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「前立腺がん」の治療法に新たな可能性、日本人患者で改善を確認 国立がん研究センター

 公開日:2025/03/26

日本の国立がん研究センター東病院の研究員らは、転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)患者における「タラゾパリブ(商品名:ターゼナ)」と「エンザルタミド(商品名:イクスタンジ)」の併用療法の有効性と安全性を評価した第3相試験「TALAPRO-2」の日本人患者のデータに関する解析をおこないました。研究結果は、学術誌「Wiley Online Library」に掲載されています。この内容について村上医師に伺いました。

村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

研究グループが発表した内容とは?

国立がん研究センター東病院の研究員らが発表した内容を教えてください。

村上知彦医師村上先生

国立がん研究センター東病院の研究員らなど、日本の複数の大学や医療機関の研究者によっておこなわれた研究では、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象に、「タラゾパリブとエンザルタミドの併用」と「プラセボとエンザルタミドの併用」を比較しました。

その結果、日本人患者においても全体集団と同様に、併用療法の有効性と安全性が示されました。日本人患者の放射線学的無増悪生存期間(rPFS)の中央値は未到達であり、プラセボ群との差は統計的に有意ではありませんでした。しかし、相同組換え修復遺伝子変異(HRR)を持つ患者に限ると、タラゾパリブ併用群で病勢進行のリスクが低減し、特にBRCA1/2遺伝子変異を持つ患者では、併用療法の効果がより顕著に現れました。一方、安全性に関しては、日本人患者においても全体集団と同様の副作用プロファイルが確認され、貧血や好中球減少症が主な治療関連有害事象でした。

懸念点として、日本人患者ではグレード3/4の好中球減少症の発生率が高い傾向がありましたが、これは体重やベースラインの好中球数の違いによるものと考えられています。今後、最終的な全生存データや長期的な安全性データが明らかになることで、日本人患者における治療の有効性と安全性がさらに確立されることが期待されます。

研究テーマになった疾患とは?

今回の研究テーマに関連する前立腺がんについて教えてください。

村上知彦医師村上先生

前立腺がんは男性にしかない「前立腺」という臓器にできるがんで、初期のうちはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると排尿がしづらくなったり血尿が出たり、がんが骨に広がると痛みを感じることがあります。前立腺がんの診断には、まず血液検査で「PSA」という数値を測定します。また、必要に応じてMRIや超音波検査をおこない、確定診断には前立腺の組織を採取して調べる前立腺生検が必要になります。

前立腺がんの治療法には、いくつかの選択肢があります。転移がない場合は、前立腺を取り除く手術や放射線治療が一般的です。非常に早期のがんでは、すぐに治療せずに慎重に経過を観察する「監視療法」を選ぶこともあります。一方、がんが転移している場合は、ホルモン療法や化学療法をおこないます。どの治療を選ぶかは、がんの進行度や患者さんの希望によって決まります。

前立腺がんは、早期に発見すれば治療しやすい病気です。定期的な健康診断を受け、気になる症状があれば早めに医師に相談しましょう。

前立腺がん治療に関する研究内容への受け止めは?

国立がん研究センター東病院の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。

村上知彦医師村上先生

日本では、ホルモン治療抵抗性となった転移性前立腺がんの治療については、新規ホルモン治療薬や抗がん剤治療のドセタキセルが第一選択治療とされています。しかし、近年では同じ前立腺がんの中でも遺伝子変異の有無によって、別の有効な治療法が選択できるようになってきています。例えば、BRCA1/2遺伝子変異を有する患者では、オラパリブ単剤療法が国内でも選択できますが、ガイドラインでの推奨レベルは「弱い」となっています。

今回の報告では、BRCA1/2遺伝子変異を有する日本人前立腺がん患者におけるタラゾパリブとエンザルタミドの併用療法について、その有効性と安全性が示されました。今後、このようなデータの集積とともにガイドラインも改定され、様々な有効な治療法の選択ができるようになっていくと考えます。

編集部まとめ

今回の研究では、日本人の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象に、タラゾパリブとエンザルタミドの併用療法の有効性と安全性を検証しました。前立腺がんは定期的な健康診断を受けることが早期発見につながります。少しでも気になる症状があれば、早めに医師に相談しましょう。

※提供元「日本がん対策図鑑」【去勢抵抗性前立腺がん(日本人):一次治療(PFS)】「ターゼナ+イクスタンジ」vs「イクスタンジ」
https://gantaisaku.net/talapro-2_jpn/

この記事の監修医師

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