまで直鎖状ポリユビキチン鎖生成酵素(LUBAC)に関する研究を進めています。例えば、LUBACを構成する「HOIL-1L」の酵素活性を阻害すると、直鎖状ユビキチン鎖生成が進んで免疫細胞が活性化されることも発見しています。そこで今回の研究では、直鎖状ポリユビキチン鎖生成酵素(LUBAC)の機能と自己免疫疾患との関連について調べました。
その結果、LUBACを構成する「HOIL-1L」の酵素活性欠失によってLUBACの機能が高まったマウスでは、全身性エリテマトーデスとシェーグレン症候群のような疾患が発症することを明らかにしました。
また、「HOIL-1L」のある特定のアミノ酸が関連する変異による酵素活性の低下がLUBACの機能を大きく高めること、全身性エリテマトーデス患者群に有意に集積することを明らかにしました。さらに、HOIL-1L/RBCK1が全身性エリテマトーデスの新規疾患感受性遺伝子であること、LUBACの機能亢進がヒトの全身性エリテマトーデス発症に寄与することを世界で初めて示しました。
全身性エリテマトーデスとは?
今回の研究テーマになった全身性エリテマトーデスについて教えてください。
甲斐沼先生
全身性エリテマトーデス(SLE:Systemic Lupus Erythematosus)は、指定難病の疾患の1つです。発熱や全身倦怠感など、炎症を想起するような症状と、関節、皮膚、腎臓、肺、中枢神経などの内臓の様々な症状が一度、もしくは時間の経過とともに起こります。全身性エリテマトーデスの原因は、今のところわかっていませんが、免疫の異常が病気の発症に重要な役割を果たしていることが指摘されています。
2021年にSLEとして難病申請をした患者は6万4304人です。ただ申請をしていない、あるいは医療機関を受診していない患者も想定すると、約6~10万人程の患者がいると想定されています。女性がかかりやすい疾患で、男女比は1:9です。特に、生理が起きる年代に発症することが多く、子どもと高齢者では男女差は少なくなります。
今回の研究内容への受け止めは?
京都大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
今回の研究結果では、直鎖状ユビキチン鎖(直鎖)を生成することで免疫細胞の活性化に重要な役割を果たす複合体ユビキチンリガーゼLUBACが、全身性エリテマトーデスとシェーグレン症候群の発症に関わることを明らかにしました。
「直鎖状ユビキチン鎖」は、もともと免疫応答に中核的に機能するシグナル伝達系であり、本研究ではマウスにおいてHOIL-1L酵素欠損が直鎖状ユビキチン鎖の生成亢進を介して全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群に関連する症状を発症することが判明しました。
ヒトにおいてLUBACの酵素活性を亢進させるHOIL-1L遺伝子の1塩基変異(SNV)が SLE患者で有意に集積する疾患感受性遺伝子であることが研究チームによって同定されました。よって、直鎖状ユビキチン鎖の生成亢進による炎症シグナルの活性化が全身性エリテマトーデスの発症に繋がる可能性を示し、今後LUBACを標的とした全身性エリテマトーデスに対する治療薬の開発が期待されます。
まとめ
京都大学らの研究グループは、直鎖状ポリユビキチン鎖生成酵素(LUBAC)の機能亢進が全身性エリテマトーデスの発症に関わることを明らかにしたと発表しました。本研究で得られた成果は世界初となります。研究グループは「LUBACの機能を阻害することができれば全身性エリテマトーデスの新規治療につながる可能性があると考え、LUBAC阻害剤の開発に向けて着手している」と述べています。