「暑すぎる・寒すぎると早産リスクを増加させる」気温と早産に関する研究結果 東京医科歯科大学
東京医科歯科大学の研究グループは、妊娠期間と気温の関係を調べる研究を実施して「極端な寒さや暑さが、早産のリスクを増加させる」という結果を発表しました。この内容について、馬場医師に伺いました。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
研究グループが発表した内容とは?
今回、東京医科歯科大学の研究グループが発表した内容について教えてください。
馬場先生
東京医科歯科大学の研究グループは、外気の気温と妊娠期間についての関係を調べる研究をおこないました。研究結果は、国際科学誌「BJOG:An International Journal of Obstetrics & Gynaecology」の電子版に掲載されています。
地球温暖化の影響で暑すぎたり寒すぎたりする日が増えると、人々の健康に悪い影響を及ぼすことはわかっていましたが、それが早産にどのように影響するかは不明でした。研究グループは、2011~2020年までの10年間にわたり、沖縄県を除いた46都道府県を対象に、1日の平均気温と早産の発生件数の関連を調べました。なお、調査では日本産科婦人科学会の周産期登録データベースと気象庁の気象データを活用し、気温の影響が現れるまでの時間差を考慮しています。
1日の平均気温が0.8℃の場合は早産のリスクが15%増加、1日の平均気温が30.2℃の場合は早産のリスクが8%増加し、「妊婦が寒さや暑さにさらされると、早産になるリスクが増加する」ということが研究の結果で明らかになりました。また、寒さや暑さによる早産への影響は、35歳未満の場合や妊娠34週以降の後期早産において、より強くみられることも判明しました。
研究グループは、「地球温暖化の影響をますます身近に感じるようになる中、極端な暑さや寒さが健康に与える影響を最小限にするために、医療機関は一層の取り組みが求められる」との認識を明らかにしています。さらに、「妊娠中の母親や赤ちゃんの健康を守り、社会全体の健康促進につながることが期待される」とも述べています。
早産の定義とそのリスクとは?
早産の定義とそのリスクについて教えてください。
馬場先生
妊娠期間は一般に40週ですが、早産は「赤ちゃんが妊娠37週より早く生まれること」を指します。さらに、早産は以下に細かく分けられます。
超早産児:在胎28週未満で出生
極早産児:在胎28週以上、32週未満で出生
中等度早産児:在胎32週以上、34週未満で出生
後期早産児:在胎34週以上、37週未満で出生
生まれた時期により、早産児の臓器は発達が不十分であるため、子宮外で機能する準備がまだできていないことがあります。早産は5歳未満の子どもの死亡原因1位であり、世界的にも深刻な問題です。特に極早産児として生まれた新生児は、長期的な健康問題を抱えるリスクが上昇し、発達の遅れ、脳性麻痺、学習障害などがみられます。
とはいえ、早産児の大半は長期的な健康問題を抱えることなく成長します。定期的な出生前ケアを受けることに加え、危険因子や妊娠の合併症を特定して治療すること、そして喫煙を止めることなどが早産児が生まれるリスクを抑える最善のアプローチとされています。また、今回の発表にもあるとおり、極端な気温の変化にも気をつけるよう心がけましょう。
今回の発表内容への受け止めは?
東京医科歯科大学の研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
馬場先生
今回の外気温と早産リスクに関する研究は、妊娠している女性にとって少しでも良い環境をご自身の子どもに準備したいという気持ちがあるかと思いますので、有意義な発表であると考えます。ただし、沖縄県を除く日本国内のデータなので、海外におけるデータ、特に暑い・寒い国や地域との関係性に興味があります。また、気象庁のデータを基に外気温との関係性を示しているため、妊婦が実際に過ごす生活気温との関係性も気になります。
寒い日には暖房施設などで温かく過ごす、暑い日にはエアコンなどで涼しく過ごすこと。このように、快適な温度環境を妊娠中に準備することによって、実際に早産リスクが軽減するのか、さらなる研究結果が待たれます。そして、早産を予防するには、かかりつけの医師の妊婦健診をきちんと受診し、その指導に従いましょう。日頃から無理のない妊娠生活を心がけることが大切です。
まとめ
東京医科歯科大学の研究グループは、妊娠期の女性が極端な寒さや暑さにさらされると早産のリスクが上昇することを明らかにしました。今後の研究で、さらに原因が解明されていくことに期待が集まります。