国内初の「飲む中絶薬」厚生労働省が薬事承認 妊娠9週までが服用対象
厚生労働省は4月21日に開かれた薬事・食品衛生審議会の薬事分科会で、イギリスの製薬会社ラインファーマが開発した人工妊娠中絶のための飲み薬「メフィーゴパック」の薬事承認を了承しました。このニュースについて馬場医師に伺いました。
監修医師:
馬場 敦志(医師)
薬事分科会が了承した内容とは?
薬事・食品衛生審議会の薬事分科会が了承した内容について教えてください。
馬場先生
4月21日の薬事分科会では、イギリスの製薬会社ラインファーマが開発した人工妊娠中絶の経口薬であるメフィーゴパックについての審議がおこなわれました。メフィーゴパックをめぐっては、2023年1月の段階で厚生労働省の専門家の部会で承認することを認める意見がまとまったものの、より慎重な検討が必要とされたため分科会で改めて議論することになっていました。分科会で議論した結果、妊娠9週までの妊婦を対象にメフィーゴパックの使用を認めることが了承されました。
なお、薬を投与できるのは母体保護法指定医師として都道府県医師会に指定を受けた医師のみで、服用した人が横になる場合に備えてベッドがある病院や診療所のみで使用が認められます。入院・外来どちらでも可能としていますが、体制が確立されるまでは中絶が確認されるまでは院内で待機することが必須です。今後、厚生労働省が正式に承認の手続きをおこなう見通しで、中絶が薬によって可能となります。
メフィーゴパックとは?
薬事分科会が了承したメフィーゴパックとは、どのような薬なのか教えてください。
馬場先生
メフィーゴパックはホルモンの働きを抑えて妊娠の進行を止める「ミフェプリストン」という薬と、子宮を収縮させる「ミソプロストール」という2種類の薬を合わせて販売する際の名称です。投与の対象となるのは、妊娠9週までの妊婦となります。妊娠の進行を止めるミフェプリストンを服用してから36~48時間後に、子宮を収縮させるミソプロストールを服用します。
経口薬による中絶は、手術と違って麻酔の必要がなく、子宮を傷つけるリスクも低いとされています。国内でおこなわれた臨床試験では、中絶希望の妊婦120人の約93%である112人が24時間以内に中絶を終えました。中絶を終えなかった8人のうち、5人は排出が確認できず、また3人は体内に一部が残り、取り出す措置がおこなわれました。臨床試験で薬を服用した後に、全体の約58%にあたる69人が腹痛やおう吐などの症状を訴え、このうち4人に異常な子宮出血や子宮内膜炎など症状が出たとのことです。
今回のニュースへの受け止めは?
厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の薬事分科会が国内初の経口中絶薬を了承したことについて受け止めを教えてください。
馬場先生
現在、日本国内で中絶をおこなう場合は、手術による方法しかありません。今回、人工妊娠中絶の内服薬が承認されたことで、中絶方法の選択肢が増えるというメリットがあります。ただし、人工妊娠中絶が手軽で容易なものという認識になり、命を軽くみてしまうのではないかという懸念があります。手軽に薬が手に入ると、中絶薬を混入する事件など犯罪に利用される恐れがあり、その流通や管理体制の整備が必要でしょう。
日本国内においては、世界的に見ても中絶手術は合併症の発症率は低く安全におこなわれています。WHOでは、中絶方法は吸引法もしくは経口中絶薬を推奨していますが、日本では内服薬の使用に習熟した医師が少ないこともあり、そのまま日本に適応できるかは検討すべきでしょう。人工妊娠中絶の内服薬による失敗するリスクが約5%程度あり、手術を要するケースがあることや、薬による副作用の危険性があることがあるため、その使用に関しては十分な説明が必要となります。
なお、人工妊娠中絶手術は、年間で約15万件おこなわれているという現実があります。大前提として、望まない妊娠を防ぐためにも、避妊法や緊急避妊に関する知識の普及、啓発活動は引き続き必要であると考えられます。
子どもを望むときに妊娠・出産し、子どもを望まないときには妊娠を防ぐという女性の「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」を尊重し実現できるような社会体制や医療体制が重要であることは言うまでもありません。今後、人工妊娠中絶の内服薬を実際に日本国内で使用するにあたって、管理や安全体制作りなどが課題となるでしょう。
まとめ
厚生労働省は4月21日に開かれた薬事・食品衛生審議会の薬事分科会で、イギリスの製薬会社ラインファーマが開発した人工妊娠中絶のための飲み薬「メフィーゴパック」の薬事承認を了承しました。今後、厚生労働省が正式に承認の手続きをおこなう見通しです。