「肺がん治療」に新たな可能性 カプマチニブが生存期間の延長効果示すとドイツ研究グループ
ドイツのケルン大学病院らの研究グループは、非小細胞肺がん(NSCLC)で治療歴のない患者や治療歴のある患者で、METエクソン14スキッピング変異(METex14)がある患者へのカプマチニブ(商品名:タブレクタ)使用に対する非盲検第2相試験GEOMETRY mono-1試験の最終結果を発表しました。この内容について山形医師に話を聞きました。
監修医師:
山形 昂(医師)
研究グループが発表した内容とは?
ドイツのケルン大学病院らの研究グループが発表した内容を教えてください。
山形先生
今回紹介する研究報告は、ドイツのケルン大学病院らの研究グループによるもので、研究成果は学術誌「The Lancet Oncology」に掲載されています。
カプマチニブは、非小細胞肺がん(NSCLC)で治療歴のない患者や治療歴のある患者で、METエクソン14スキッピング変異(METex14)がある患者において、活性を示したことが過去の研究で明らかにされています。研究グループは今回の論文で、カプマチニブの活性に関する非盲検第2相試験GEOMETRY mono-1試験の最終結果を紹介しました。研究の対象となった2015年6月11日から2020年3月12日までに登録された373人の治療患者のうち、160人がMETex14非小細胞肺がん患者で、60人が未治療患者、100人が前治療歴のある患者でした。全体的な追跡調査期間の中央値は、未治療患者では46.4カ月、前治療歴のある患者では66.9カ月です。
治療歴のない患者60人のうち41人と、治療歴のある患者100人のうち44人で全奏効が記録されました。治療を受けた全患者373人において、最も多くみられた治療関連有害事象(副作用)は末梢浮腫、吐き気、血中クレアチニン増加、嘔吐でした。グレード3~4の重篤な有害事象は全体の44%に当たる164人に発生し、最も多かったのは呼吸困難でした。治療関連死は4人の患者に発生しました。
研究グループは、今回得られた結果について「METex14陽性非小細胞肺がんの未治療および既治療患者に対する標的治療オプションとしてのカプマチニブを支持する証拠を追加するものである」とまとめています。
非小細胞肺がんとは?
今回紹介した研究で取り上げられた非小細胞肺がんについて教えてください。
山形先生
肺がんは、小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分けられます。非小細胞肺がんは、肺がん全体の8~9割を占め、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどに分類されます。このうち一番多いのが腺がんで、肺がん全体の5~6割を占めます。次いで多いのは扁平上皮がんで、喫煙者に多く認められるがんで、肺がん全体の3割程度を占めます。大細胞がんは、腺がんや扁平上皮がんのような形状を成さない大きな細胞からなります。末端近くに病巣ができて、進行が速く、転移しやすく、再発率も高いタイプです。いずれも初期段階では症状がないことが多いですが、進行すると咳、血痰、胸痛、息切れなどが現れる場合があります。
研究内容への受け止めは?
ドイツのケルン大学病院らの研究グループが発表した内容について、受け止めを教えてください。
山形先生
本研究では、カプマチニブがMETex14変異を持つ非小細胞肺がん患者に対して、治療歴に関わらず高い奏効率を示し、長期的な生存期間の延長効果も期待できることが示されました。また、カプマチニブは脳転移に対しても有効である可能性が示唆されました。脳転移は、非小細胞肺がんの予後を悪化させる要因の一つですが、カプマチニブは脳転移の縮小効果も期待できる可能性があります。
この研究では、リキッドバイオプシーがMETex14変異の検出において高い精度を示すことが確認されました。リキッドバイオプシーは、血液サンプルを用いてがんの遺伝子変異を検出する検査方法で、従来の組織生検に比べて患者さんの負担が少ないというメリットがあります。したがってリキッドバイオプシーがMETex14変異を持つ非小細胞肺がん患者の診断に有用なツールとなり得ることを示唆しています。
さらに、バイオマーカー解析の結果、MET遺伝子の発現量が高い患者さんほど、カプマチニブの効果が高い傾向が示されました。したがって、MET遺伝子の発現量を測定することで、カプマチニブの効果を予測できるかもしれません。
ただし、この研究は第2相試験であるため、より大規模な第3相試験での検証が必要です。また、カプマチニブの長期的な効果や安全性については、今後も注意深く観察していく必要があります。
まとめ
ドイツのケルン大学病院らの研究グループは、非小細胞肺がんで治療歴のない患者や治療歴のある患者で、METエクソン14スキップ変異がある患者へのカプマチニブ使用に対する非盲検第2相試験GEOMETRY mono-1試験の最終結果を発表しました。肺がん患者は日本でも多く、今後もこうした研究が重ねられることに期待が集まります。
※提供元:「日本がん対策図鑑」【MET陽性肺がん:一次治療(OS)】タブレクタ
https://gantaisaku.net/geometry-mono-1_1l_os/