在宅医療の対象者とは?受けられる条件や必要な手続き、サービスの内容を解説
公開日:2025/10/28


監修医師:
小田村 悠希(医師)
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・資格:社会福祉士、研修認定精神保健福祉士、介護福祉士、福祉住環境コーディネーター2級
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
・経歴:博士(保健福祉学)
これまで知的障がい者グループホームや住宅型有料老人ホーム、精神科病院での実務に携わる。現在は障がい者支援施設での直接支援業務に従事している。
目次 -INDEX-
在宅医療とは
在宅医療とは、自宅や高齢者住宅など住み慣れた生活の場で受けることのできる医療のことです。通院が困難な状況にある方に対し、医師や看護師などの医療従事者が患者さんの自宅などに訪問して診療や健康状態の確認を行います。必要に応じてリハビリ専門職や薬剤師、管理栄養士、歯科医師なども訪問し、連携したチームで24時間体制のケアを提供する点も特徴です。在宅医療は住み慣れた地域での生活を医療面から支える仕組みであり、介護サービスや福祉とも連携しながら患者さんの暮らしを支援します。
在宅医療の対象者
在宅医療は、疾病や障害のため通院による療養が困難な者が対象です。年齢や病名に関係なく、外来通院が難しい方は在宅医療を受けられます。対象は寝たきり高齢の方だけではなく、以下のように幅広いケースが含まれます。
要介護認定を受けている高齢の方
要介護認定を受けた高齢の方は、日常生活動作が著しく低下し、病院への通院が困難な場合が多いため在宅医療の対象です。例えば、脳卒中の後遺症で麻痺がある方や、骨折や関節症など運動器の障害がある方、進行した認知症の方、老衰が進んだ方など、病状は安定していても定期的な診察や管理が本来必要なケースが該当します。 ご本人が病気の自覚を持てず通院を嫌がるような重度の認知症の場合も含まれ、こうした高齢の方々にとって在宅医療は自宅での療養を続けるために必要です。終末期のがん患者さん
病院での治療を終え、自宅で家族と過ごしながら最期を迎えたいと希望する終末期のがん患者さんも在宅医療の対象です。末期がんの方は体力が衰え外来通院が難しく、病状も重いため、自宅で痛みの緩和や症状緩和のケアを受けながら過ごすことができます。 在宅医療では医師や看護師が定期的に訪問し、痛み止めの管理や栄養管理など緩和ケアを提供するとともに、急変時の対応や看取りの体制も整えて、ご本人とご家族が望む自宅での最期を支援します。神経・筋難病の患者さん
ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病などの神経難病、筋ジストロフィーなどの筋疾患の患者さんも在宅医療対象です。これらの疾患は進行すると嚥下や呼吸機能が低下し、胃ろうによる栄養管理や人工呼吸器の装着が必要になる場合があります。 通院自体が困難になるため、自宅で医師の定期訪問診療を受けつつ、必要に応じて人工呼吸管理や痰の吸引などの医療的ケアを行います。例えば、ALSや進行期のパーキンソン病、重度の関節リウマチ(RA)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで長期療養が必要な場合、在宅医療により自宅での療養生活を支えることが可能です。重症の小児患者さん
生まれつきの先天性疾患や、乳幼児期から継続する重い病気を持つお子さんも在宅医療の対象です。例えば、気管切開をして人工呼吸器を使用しているお子さんや、胃ろうからの栄養管理が必要な医療的ケア児などが該当します。 重症の小児患者さんの場合、長期にわたり医療依存度の高いケアが必要ですが、在宅医療では小児科の訪問診療医や小児訪問看護師が定期的に訪れ、自宅で必要な医療処置やモニタリングを行います。成長に合わせたリハビリや栄養管理、家族への指導も含め、病院だけでなく自宅で生活しながら治療を続けられるよう支援します。障害がある方
重度の障害をお持ちの方も、在宅医療の対象になりえます。具体的には、脊髄損傷による四肢麻痺や重度の肢体不自由、頭部外傷後の高次脳機能障害、重度の脳性まひなど、障害のために自力での通院が困難なケースです。 このような方々は日常生活で介護サービスを利用している場合が多く、医療面でも定期的な健康チェックや褥瘡(床ずれ)の処置、合併症の予防管理が必要です。在宅医療では、主治医がご自宅に訪問して診察や薬の処方を行い、訪問看護師が日々の体調管理や処置をサポートします。障害をお持ちの方が住み慣れた環境で安心して生活を続けられるよう、医療と介護の両面から支援します。精神疾患などの患者さん
統合失調症や重度のうつ病、広汎性発達障害などの精神疾患があり外出や通院が著しく困難な方も、状況によっては在宅医療の枠組みで支援を受けられる場合があります。例えば、長年引きこもり状態にある方や、強い不安症状で外出ができない方などが該当します。 精神科領域の在宅医療としては、精神科医による定期的な訪問診療や、訪問看護師による服薬管理と傾聴や生活支援などが行われています。症状が不安定な場合でも、自宅という安心できる場で医療者が関わることで、状態の観察や急変時の早期対応が可能です。ただし、精神疾患の在宅医療には地域の精神科病院や保健所との連携も重要で、必要に応じて入院治療などと併用しながら進められます。在宅医療で受けられるサービスの内容
在宅医療では、患者さんの自宅で多職種によるさまざまなサービスを受けることができます。医師による診療だけでなく、看護師やリハビリ職、薬剤師、管理栄養士、歯科医師、ケアマネジャー(介護支援専門員)などがチームを組み、それぞれの専門分野で定期訪問を行います。以下に主なサービス内容を挙げ、その概要を解説します。
| サービス | 担当者 | 内容 |
|---|---|---|
| 訪問診療・往診 | 医師 | ・訪問診療:計画的・定期的に訪問し診察や処方、在宅で可能な検査・処置を実施 ・往診:容体急変時など必要に応じて臨時訪問 |
| 訪問看護 | 看護師 | ・血圧測定などの健康チェック ・排泄や入浴の介助 ・点滴やカテーテル管理、褥瘡処置などの医療処置 ・清潔ケアやリハビリ補助 ・家族への介護指導や精神的サポート |
| 訪問薬剤管理指導 | 薬剤師 | ・処方薬の配達 ・薬の飲み方指導、服薬管理(飲み忘れ防止の工夫など) ・薬の効果や副作用の確認 ・残薬のチェック ・薬に関する相談対応 |
| 訪問リハビリテーション | 理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST) | ・筋力低下予防の運動療法 ・体位変換練習 ・日常生活動作の訓練 ・言語・嚥下機能訓練 ・住宅改修や福祉用具活用のアドバイス |
| 訪問栄養食事指導 | 管理栄養士 | ・病状や栄養状態に応じた食事指導 ・低栄養予防・嚥下障害がある場合の食形態工夫 ・水分摂取量の管理 |
| 訪問歯科診療・口腔ケア | 歯科医師、歯科衛生士 | ・むし歯や入れ歯の治療 ・歯のクリーニングや口腔清掃 ・嚥下機能を維持するための口腔リハビリ |
| ケアマネジメント(居宅介護支援) | ケアマネジャー(介護支援専門員) | ・心身の状態や生活環境、本人・家族の希望をふまえたケアプラン作成 ・医療・介護サービスの調整 ・多職種間の連携支援 |
在宅医療を始めるために必要な手続き
在宅医療を利用したいと思ったら、どのように手続きを進めればよいのでしょうか。突然自宅で医療を受けるといっても戸惑うかもしれませんが、心配はいりません。必要な手順としては、まずは相談窓口への相談、介護保険の要介護認定申請、在宅医を探すこと、そして現在かかっている主治医と在宅医の連携を図ること、の大きく4つがあります。それぞれ順を追って解説します。
行政の窓口や病院に相談する
在宅医療を検討し始めたら、まずは信頼できる相談先に状況を相談しましょう。具体的には、日頃診てもらっているかかりつけ医や担当のケアマネジャーに在宅療養を希望していることを伝え、今後の見通しや必要な準備について相談します。入院中の方であれば、病院の地域連携室や患者サポートセンターに相談すれば、退院後の在宅療養への切り替えについて支援を受けることができます。 また、お住まいの市区町村が設置している地域包括支援センターでも、医療・介護・福祉にまたがる在宅療養の相談に応じてもらえます。このような窓口では在宅医療に関する情報提供やサービス調整の案内をしてくれますので、まずは気軽に問い合わせてみましょう。要介護認定を申請する
在宅医療を利用する際、多くの場合で介護保険サービスとの併用が必要です。特に、65歳以上の方や要支援あるいは要介護の状態にある方は、介護保険の要介護認定を受けておくことが大切です。まだ要介護認定を受けていない場合には、市区町村の介護保険担当窓口(役所の福祉課など)で申請手続きを行います。 申請後、心身の状態調査や主治医の意見書に基づき審査が行われ、要介護度(要支援1~要介護5など)が認定されます。認定を受けると介護保険のサービスが利用可能となり、訪問看護や訪問介護(ヘルパー)など在宅生活を支えるサービスを1~3割の自己負担で使うことができます。介護認定を受けておくことで、在宅医療と介護サービスを一体的に利用しやすくなります。訪問診療医を探す
在宅医療を始めるには、自宅に定期訪問して診療を行ってくれる訪問診療医をみつける必要があります。探し方としてはいくつか方法があります。 例えば、現在治療を受けている病院の主治医や看護師に在宅医療を希望する旨を伝え、訪問診療を行っている医師を紹介してもらうのもよいでしょう。あるいは、担当のケアマネジャーに相談したり、市町村の地域包括支援センターや高齢者福祉課に問い合わせて、地域で在宅診療を行っている医療機関の情報を教えてもらうのもよいと思います。そして、お住まいの地域で在宅医療を行っているクリニックをインターネットなどで検索し、直接問い合わせてみてもよいでしょう これらの方法で訪問診療医がみつかったら、実際に医師と面談して受け入れ可能か確認し、診療内容や緊急時の対応、費用について説明を受けて納得できれば契約、利用を開始します。主治医と訪問診療医が連携できるようにする
現在入院中または通院中の患者さんが新たに在宅医療に移行する場合、これまでの主治医と新たに訪問診療を担当する医師の連携が重要です。具体的には、退院時に主治医から診療情報提供書(紹介状)を作成してもらい、病状や治療経過、処方内容などの情報が在宅医に共有されるようにします。 在宅医療開始前の面談時には、ご本人やご家族だけでなく可能であれば主治医や病院スタッフとも連携を図り、治療方針の引き継ぎや緊急時の対応方法について確認しておくとよいでしょう。訪問診療開始後も、定期的に主治医と在宅医が情報交換できる体制を作ります。例えば、病状の変化時に速やかに主治医に相談できるようにしておく、必要に応じて専門医療機関とも協力してもらう、といった連携体制が取れると、自宅での療養がより安全かつスムーズに続けられます。在宅医療にかかる費用の目安と負担軽減制度
在宅医療を利用した場合の費用は、提供される医療処置やサービス内容、利用頻度などによって個人差があります。ただし、公的医療保険が適用されるため、費用の自己負担割合は通常の通院時と同じく収入や年齢に応じて1割~3割です。また、介護保険サービスを併用する場合も、それぞれ1割~3割の費用を負担します。月々の自己負担額が高額になった場合には高額療養費制度などで超過分の払い戻しを受けられる仕組みもあります。以下では、費用の目安と主な負担軽減制度について解説します。
費用の目安
在宅医療の自己負担額は、医療保険の範囲内であれば通院と同様に1割~3割負担です。例えば月4回(週1回)程度の訪問診療を利用した場合、1割負担の方では月あたり7,000~12,000円程度、3割負担の方では20,000~25,000円程度が診療費の自己負担目安です。 これに加えて、医師の処方に伴うお薬代や、併用する介護保険サービスの自己負担分が発生します。なお、診療内容によっては、在宅酸素療法などの医療機器レンタル代や、夜間・深夜・休日の往診加算料金などが別途かかることもあります。全体的には通院治療より割高になる印象かもしれませんが、自宅から外出する手間や交通費がかからない分、トータルでは大きな負担増とならないケースもあります。 詳しい費用は患者さんの状態や利用サービスにより異なるため、利用開始前に在宅医やケアマネジャーからしっかり説明を受けるようにしましょう。負担軽減制度
在宅医療を利用する上で知っておきたい主な負担軽減制度として、医療保険の高額療養費制度と介護保険の高額介護サービス費があります。高額療養費制度は、1ヶ月の医療費自己負担額が一定の上限(所得区分に応じ設定)を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。一方、高額介護サービス費は、1ヶ月の介護保険サービス自己負担額(1~3割負担分)の合計が所定の上限額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度で、市町村が窓口となって実施されています。そのほか、特定の疾病に該当する方や障害のある方への公費負担医療制度も利用可能な場合があります。 指定難病の医療費助成制度では医療保険上の自己負担が原則2割(高所得者以外)に軽減され、所得区分に応じて月ごとの自己負担上限額も設定されます。同様に、小児慢性特定疾病の医療費助成や重度障害者医療費助成制度など、自治体単位で受けられる助成もあります。 これらの制度を上手に活用することで、在宅医療にかかる費用負担を大きく減らすことができます。制度の適用条件や申請方法は自治体や加入保険によって異なるため、ケアマネジャーや役所の相談窓口に確認するとよいでしょう。まとめ
在宅医療は、通院が難しい患者さんでも住み慣れた自宅で医療と介護を受けながら生活を続けられるように支える仕組みです。在宅療養を日常の場で送ることは患者さんの精神的安定につながり、生活の質(QOL)維持にも寄与します。費用面でも公的保険の適用により1~3割負担で利用でき、負担が大きくなりすぎないよう各種の軽減制度も用意されています。在宅医療を希望する場合は、一人で悩まず早めに地域の相談窓口やかかりつけ医などに気軽に相談し、情報収集しておくことをおすすめします。医療と介護の専門職と家族、地域が一体となってサポートする在宅医療を上手に活用し、その人らしい暮らしを最後まで続けられるよう応援していきましょう。
参考文献



