水分摂取量が少ない中高年は慢性疾患の発症・早期死亡リスク増加の恐れ
アメリカのNHLBI(正式名称:National Heart, Lung, and Blood Institute/国立心肺血液研究所)の研究グループは、「中年期に水分補給量が十分でない人は、慢性疾患の発症や早期死亡のリスクも高くなる可能性がある」と発表しました。こちらのニュースについて濵﨑医師に伺いました。
監修医師:
濵﨑 秀崇(医師)
研究グループが発表した内容とは?
今回、NHLBIの研究グループが発表した内容について教えてください。
濵﨑先生
今回の研究はアメリカのNHLBIによるもので、1万1255例のデータを対象に解析(前向きコホート研究)がおこなわれました。研究グループは、水分補給量が減ると血清ナトリウム値が上昇することを利用して、水分補給習慣の代用マーカーとして血清ナトリウム値を用いました。解析の結果、中年期の血清ナトリウム値が142mmol/lを超えると慢性疾患の発症リスクは39%上昇することが明らかになりました。また、血清ナトリウム値が144mmol/lを超えると、早期死亡のリスクが21%上昇することと関連していることも示されました。さらに、血清ナトリウム値が142mmol/lを超える人は、暦上の年齢よりも生物学的な年齢が高いことと有意に関連していたほか、生物学的な年齢の高さは、慢性疾患の発症と早期死亡のリスク上昇と関連していました。
研究グループは、今回の結果の解釈について「中年期の血清ナトリウム値が142mmol/lを超える人は生物学的に高齢ということであり、慢性疾患を発症しやすく若年で死亡するリスクが高い。水分補給と老化の関連を確認するための介入研究が必要である」としています。また、「水分補給量の減少は血清ナトリウム値上昇の主因の1つであることから、今回の知見は最適な水分補給における現行の推奨を補強するものである」と結論付けています。
今回の発表内容の受け止めは?
NHLBIの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
濵﨑先生
観察研究のため未知の交絡因子が存在する可能性もありますし、血清ナトリウム値は水分量のサロゲートマーカー(診断や治療行為など、最終評価との関連を科学的に証明できる生物学的指標)なので、水分補給量と老化・慢性疾患発症との直接的な関係を示したものではないことには注意が必要です。ただその一方で、とても興味深い研究です。論文中でも引用されていますが、マウスでは水分制限が寿命を縮め変性疾患を発症させることが報告されています。適切な水分摂取が生命にとって極めて重要なことは確かですから、血清ナトリウム値以外の水分補給量を正確に示す指標を用いた研究や何らかの介入研究の結果を待ちたいと思います。
今回の研究結果が臨床現場に活かせる可能性は?
NHLBIの研究グループは「今回の知見は最適な水分補給における現行の推奨を補強するものである」と結論付けていますが、実際に臨床現場でどのように活かせる可能性があるのか教えてください。
濵﨑先生
実臨床において、血清ナトリウム値だけを見て、水分補給含めた生活指導をおこなうことはありません。患者さんの体格や持病(糖尿病、心疾患、腎疾患など)、服用している薬の種類などを総合的に考えて適切な水分補給を指導しますが、血清ナトリウム値が以前と比べて上昇傾向にあり、さらに基準値あるいは論文で示された142mmol/lを超えている場合は注意が必要でしょう。特に脱水症を起こしやすい夏場は、慢性疾患を持っている患者さんの検査結果を見る際に血清ナトリウム値にも着目することで、患者さんの健康管理に活かせると考えます。
厚生労働省も「健康のため水を飲もう」推進運動(※)をおこなっています。適切な水分補給をおこない、健康を守りましょう。
※厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html
まとめ
アメリカのNHLBIの研究グループが、「中年期に水分補給量が十分でない人は、慢性疾患の発症や早期死亡のリスクも高まる可能性がある」と発表したことが今回のニュースでわかりました。水分補給と老化の関連についての更なる研究に注目が集まります。