「HER2陰性胃がん」の治療に進展、スイッチ維持療法で生存期間の延長が期待
イタリアIRCCS財団ミラノ国立がんセンター腫瘍内科の医学博士ジョン・ランドン氏らの研究グループは、HER2陰性の進行胃がんや胃食道接合部がん患者に対して、パクリタキセル+ラムシルマブ(商品名:サイラムザ)によるスイッチ維持療法の有効性と安全性を評価について報告しました。この内容について五藤医師に伺いました。
監修医師:
五藤 良将(医師)
研究グループが発表した内容とは?
イタリアIRCCS財団ミラノ国立がんセンター腫瘍内科 医学博士ジョン・ランドン氏らの研究グループが発表した内容を教えてください。
イタリアIRCCS財団ミラノ国立がんセンター腫瘍内科の医学博士ジョン・ランドン氏らの研究グループによるもので、その研究報告は医学雑誌「The Lancet Oncology」に掲載されています。
イタリアの31の病院でおこなわれた多施設、非盲検、無作為化、第3相試験のARMANI試験を実施し、18歳以上のHER2陰性の進行胃がんや胃食道接合部がん患者を対象に「一次治療(オキサリプラチン+フルオロピリミジン)の継続」と、「パクリタキセル(抗がん剤)+ラムシルマブ(血管新生阻害薬)によるスイッチ維持療法」を比較し、無増悪生存期間(PFS)や安全性を評価しています。試験期間は2017年1月~2023年10月で、280人を対象としました。そのうちスイッチ維持療法群は144人、対象は136人、すべて白人で男性患者が64%です。
その結果、無増悪生存期間(PFS)はスイッチ維持療法群で144例中131例(91%)・中央値6.6カ月、対象では136例中122例(90%)・中央値3.5カ月となりました。また、24カ月の制限平均生存期間の解析ではスイッチ維持療法の方が有利であるため、短期的および中期的な効果が期待できる治療法と考えられます。安全性や副作用では、好中球減少症の頻度がスイッチ維持群(26%)で高いことから、患者の免疫状態管理が治療中の重要な課題となりそうです。そのほかの重篤な有害事象として、スイッチ維持群141例中28例(20%)、対象群は135例中15例(11%)に発現し、治療関連死はありませんでした。
スイッチ維持療法はHER2陰性の進行胃がん患者にとって有望な治療選択肢となり得ますが、安全性管理や他人種への適応性など、さらなる検討が求められます。
研究テーマになった疾患とは?
今回の研究テーマに関連する胃がんについて教えてください。
胃がんは、胃壁の内側にある粘膜で発生する悪性腫瘍であり、がん細胞は粘膜下層、固有筋層、漿膜へと進展します。早期胃がんは粘膜または粘膜下層にとどまるがんであり、進行胃がんは固有筋層以上に達したものを指します。初期症状がほとんどないため、定期的な内視鏡検査が重要です。また、ヘリコバクター・ピロリの感染は胃がんリスクを高めることが知られており、除菌治療が予防の一助となります。
今回の研究は、手術が困難なHER2陰性進行胃がんに対し、新たな治療法の可能性を示唆しています。今回のテーマであるHER2とは、細胞表面に存在するタンパクの1つで、ヒト上皮成長因子受容体2型の略語です。化学療法ではHER2陰性と陽性で使用できる薬剤も異なります。
今回の研究は、手術でがんを切除することが難しいHER2陰性の進行胃がんについて、新たな治療の可能性が考えられるとしています。
研究内容への受け止めは?
ジョン・ランドン氏らの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
今回の研究は、HER2陰性進行胃がん患者に対する治療選択肢を広げる重要な結果を示しています。スイッチ維持療法は、無増悪生存期間の延長を達成し、安全性も一定の範囲で許容可能とされています。ただし、好中球減少症などの有害事象が観察されたため、治療中の免疫状態の管理が必要不可欠です。また、本研究の対象が全て白人であったことから、他人種への適応可能性や長期的な安全性の検討が求められます。臨床現場において、患者ごとに適切な治療法を選択する際の貴重なエビデンスとなるでしょう。
編集部まとめ
イタリアIRCCS財団ミラノ国立がんセンター腫瘍内科の医学博士ジョン・ランドン氏らの研究グループが、HER2陰性進行胃がんにおけるスイッチ維持療法の有効性と安全性について報告しました。スイッチ維持療法はHER2陰性の進行胃がん患者にとって有望な治療選択肢の可能性がある一方、重篤な有害事象の発生や試験対象者が限定的なことから、さらなる検討が求められます。
※提供元:「日本がん対策図鑑」【胃がん:維持療法(PFS)】「サイラムザ+パクリタキセル」vs「FOLFOX」
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