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「転移性ホルモン感受性前立腺がん」治療、がんの進行を遅らせる“新たな選択肢”とは

 公開日:2025/01/18

福島県立医科大学医学部特任教授の植村元秀氏らの研究グループは、転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)患者を対象に、ダロルタミド(商品名:ニュベクオ)をアンドロゲン除去療法(ADT)およびドセタキセルと併用する治療の有効性と安全性を評価しました。この内容について五藤医師に伺いました。

五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。現在は「竹内内科小児科医院」の院長。日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医。

研究グループが発表した内容とは?

福島県立医科大学 医学部 特任教授の植村元秀氏らの研究グループが発表した内容を教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

今回紹介する研究報告は、福島県立医科大学医学部特任教授の植村元秀氏らの研究グループによるもので、その研究報告は医学雑誌「Cancer Medicine」に掲載されています。

転移性ホルモン感受性前立腺がん(mHSPC)に対して、ダロルタミドという新しい薬の効果を調べるために実施された大規模な臨床試験「ARASENS試験」に基づくもので、ダロルタミドをアンドロゲン除去療法(ADT)およびドセタキセルと併用する治療の有効性と安全性を評価しました。この試験は、プラセボを用いた対照群との比較でおこなわれ、全生存期間(OS)が主要評価項目とされました。ARASENS試験全体の結果では、ダロルタミド併用群で死亡リスクが32.5%低下し、安全性も良好であることが示されました。

今回の発表では、148例(ダロルタミド63例、プラセボ85例)の日本人患者に焦点を当てた解析結果が報告されています。75歳以上の高齢者が多く、BMIが25未満の割合が高かったとのことです。ダロルタミドを併用した治療を受けた患者は、そうでない患者と比較して、がんがさらに悪化するまでの時間が有意に長かったという結果が出ました。これはダロルタミドが、がんの進行を遅らせる効果があることを示唆しています。

全生存期間については、統計学的な有意差がみられませんでしたが、プラセボ群の85%の患者がその後の延命治療を受けていたこともあり、その影響も示唆しています。また、ダロルタミドを併用した治療は、日本人患者においても比較的安全であることが示されました。ただし、ドセタキセルという抗がん剤に関連する副作用が、日本人患者ではやや多く見られたという点に注意が必要です。

これらの結果から、ダロルタミドを併用した治療は、日本人の転移性ホルモン感受性前立腺がん患者にとっても有効かつ安全な治療選択肢の1つとなる可能性が示唆されました。

研究テーマになった疾患とは?

今回の研究テーマに関連する前立腺がんについて教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

前立腺がんは、前立腺の細胞が異常に増殖することで発生する悪性腫瘍です。遺伝的要因が強く、家族歴がある場合、リスクが通常の2~5倍に上昇するとされています。多くの場合、早期の段階では自覚症状がほとんどありませんが、排尿時の違和感や頻尿などが初期症状として表れることもあります。

がんの早期発見は予後の改善に重要ですが、現在のところ前立腺がんは厚生労働省の推奨するがん検診の対象外です。そのため、リスクが高いと感じられる方や症状がある方は、速やかに専門医を受診し、適切な検査を受けることをおすすめします。

紹介した研究内容への受け止めは?

植村元秀氏らの研究グループらの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

今回の研究内容は、日本人患者を対象としたデータ解析が含まれている点が非常に意義深いと考えます。転移性ホルモン感受性前立腺がんは進行性の疾患であり、治療選択肢の拡大が必要とされています。本研究で示されたダロルタミド併用療法は、従来の治療法と比較してがんの進行を遅らせる有効性が確認されました。また、副作用に関するデータが充実しているため、安全性の評価も高い水準でおこなわれています。特に、日本人特有の身体的特徴を考慮した解析結果は、国内の臨床現場での実践に役立つ情報を提供しており、今後の標準治療の確立に寄与する可能性があります。

本研究は、がん治療における新たな希望を提供するものであり、患者と医療従事者の双方にとって重要な進展であると受け止めています。

編集部まとめ

福島県立医科大学 医学部 特任教授の植村元秀氏らの研究グループはARASENS試験の結果、日本人男性の転移性ホルモン感受性前立腺がん患者さんに対して、ダロルタミドを他の治療薬と併用する治療が有効であることが示されました。特に、がんの進行を遅らせる効果が認められ、安全性についても大きな問題はありませんでした。副作用として、白血球の一種である好中球の減少が他の患者と比べてやや多く見られましたが、この研究は、mHSPCという難治性の病気に対する新たな治療法開発につながる重要な一歩となることが期待されます。

※提供元:「日本がん対策図鑑」【ホルモン感受性前立腺がん(日本人):一次治療】「ニュべクオ+アンドロゲン除去療法+ドセタキセル」vs「アンドロゲン除去療法+ドセタキセル」
https://gantaisaku.net/arasens_jpn/

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