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「食道がん」の生存率が高まる治療法はご存じですか? FLOT療法の研究結果を医師が解説

 公開日:2025/04/01

ドイツのビーレフェルト大学医学部の研究員らは、食道腺がんに対する治療法として「FLOT療法(周術期化学療法)」と「術前化学放射線療法」の効果の比較を目的とした研究をおこないました。研究結果によると、FLOT療法を受けた患者は、術前化学放射線療法を受けた患者と比較して3年生存率や無増悪生存率が高く、より良好な治療成績を示したとのことです。この内容について、吉川医師にお話を伺いました。

吉川 博昭

監修医師
吉川 博昭(医師)

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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。

研究グループが発表した内容とは?

ドイツのビーレフェルト大学医学部の研究員らが発表した内容を教えてください。

吉川 博昭 医師吉川先生

今回紹介する研究報告はドイツのビーレフェルト大学医学部の研究員らによるもので、研究報告は医学雑誌「The New England Journal of Medicine, NEJM」に掲載されています。

今回の第3相多施設ランダム化試験では、切除可能な局所進行食道腺がんの患者を対象に、周術期化学療法であるFLOT療法(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)と術前化学放射線療法(41.4Gyの放射線療法とカルボプラチンおよびパクリタキセル)の効果を比較しました。この試験には438名が参加し、FLOT療法群と術前化学放射線療法群に1:1の比率で割り当てられました。主要評価項目は全生存率とされ、中央値55カ月の追跡期間で3年生存率はFLOT療法群で57.4%、術前化学放射線療法群で50.7%でした。また、3年無増悪生存率もFLOT療法群の方が高い結果となりました。

一方で、有害事象の発生率も考慮する必要があります。グレード3以上の有害事象はFLOT療法群で58.0%、術前化学放射線療法群で50.0%に観察され、重篤な有害事象の発生率もFLOT療法群の方がやや高くなりました。手術後90日以内の死亡率はFLOT療法群で3.1%、術前化学放射線療法群で5.6%と、FLOT療法群の方が低い結果となりましたが、どちらの治療法にも一定のリスクが伴うことが示されています。

本研究では、FLOT療法が術前化学放射線療法と比較して全生存率を改善することが明らかになりましたが、有害事象の発生率が高い点は注意が必要であると言えるでしょう。

研究テーマになった疾患とは?

今回の研究テーマに関連する食道がんについて教えてください。

吉川 博昭 医師吉川先生

食道がんは喉と胃をつなぐ食道にできるがんで、日本では特に食道の中央部分にできやすく、多くの人が「扁平上皮がん」というタイプになります。食道がんの主な原因は、喫煙や飲酒です。特に、お酒を飲むと顔が赤くなる体質の人は、発症リスクが高いとされています。また、野菜や果物が不足した食生活も影響を与える可能性があります。

食道がんは、初期のうちはほとんど症状がありません。少し進行すると、食べ物がしみる感じや胸の違和感を覚えることがあります。さらにがんが大きくなると、飲み込みにくさが出てきたり、食べ物がつかえる感じが強くなったりします。症状が進むと、胸や背中の痛み、咳、声のかすれなども出ることがあります。食道がんは、転移しやすいがんの1つなので、できるだけ早く見つけることが大切です。

健康診断や人間ドックで、胃カメラやバリウム検査を受けることで、食道がんを早期発見できる可能性が高まります。日頃からお酒やタバコを控え、食生活に気をつけながら、少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。

研究内容への受け止めは?

ドイツのビーレフェルト大学医学部の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。

吉川 博昭 医師吉川先生

本研究は、食道腺がんに対するFLOT療法の有効性を示しています。FLOT療法群は術前化学放射線療法群と比較して全生存率が高く、手術後90日以内の死亡率も低い結果となりました。その一方で、人種や遺伝的背景による治療効果の差異、長期的なQOL、機能回復の部分については、今後さらなる調査が必要であると感じました。

編集部まとめ

今回紹介した研究では、食道がんの治療法としてFLOT療法という周術期化学療法が、従来の術前化学放射線療法よりも生存率を向上させる可能性が示されました。ただし、副作用のリスクもあるため、患者さんごとに適した治療を選ぶことが重要です。

食道がんは進行するまで症状が出にくいため、早期発見がカギとなります。定期的な検診や生活習慣の見直しが、予防と早期発見につながります。健康を守るために、日頃から意識して取り組んでいきましょう。

※提供元「日本がん対策図鑑」【食道がん:術前治療(3年OS)】「5-FU+ロイコボリン +オキサリプラチン +ドセタキセル 」vs「放射線療法 +カルボプラチン +パクリタキセル」
https://gantaisaku.net/esopec/

この記事の監修医師

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