生活保護でも介護保険は利用できる?保険料や自己負担額、手続きを解説

生活保護を受給している場合でも、介護が必要になれば介護保険サービスを利用できます。ただし、保険料や自己負担額の扱いなどが生活保護を受給していない方と異なります。
本記事では、生活保護受給者が介護保険サービスを利用する際に知っておきたい保険料や自己負担の考え方、行政の対応、手続きの流れなどを解説します。

監修社会福祉士:
小田村 悠希(社会福祉士)
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
生活保護で受けられる扶助の種類

生活保護制度では、最低限度の生活を保障し、自立を支援するために、生活のさまざまな場面に応じた扶助が用意されています。生活保護で受けられる扶助の種類と内容は下記のとおりです。
| 扶助の種類 | 主な対象・内容 | 支給方法・ポイント |
|---|---|---|
| 生活扶助 | 食費・被服費・光熱水費など、日常生活に必要な費用 | ・年齢別に算定される個人的費用と、世帯人員別に算定される世帯共通費用を合算して支給 ・10月〜4月の間は地域に応じて冬季加算ある ・障害者加算のような特例加算もある |
| 住宅扶助 | アパートや借家の家賃、地代など | 定められた上限の範囲内で実費を支給 |
| 教育扶助 | 義務教育に必要な学用品費、教材費など | 定められた基準額を支給(一部は実費支給) |
| 医療扶助 | 診察、治療、薬剤などの医療サービス | 費用は直接医療機関に支払われ、原則として自己負担なし |
| 介護扶助 | 介護保険サービスの利用費用 | 費用は直接介護事業者に支払われ、原則として自己負担なし |
| 出産扶助 | 出産にかかる費用 | 定められた範囲内で実費を支給 |
| 生業扶助 | 就労に必要な技能習得費用や、高校等への就学費用 | 定められた範囲内で実費を支給(就学費用の一部は基準額あり) |
| 葬祭扶助 | 葬儀・火葬に必要な費用 | 定められた範囲内で実費を支給 |
扶助は一律ではなく、世帯の状況や必要性に応じて支給されます。
生活保護の介護扶助と介護保険サービスの関係

生活保護受給者が介護を必要とする場合は、介護保険サービスと介護扶助の違いや関係性を正しく理解する必要があります。
要介護状態になった際の行政の対応と、介護扶助と介護保険サービスの違いを解説します。
生活保護受給者が要介護状態になったときの行政の対応
生活保護受給者が要介護状態、または要支援状態になった場合、介護扶助によって介護サービスを原則自己負担なしで利用できます。
介護扶助で利用できる介護保険サービスには、訪問介護や通所介護、施設入所など居宅・施設・地域密着型の介護サービスおよび介護予防サービスがあります。
行政から介護券が事業者に送付され、受給者本人が費用を支払う必要はありません。また、介護予防のための福祉用具の利用や住宅改修、通院や通所に必要な移送費も給付の対象です。移送費は、原則として費用の1割を指定介護機関へ金銭給付する受領委任払い制度が用いられますが、介護保険による送迎が行われない場合には、生活保護独自の給付として必要な交通費が支給されることもあります。
生活保護受給者は、原則としてユニット型個室や従来型個室への入所は認められていませんが、社会福祉法人などによる生計困難者向けの利用者負担軽減制度を活用し、利用者負担が全額免除される場合には、例外的に個室などの利用が可能となるケースもあります。
介護扶助と介護保険サービスの違い
介護保険サービスには、訪問介護や通所介護、施設入所などがあります。対象者は65歳以上の高齢の方や特定疾病のある40〜64歳の方で、要介護・要支援認定を受けることで利用できます。
利用時には所得に応じて原則1〜3割の自己負担が発生します。また、利用できるサービス量には区分支給限度基準額が設けられています。
一方、介護扶助は生活保護制度の一部で、生活保護を受給している方が介護を必要とする場合に、経済的理由で介護サービスを利用できなくなることを防ぐための仕組みです。
生活保護受給者の介護に関する費用の考え方

生活保護受給者が介護サービスを利用する場合、「介護保険料は支払うのか」「自己負担は本当にかからないのか」など費用面の疑問を抱くことが少なくありません。
介護保険料の扱い、サービス利用時の自己負担の考え方、自己負担が生じやすいケースを解説します。
生活保護受給者の介護保険料の扱い
介護保険の第2号被保険者に該当する40歳から64歳の方は、介護保険料が医療保険料に含めて徴収されます。そのため、医療保険に加入していない40歳から64歳の生活保護受給者は、介護保険の被保険者とはならず、介護保険料の負担もありません。
40歳から64歳の生活保護受給者が介護を必要とした場合は、介護保険制度ではなく、生活保護制度に基づく介護扶助によって介護サービスの費用が賄われます。
一方、介護保険の第1号被保険者の65歳以上の方は、医療保険の加入状況に関わらず、原則として全員が介護保険制度の対象です。そのため、65歳以上の生活保護受給者も介護保険の被保険者となり、介護保険料の支払い義務が生じます。
ただし、実際に保険料を自己負担するわけではなく、費用は生活保護費の生活扶助で賄われます。
参照:
『よくある質問』(小田原市)
『介護保険料に係る生活保護受給者の取扱いについて』(厚生労働省)
介護保険サービスの利用者負担
介護保険サービスを利用した場合、通常は所得に応じてサービス費用の1割・2割・3割を利用者が負担します。負担割合は、本人の合計所得金額や課税状況、世帯構成などをもとに市区町村が判定し、65歳以上の方には介護保険負担割合証が交付されます。
生活保護受給者の場合、介護保険制度上は1割負担ですが、実際の自己負担分は生活保護制度の介護扶助によって賄われるため、利用者が費用を支払うことはありません。
介護保険サービスで自己負担が生じやすいケース
生活保護受給者の場合、介護保険サービスの利用料は介護扶助によって賄われるため、原則として自己負担は生じません。しかし、介護保険制度の枠外となる費用は、生活保護を受給していても自己負担が発生する可能性があります。
代表的なものが、施設サービスや短期入所サービスを利用した際の食費や居住費(滞在費)です。介護サービスの対価ではなく、日常生活に伴う費用として位置づけられているため、介護扶助の対象外になるケースがあります。
例えば、介護保険の被保険者で生活保護を受給している方が施設に入所した場合、介護保険で支払われない食費は介護扶助から支払われます。一方で、短期入所を含めた居宅サービスの食費は、生活保護を受けている方にも自己負担(生活扶助からの負担)が発生します。
また、年金などで収入がある方も介護サービスにかかる費用の一部に自己負担が生じる可能性があります。
参照:
『利用者負担について』(京都市)
『生活保護制度における介護扶助の概要について』(栃木県保健福祉部保健福祉課生活保護担当)
生活保護受給者が介護状態になったときの手続き

生活保護受給者が高齢や病気などにより介護が必要になった場合、介護サービスを利用するためには手続きが必要です。生活保護受給者に介護が必要になった際の手続きを解説します。
市区町村の福祉事務所に相談
最初に、市区町村の福祉事務所へ相談します。生活保護受給者は、介護保険の利用だけでなく、介護扶助の適用可否も関わるため、担当ケースワーカーへの連絡が必要です。本人や家族からの相談だけでなく、医療機関や地域包括支援センター、介護事業者などからの情報提供をきっかけに手続きが進む場合もあります。
福祉事務所では、現在の生活状況や介護の必要性を確認したうえで、次の手続きを案内されます。
要介護認定を申請
介護サービスを利用するためには、介護保険法に基づく要介護認定または要支援認定を受ける必要があります。市区町村の窓口へ要介護認定を申請しましょう。
福祉事務所と情報共有しながら進めるとスムーズです。家族や福祉事務所職員、地域包括支援センターなどは代理で申請できます。
要介護認定の調査と判定
要介護認定の申請後、市区町村による認定調査が行われます。調査員が自宅や施設を訪問し、身体の動きや認知機能、日常生活動作の状況などを確認します。主治医が作成する意見書の内容も重要な判断材料です。情報をもとに、介護認定審査会で要介護度または要支援区分が判定されます。この際に、要介護認定が非該当と判断されるケースもあります。
要介護認定は、介護の手間を基準に判断されます。そのため、病状が重いからといって必ずしも要介護度が高くなるとは限りません。
身体機能が保たれていても、認知症による徘徊や行動障害がある場合は、介護に要する手間が多くなるため、要介護度が高く判定されることがあります。一方で、寝たきりであっても介護内容が一定であれば、介護の総量は大きく増えないと判断されるケースもあります。
また、要支援の判定では、介護の手間だけでなく、「状態の維持や改善が見込めるか」も考慮されます。心身の状態が不安定、認知症などによりサービス内容の理解が難しい場合は、介護予防サービスの対象とならないこともあります。
ケアマネジャーによるケアプランの作成
要介護認定が下りた後は、ケアマネジャーによって本人の状態や生活環境を踏まえたケアプランが作成されます。生活保護受給者の場合も、ケアプランの作成は介護保険制度に基づいて行われますが、費用面の手続きは介護扶助の適用を前提に福祉事務所と連携しながら進められます。
ケアプランに基づいて、訪問介護や通所介護、施設サービスなどの利用が開始され、必要に応じて内容の見直しも行われます。
生活保護受給者が要介護状態になったときに家族や親族が気になること

生活保護受給者が要介護状態になると、本人だけでなく家族や親族にもさまざまな不安や疑問が生じます。介護のために同居した場合の生活保護の扱いや、認知症を発症した際の金銭管理の問題は、判断を誤ると生活全体に影響を及ぼしかねません。
家族や親族が関わる場面で気になりやすい生活保護制度の考え方や利用できる支援制度を解説します。
介護のために家族や親族が同居する場合の生活保護支給の判断
生活保護制度は、原則として世帯を単位に、収入や資産、生活状況を総合的に判断したうえで保護の可否や支給額が決定されます。そのため、家族や親族が同居する場合は同一世帯として扱われ、原則的には世帯全体の収入や扶養の可否を踏まえて生活保護の要否が判断されます。
しかし、介護を目的として一時的または必要性に基づいて同居するケースは、必ずしも家族全員が一律に同一世帯として扱われるとは限りません。介護のために同居を検討している場合は、自己判断せず福祉事務所へ相談しましょう。
参照:
『「生活保護制度」に関するQ&A』(厚生労働省)
『生活保護受給者に対する金銭管理支援の現状と課題に関する一考察』(武蔵野大学)
生活保護受給者が認知症になったときの金銭管理
生活保護受給者が認知症を発症すると、判断能力や記憶力の低下により、支出管理や各種手続きが困難になり、生活の安定が損なわれるおそれがあります。
そこで利用を検討すべき制度が日常生活自立支援事業です。判断能力が十分でない方が地域で生活を続けられるよう、社会福祉協議会と契約を結び、福祉サービス利用の手続きや日常的な金銭管理、定期的な見守り支援などを受けることができます。生活保護受給世帯の場合、利用料は無料です。
まとめ

生活保護を受給していても、要介護状態になれば介護保険制度に基づく介護サービスを利用できます。介護サービスの内容や基準は介護保険制度に準じますが、自己負担分や保険料は生活保護制度の介護扶助や生活扶助によって公費で補完されます。
一方、食費や居住費、日用品費など、生活に付随する費用は自己負担が生じる場合があるため、事前に確認が必要です。
また、介護が必要になった際の手続きは、福祉事務所への相談を起点に、要介護認定やケアプラン作成へと段階的に進めていきます。家族の同居や認知症による金銭管理の問題など、個別の事情によって判断が分かれるケースもあるため、自己判断せず、早めに福祉事務所や関係機関へ相談しましょう。
参考文献




