「食物繊維」で花粉症などのアレルギーを抑制、東京理科大がメカニズムを解明
東京理科大学らの研究グループは、短鎖脂肪酸によるアレルギー抑制作用に関して、マウス・細胞・遺伝子レベルの解析を用いて、作用するメカニズムの解明に成功したと発表しました。この内容について眞鍋医師に伺いました。
監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
目次 -INDEX-
発表した研究内容とは?
今回、東京理科大学らによる研究グループが発表した研究内容について教えてください。
眞鍋先生
今回紹介する研究は、東京理科大学らの研究グループによるもので、成果は学術雑誌「Journal of Immunology」に掲載されています。
研究グループは、食品中に含まれる成分や、その腸内代謝産物などが免疫応答に与える影響について研究していました。「アレルギー反応やアナフィラキシーに関与する免疫細胞であるマスト細胞の機能を、短鎖脂肪酸という腸内細菌が食物繊維から生成される成分を調節することで、抗アレルギー作用を示す」という報告があります。しかし、研究グループは分子的なメカニズムが不明だったことに注目し、短鎖脂肪酸がマスト細胞の機能をどのように調整しているのかを調べました。
研究グループは、アナフィラキシーを誘導したマウスに対する短鎖脂肪酸の効果を評価したところ、短鎖脂肪酸を4~6日間経口投与したマウスでは、アナフィラキシーが有意に抑制されることがわかりました。そこで、細胞レベルで何が起こっているのかを明らかにしようと、骨髄由来のマスト細胞を短鎖脂肪酸とともに培養し、マスト細胞に対する短鎖脂肪酸の効果を評価しました。その結果、短鎖脂肪酸で前処理したマスト細胞では、IgE抗体により誘導される脱顆粒が抑制されることが判明しました。また、アレルギーやアナフィラキシーの情報伝達物質となる各種サイトカインの放出も有意に減少したとのことです。
短鎖脂肪酸とは?
今回の研究テーマになった短鎖脂肪酸について教えてください。
眞鍋先生
短鎖脂肪酸は、大腸で消化されにくい食物繊維やオリゴ糖をビフィズス菌といった腸内細菌が発酵させることによって作られます。短鎖脂肪酸の大部分は大腸粘膜組織から吸収され、腸の上皮細胞の増殖や粘液の分泌、水やミネラルの吸収のためのエネルギー源として使われています。さらに、一部は血流に乗って全身に運ばれ、肝臓や筋肉、腎臓などの組織でエネルギー源や脂肪を合成する材料としても使われています。
短鎖脂肪酸には免疫反応を制御するほかにも、腸内を弱酸性の環境にすることで有害な菌の増殖を抑制したり、大腸の粘膜を刺激したりして蠕動運動を促進するなど、様々な機能があることが知られています。こうした短鎖脂肪酸を増やすには、海藻類やいも類、野菜・果物類といった水溶性食物繊維を多く摂るか、発酵食品などを食べてビフィズス菌を含むいわゆる善玉菌と呼ばれる腸内細菌を増やすことが大切です。
研究内容への受け止めは?
東京理科大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください 。
眞鍋先生
花粉症をはじめとして我々に身近な疾患であるアレルギーに対して、主に食物繊維からつくられる短鎖脂肪酸がどのようにそれを抑制するかの機構の一端を明らかにしました。こうした機構を明らかにすることで、アレルギーを起こしにくくする新薬や食品の開発や、逆に悪化させる可能性のある薬や食品がなぜそのような働きをするかが同時に判明します。
まとめ
東京理科大学らの研究グループは、短鎖脂肪酸によるアレルギー抑制作用に関して、マウス・細胞・遺伝子レベルの解析を用いて、作用するメカニズムの解明に成功したと発表しました。短鎖脂肪酸は最近多くの注目を集めており、アレルギー抑制のメカニズムを明らかにした今回の研究は注目を集めそうです。