切除不能の「食道がん」に希望の光、研究で判明した抗がん剤治療の“新たな可能性”とは
神奈川県立がんセンター副院長兼消化器外科(胃食道)部長・大島貴氏らの研究グループは、食道がんに対する新しい治療法の効果と安全性を評価した臨床試験(第2相試験)の結果について報告しました。この内容について五藤医師に伺いました。
監修医師:
五藤 良将(医師)
研究グループが発表した内容とは?
大島貴氏らの研究グループが発表した内容を教えてください。
今回紹介する研究報告は、神奈川県立がんセンター副院長兼消化器外科(胃食道)部長・大島貴氏らの研究グループによるもので、その研究報告は学術誌「Nature」に掲載されています。
食道がんは日本で最も一般的ながんの1つであり、新しい治療法の開発が求められています。研究では、E7389-LF(注射剤:エリブリンリポソーム製剤)の抗がん剤と免疫チェックポイント阻害剤「ニボルマブ」の併用療法の効果と安全性を報告しています。免疫チェックポイント阻害剤とは、免疫ががん細胞を攻撃する力を保つ(ブレーキがかかるのを防ぐ)働きで免疫細胞の力を回復させる薬剤です。切除不能および事前治療を受けた食道がんの日本人患者35名を対象にE7389-LF(2.1mg/m²)とニボルマブ(360mg)を3週間ごとに投与し奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性を評価項目としています。
研究の結果、腫瘍の大きさが治療開始前と比べて一定以上(一般的に30%以上)縮小した状態の部分奏効(PR)は7人(20.0%)、腫瘍の大きさに変化がみられない安定(SD)は14人(40.0%)、治療効果が表れた、または表れる割合の奏効率(ORR)は20.0%で、奏効期間は5.6カ月でした。また、主な副作用として、白血球の一種で体内の感染と戦う重要な役割を持つ好中球が減少する「好中球減少(65.7%)」「発熱(60.0%)」「白血球減少(57.1%)」が確認されました。
結論として「E7389-LFとニボルマブの併用療法は、切除不能で前治療歴のある食道がん患者において抗腫瘍効果を示した」としています。
研究テーマになった疾患とは?
今回の研究テーマに関連する食道がんについて教えてください。
食道がんは食道(食物や飲料を胃に運ぶ管)の粘膜上皮から発生するがんで、初期は無症状であることが多い一方、進行すると嚥下困難、胸部痛、体重減少、咳嗽、嗄声などの症状が表れることもあります。喫煙や飲酒の習慣がリスク因子として強く関連しており、特に両方の習慣を持つ場合にはリスクがさらに上昇します。また、熱い飲み物の習慣や慢性的な刺激も要因となることもあります。
食道がんの早期発見には内視鏡検査が最も有効であり、定期検診の重要性が強調されます。初期はほとんど症状がなく、進行すると「食べ物が飲み込みにくい」「喉や胸の痛み」「体重減少」「咳」「声のかすれ」などが起こります。特に、喫煙や飲酒が食道がんとの関連が強く、両方の習慣がある場合は危険性がさらに高まります。ほかにも、熱い飲み物を頻繁に飲む習慣や、食道への慢性的な刺激が原因になることもあります。
がん全般に言えることですが、禁煙と適量の飲酒、バランスの良い食事や運動が予防法として挙げられます。特に食道がんは、お酒の飲みすぎと喫煙習慣を見直すことが大切です。
紹介した研究内容への受け止めは?
大島貴氏らの研究グループらの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
神奈川県立がんセンターの研究は、治療選択肢が限られる切除不能食道がん患者に対して、新たな希望をもたらす重要な一歩であると考えます。E7389-LFとニボルマブの併用療法は、奏効率や安全性の面で意義深い結果を示しており、特に前治療歴のある患者における臨床的な意義が評価されます。今後、さらなる大規模な臨床試験によって、これらの結果が確認され、より幅広い患者層での適応が期待されると考えます。
編集部まとめ
神奈川県立がんセンター副院長兼消化器外科(胃食道)部長・大島貴氏らの研究グループは、E7389-LFとニボルマブの併用療法が、切除不能で事前治療を受けた食道がん患者に対してがんの増殖抑制効果を示しました。さらに幅広い患者群で評価を進めるべきと考えられます。この研究は、新しい治療法が食道がん患者に希望をもたらす可能性を示唆している一方で、さらなる研究が必要とされています。
※提供元:「日本がん対策図鑑」【食道がん:二次治療(ORR)】「オプジーボ+リポソーム化エリブリン」
https://gantaisaku.net/study-120_ec/