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心停止患者に水素ガス投与で救命率向上 副作用なし、実用化の期待高まる

 更新日:2024/03/08
心停止の患者に水素加えた酸素投与で救命率向上

慶應大学らの研究グループは、「心停止した後に救急搬送された患者へ水素を加えた酸素を投与して救命措置をおこなったところ、通常の酸素を投与した場合よりも救命率が高まった」という研究結果を発表しました。このニュースについて甲斐沼医師に伺いました。


甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

研究グループが発表した内容とは?

今回、慶應大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回紹介するのは慶應大学らのグループによる研究で、学術誌「eClinical Medicine」に掲載されています。研究グループは、15の病院で2021年9月までのおよそ4年半の間に心停止で搬送されて意識が回復していない患者73人を対象に、2%の水素を加えた酸素を投与して救命措置をおこなった場合の効果を調べる臨床試験をおこないました。臨床試験の結果、90日後の生存率は通常の酸素の投与を受けた患者では61%だったのに対して、水素を含む酸素を受けた患者では85%となりました。また、後遺症なく回復した人の割合については、通常の酸素の投与を受けた患者では21%でしたが、水素を含む酸素を受けた患者では46%となりました。なお、現在のところ副作用はみられていません。

研究グループは、「水素は人体に害がないとされており、今回の臨床試験でも水素が原因と考えられるような副作用は観察されませんでした。実用化すれば多くの患者を救命できると考えられます」と実用化への期待感を示しています。

研究の背景とは?

慶應大学らの研究グループが今回の研究を実施した背景には、どのような要因があったのでしょうか?

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

突然、心臓のトラブルなどで心停止に陥った場合、すぐに心肺蘇生措置をおこなうことで心臓の拍動が回復して救命されることは少なくありません。ただ、脳などの組織は大きなダメージを受けるため、意識が回復しないまま死亡したり、重い後遺症が残ったりします。現在は体温管理療法がおこなわれていますが、効果はいまだ定まっていないのが現状です。

慶應大学らの研究グループは、これまでに動物実験で心停止後に水素ガス吸入をおこなうと死亡率が下がり、脳の傷害が軽減することを報告してきましたが、人にその効果があるかどうかは証明されていませんでした。こうした背景から今回、院外発生の心停止患者に対して、体温管理療法と2%水素添加酸素の吸入をおこなって、死亡率や神経学的後遺症が改善するかどうかを検討しました。

発表内容への受け止めは?

慶應大学らの研究グループが発表した今回の研究内容について受け止めを教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

心臓の病気などによって突然心臓が停止して救急医療機関に運ばれる患者例は、総務省消防庁の統計によると国内で年間およそ8万人に上ると言われています。現状では、急変して心停止した後に意識が戻らないまま死亡する、あるいは救命されても重い後遺症が残るケースも少なくありません。

今回の慶應大学らの研究グループによる実験では、想像を超える良好な結果が得ることができました。水素吸入に伴う直接的な副作用は認められず、水素を吸入すること自体大がかりな装置が必要ありませんので、引き続き多くの患者が実臨床的に使えるように実績を重ねていくことが期待されます。

今後、多くの患者を救命できるようにさらなる研究成果を進めて、治療の実用化を目指す方向性に進展することを願います。

まとめ

慶應大学らの研究グループは、「心停止した後に救急搬送された患者へ水素を加えた酸素を投与して救命措置をおこなったところ、通常の酸素を投与した場合よりも救命率が高まった」という研究結果を発表しました。今後の実用化に向けた動きにも、引き続き注目が集まります。

この記事の監修医師