~実録・闘病体験記~ 第2子出産後に胃がん発覚。2年の治療を乗り越えた母
妊娠中は様々なマイナートラブルがつきものですが、そこで自分が「がん」かもしれないと考える人は多くないでしょう。今回は、産後8か月で胃がんと診断されたmarimoさん(仮称)に話を聞きました。もともとは仕事にも育児にも理想が高かったmarimoさんですが、現在は当たり前のことに深く感謝するようになったといいます。がん宣告から胃の切除、2年にわたる抗がん剤治療という経験について話してくれました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年10月取材。
体験者プロフィール:
marimoさん(仮称)
1982年生まれ、静岡県在住。第2子を妊娠中に胃がんになる(発覚は出産後)。現在は2年間の化学療法を終え、抗がん剤治療中に仕事復帰。抗がん剤治療の副作用が比較的軽く済んだため、最初の半年間はマネージャー職の正社員としても働くなど、仕事と家庭の両立に励んでいる。闘病生活は、大好きな歌と持ち前の明るさで乗り越えた。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
出産の喜びが一転、「がん」と診断される
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
marimoさん
はじめに違和感を覚えたのは2018年夏ごろです。2人目を妊娠中にお腹の痛みがあったのですが、「赤ちゃんで胃が圧迫されているのかな」と思っていました。産婦人科の先生もあまり気に留めていなかったのでそのまま放置していました。しかし、出産後も変わらず痛みが続き、背中まで痛むようになったため2019年7月に近くのクリニックを受診しました。
編集部
そこでがんが見つかったのですね。
marimoさん
はい。内視鏡検査で腫瘍が見つかり、病理検査で胃がん(印環細胞がん)とわかりました。総合病院を紹介され、CT検査の結果、進行度がステージ3〜4であると言われました。これは、ギリギリ切除できるかどうか、もしくは根治治療が不可能かもしれない、といったところです。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
marimoさん
開腹手術による胃の切除と、再発予防のため、手術のあとに補助化学療法(ドセタキセル+TS-1)が必要だと言われました。手術前の説明で、腹部を開いてみて腹膜播種(腹膜へ転移したがん)が見つかった場合は、切除することができないので手術は中断して化学療法による延命治療をしていくしかないということも聞きました。また、腹腔内化学療法になった場合はその病院では受けられないため、県外の病院まで行かなければならないとも言われましたね。
編集部
実際に胃を見てみないとその後の治療もわからない、ということだったんですね。
marimoさん
はい。結局、私の場合転移はなく、断面部分にもがん細胞は見つからなかったため、ステージ4ではなくステージ3aでしたが、それでも胃の3分の2を切除しました。周辺リンパ節への転移も2か所認められました。
編集部
術後はどうでしたか?
marimoさん
幸いなことに術後の回復も早く、通常だと5〜10kg体重が落ちてしまうと聞いていましたが、2〜3kg落ちた程度で、術後1年もせずに元の体重と食欲に戻りました。また、術後化学療法として、「ドセタキセル」全6クールと「TS-1」全32クールを2年かけて行いました。ドセタキセルの時は副作用として脱毛や爪の変形、手足の皮剥けや涙目があり、TS-1の時は色素沈着や皮膚の痒みに悩まされました。また、どちらの薬も倦怠感がすごかったですね。
「がん」すなわち「死」のイメージしかなかった
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
marimoさん
「がんになると死ぬ」というイメージしかなく、死への恐怖と、当時4歳と0歳8か月だった2人の子ども達の成長をいつまで見守れるのかという不安や寂しさでいっぱいになりました。強い薬を飲むため、それまで完全母乳で育てていた生後8か月の娘は、強制断乳せざるを得なくなりました。そして、いつ死んでも悔いのないよう、一日一日を大切に生きようと思いました。なるべくストレスを溜めず、明るく前向きに過ごすように心がけ、当たり前のことに深く感謝するようになりました。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
marimoさん
家族、特に愛する我が子達です。手術のため入院しなければならなかった時も、実家の両親が子ども達を連れて毎日お見舞いに来てくれ、とても心強かったです。退院後も1年間は子ども達と一緒に実家で暮らしました。両親が家事をサポートしてくれたので、私は抗がん剤治療と子育てに専念することができました。子どもたちの存在は、今でも私の原動力です。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、なんて伝えたいですか?
marimoさん
発症前は、自分が完璧を目指すあまり夫や子どもに対してストレスを感じることがとても多かったのですが、「そんなに完璧を目指さなくても良いよ」「元気に育っているだけで十分だよ」「些細なことを気にしていたら人生面白くないよ」と伝えたいですね。今でも時々、イライラしたりストレスを溜めたりしますが、それも含めて「完璧じゃない自分」を受け入れています。
2人に1人ががんになる時代
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
marimoさん
現在は2年間の化学療法を終え、約1年前から仕事にも復帰し、近くに住む実家の両親にサポートしてもらいながら仕事と家庭の両立に励んでいます。病気になったことで元気に過ごせる時間の尊さを知り、単調ではなかった様々な経験が、人生をより豊かなものにしてくれています。
編集部
「胃がん」という病気は知っていても、まさか自分が、と思っている方も多いと思います。
marimoさん
私は慢性的な胃炎などの経験がなく、人一倍健康的な生活を心掛けていましたが、若くして胃がんになりました。胃の進行がんは実は若い女性の割合が高いんですよね。また、ピロリ菌がいることで胃がんの罹患率が高くなることが医学的に証明されています。ピロリ菌については息を吐くだけの検査で簡単に判定でき、1週間薬を服用するだけで菌を除去できるので、ぜひ一度検査してみることをおすすめします。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
marimoさん
私は幸い主治医に恵まれましたが、そのような方ばかりではないとも感じています。「がん」と告知されると動揺して決断力が鈍ってしまうので、主治医が信じられなくなるとネット上の様々な情報に流されてしまうのではないかと思います。そのようにして実際に抗がん剤を拒否して予期せぬ事態になってしまった方のニュースもありました。もちろん、ネットの情報にも良いものはたくさんありますが、やはり患者が最も頼れるのは目の前の主治医であってほしいと思います。全ての医療従事者が患者一人一人の人生に目を向けてくれることを望んでいます。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
marimoさん
現在は「2人に1人ががんになる時代」と言われています。がんは私のように若くても、がんの多い家系でなくても、健康に気を使っていても、突然発症することがある恐ろしい病気です。「自分は大丈夫!」と思わず、定期健診やがん検診を受けていただきたいですね。医療が進歩した現代では、早期発見さえできれば完治する可能性も非常に高いです。そして、体に異変があれば後回しにせず、すぐに病院を受診するようにしてください。
編集部まとめ
「病気になったことで元気に過ごせる時間の尊さを知り、単調ではなかった様々な経験が、人生をより豊かなものにしてくれている」と、当たり前の日々に感謝しながら仕事と家庭の両立に励んでいると話してくれました。ご両親やお子様とのあたたかい日常が思い浮かびます。そして、「早期発見さえできれば」”がん=死”ではないと、定期健診やがん検診の大切さも教えてくれました。息を吐くだけで判定できるピロリ菌の検査は、もっと多くの方が受けてくれると良いですね。