飲む中絶薬、年内に厚生労働省へ承認申請
イギリスの製薬会社ラインファーマが、人工妊娠中絶ができる経口薬を12月下旬に厚生労働省へ製造販売の承認申請をする方針を固めたと報じられています。このニュースについて前田医師に伺いました。
監修医師:
前田 裕斗 医師
日本における人工妊娠中絶の現状とは?
まず、日本における人工妊娠中絶の現状について教えてください。
前田先生
日本における中絶の件数ですが、2020年は約14万5000件実施されました。そして、中絶の方法には投薬と手術の2つがあり、どちらも適切に行えば安全な方法です。
実際に薬を使った中絶もWHOが安全な方法として推奨していますが、これまで日本では認められていませんでした。手術の方法についても、世界的には子宮を傷つけにくく、合併症の少ない子宮内に圧をかけて吸引する方法が主流となりつつあります。その一方、日本では最も合併症が多い、子宮に器具を入れて胎児や胎盤をかき出す「掻爬法(そうはほう)」が主流です。
なお、人工妊娠中絶は保険診療ではないので、費用は妊娠初期であれば10~20万円かかり、妊娠中期になるとさらに高額になる場合もあります。
今回承認申請される人工妊娠中絶ができる経口薬とは?
今回承認申請される経口薬について教えてください。
前田先生
イギリスの製薬会社ラインファーマが申請する経口薬は、妊娠を維持する黄体ホルモンの働きを抑える薬である「ミフェプリストン」と、子宮を収縮させる薬の「ミソプロストール」という2つの経口薬です。
日本国内での有効性と安全性を確かめる治験も行われており、妊娠9週までの120人に対して薬が投与されました。まずミフェプリストンを内服して、その2日後にミソプロストールを内服します。
112人がミソプロストール内服後24時間以内に薬だけで中絶を完了、残る8人中3人は手術のような処置が必要、1人は様子を見たところ48時間以内に中絶が完了、残りの4人は薬を内服後ではありますが、本人が手術を希望する結果となりました。
副作用については、71人が腹痛や嘔吐(おうと)などの症状を訴え、このうち薬の副作用と判断されたのは45人でした。また、1人に発熱や出血による貧血など重い症状があったということです。
ほとんどが軽度か中等度の症状でいずれも回復に向かったことから、日本人に対する有効性と安全性が示されたと報告されました。
経口薬を使う上で注意すべきポイントとは?
今回行われる申請が承認された場合、経口薬を使う上で注意すべきポイントを教えてください。
前田先生
経口薬を使う上で最も重要なのは、用法・用量を守って正しく服用することです。治験をみてもわかるように内服方法が複雑であることに加えて、用法・用量にはある程度幅があるため、承認後、施設ごとに少しずつ違った方法で提供される可能性があります。しかし、その場合でも自己判断で用量を調整する、飲まないなどは絶対にせず、医療機関で提示された通りに用法・用量を守ることが大切です。
また、一般の方に知って欲しいことは、薬にも手術にもそれぞれメリットとデメリットがあるということです。薬での中絶は手術と同じくらいの効果があり、簡便な方法でもありますが、手術と比べて中絶が完了するための時間が長くかかったり、腹痛や出血が長く続いたりするというデメリットがあります。一方の手術では、子宮を傷つける可能性があるという大きなデメリットがありますが、時間的にはすぐに中絶が完了するというメリットがあります。両者を比較して、自分の生活や考えに合う方法を選択するようにしましょう。
まとめ
今回の申請が承認されると、国内初の人工妊娠中絶の経口薬になります。WHOは中絶の経口薬が安全な方法であると推奨していており、1988年にフランスなどで承認されて以降、70カ国以上で認められています。日本でも承認され、人工妊娠中絶の選択肢の1つとなるのか、今後の注目が集まります。