「週に150分の身体活動」で新型コロナウイルスの重症化・死亡リスク低下
スペインのバレンシア大学の研究グループは、約185万例の成人のデータ解析をおこない、「身体活動量と新型コロナウイルスの感染、重症化、入院および死亡との関連を定量化したところ、中等度の強度で週に150分の身体活動をすることで、新型コロナウイルスの重症化・死亡リスクが最小化する」と発表しました。このニュースについて濵﨑医師に伺いました。
監修医師:
濵﨑 秀崇(医師)
研究グループが発表した内容とは?
今回、バレンシア大学の研究グループが発表した論文の内容を教えてください。
濵﨑先生
スペインのバレンシア大学の研究グループは、身体活動量と新型コロナウイルスの感染、重症化、入院および死亡との関連を定量化するため、システマティック・レビューとメタ解析を実施しました。対象になったのは185万3610例で、対象の平均年齢は53.2歳、そのうち女性は53%でした。全体の新型コロナウイルス陽性症例数は13万4639例、入院したのは2万984例、重症化したのは7009例、死亡は2878例でした。
研究グループが解析した結果、身体活動が不活発なグループと比べて、定期的に身体活動をおこなっていたグループの感染リスクは11%低いことに加え、入院リスクも36%低くなりました。また、重症化リスクは34%、関連死リスクは43%低くなるという結果が出ました。
研究グループは発表した論文の結論で、中等強度で週150分、高強度で週75分の身体活動の有用性に触れつつも、「検討対象とした研究間の異質性や出版バイアスの可能性を考慮し、標準化された方法と評価項目を用いて、さらなる研究をおこなう必要がある」とも指摘しています。
今回の発表内容への受け止めは?
バレンシア大学の研究グループが発表した論文への受け止めを教えてください。
濵﨑先生
ガイドラインで推奨されている身体活動量(中強度の運動を150分/週、あるいは高強度の運動を75分/週)が、新型コロナウイルスによる入院・重症化・死亡リスクを低下させるという結果は非常に興味深いです。適度な運動は、免疫に関係する白血球やリンパ球の機能を高め、炎症や酸化ストレスを下げることが分かっています。また、運動をすることによって心肺機能や筋力・筋肉の質が向上します。したがって、運動の健康効果が今回の研究結果に現れたものだと考えられます。
ただし、メタ解析に組み込まれた全ての研究は観察研究(横断研究や症例対照研究)であるため、身体活動と新型コロナウイルス感染および重症度との因果関係については分かりませんが、よく体を動かすことの大切さを示す重要な研究であると言えるでしょう。
治療現場でどのように活かせる?
「中等度の強度で週に150分の身体活動で新型コロナウイルスの重症化・死亡リスクが最小化する」という内容の研究結果が示されましたが、治療現場ではどのように活用できる可能性がありますか?
濵﨑先生
コロナ禍の感染対策によって、人々の身体活動量が減っていることが報告されています。(https://www.mdpi.com/2076-3417/11/21/9956)身体活動量の低下が原因で太ったり筋肉が衰えたりすると、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病は悪化し、新型コロナウイルスも含めた感染症の感染リスクが高くなります。我々医師は、日頃から適度な運動をおこなうように患者さんへ語りかけることが大切になってきます。また、新型コロナウイルスが怖くて家に閉じこもっている患者さんに対しては、今回の研究のエビデンスを分かりやすく説明して、体を動かすことの健康効果を知っていただきたいと思います。新型コロナウイルスに負けず体を動かすこと、すなわち適度な運動は”副作用のない薬”みたいなものです。ぜひ、みなさんも積極的に体を動かしてみてくださいね。
まとめ
スペインのバレンシア大学の研究グループが、「中等度の強度で週に150分の身体活動をすることで、新型コロナウイルスの重症化・死亡リスクが最小化する」という研究結果を発表したことが今回のニュースでわかりました。運動と新型コロナウイルスのリスクの関係については、今後も注目を集めそうです。