花粉症で目のかゆみや充血などの症状が出るメカニズム解明 順天堂大学ら研究グループ
順天堂大学らの研究グループは「花粉症の症状が目にすぐ出るのは、花粉の殻に反応して迅速にアレルギー物質を取り込む特殊なメカニズムが原因である」と発表しました。この内容について郷医師に伺いました。
監修医師:
郷 正憲(徳島赤十字病院)
研究グループが発表した内容とは?
今回、順天堂大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
郷先生
今回紹介するのは順天堂大学らの研究グループによるもので、粘膜に守られているはずの目に花粉症の症状がすぐに出る原因について調べた研究です。この研究成果は、アメリカの科学誌「JCI Insight」オンライン版に掲載されています。
研究グループはまず初めに、アレルギーの原因となるアレルゲンが、粘膜組織内で分布する様子を花粉の殻の有無で比較しました。その結果、花粉の殻とともに点眼した場合は、杯細胞という粘膜を放出する細胞内に大量にアレルゲンを取り込み、免疫細胞に受け渡している様子が観察されました。点眼から5分以内に観察されたことから、杯細胞を通じた能動的な取り込みが、アレルギー症状発症までの時間が早いことと関連していると考えた研究グループは、マウスを用いて花粉の点眼後に目を洗ってみました。すると、10分後に洗眼したマウスと洗眼しなかったマウスとでは、花粉症の発症レベルにほとんど差がないことがわかりました。
研究グループは、「花粉が目に付着してすぐに杯細胞を介したアレルゲンの取り込みがおこなわれてしまい、その後に花粉がついたままであるかどうかはほとんど影響がないということがわかった」としています。杯細胞を通じた物質の取り込み経路は、GAP(Goblet cell associated antigen passage)と呼ばれています。目で生じるGAPはほとんどみられませんでしたが、花粉の殻の刺激によって大量に生じて、アレルギー反応を促進することが明らかになりました。さらに、研究を進めると、粘液放出とGAP形成は別々の信号で制御されていることもわかったとのことです。
今回の研究成果について、研究グループは「今後はこの信号の使い分けを解明し、目を保護しながらアレルギーを抑制する方法の探索や、鼻などの粘膜におけるGAPの役割の解明など、花粉症の予防や治療につながるように、さらなる研究をおこなっていきます」とコメントしています。
研究実施の背景は?
順天堂大学らの研究グループが、今回の研究を進めた背景にはどのようなことがあったのでしょうか?
郷先生
花粉症は国内で約3000万人が罹患(りかん)する日本で最も多いアレルギー疾患で、現在も患者数は増加し続けています。花粉症の症状は、花粉が付着して早ければ数分で表れはじめますが、ここまで短時間に反応が生じる理由は明らかになっていませんでした。アレルゲンとなる花粉などのタンパク質は分子サイズが大きいため、普段は粘膜のバリア機能によって阻まれているので、何らかのバリア機能の破綻が起きて、アレルギーの症状が出やすくなると考えられてきました。
研究グループは、これまでのマウスを用いた実験で、花粉エキスを点眼しただけでは花粉症がほとんど発症せず、花粉の殻と一緒に点眼することによって花粉症が生じることを明らかにしました。こうした知見から、今回の研究実施につながった背景があります。
発表内容に対する受け止めは?
順天堂大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
郷先生
花粉症は非常に多くの人が発症しており、治療はアレルギーを抑える薬の使用がメインです。しかし、副作用があったり、治療をしても症状が出たりするなど、今までの治療では限界がありました。
今回の研究結果は花粉症による症状のメカニズムの一端を解明したということで、このメカニズムを阻害するような薬を開発することができれば現在使用されている薬よりも、より効果的な薬を開発できる可能性があります。また、特異的に作用する薬であれば副作用を減らすことができるかもしれません。今後の創薬に期待しましょう。
まとめ
順天堂大学らの研究グループは、花粉症の症状が目にすぐ出るのは、花粉の殻に反応して迅速にアレルギー物質を取り込む特殊なメカニズムが原因であることを明らかにしました。今後も研究が進み、花粉症への新たな治療につながることが期待されます。