胃ろうとは?必要になるケースやメリット・デメリット、管理方法を解説!
公開日:2025/10/20


監修医師:
江口 瑠衣子(医師)
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2009年長崎大学医学部卒業。大学病院での初期臨床研修終了後、10年以上にわたり地域の基幹病院で腎臓内科の診療に従事。患者さん一人ひとりに寄り添った医療を心がけており、現在は内科・精神科の診療を行っている。腎臓専門医。総合内科専門医。
目次 -INDEX-
胃ろうの概要
胃ろうは、口から食べ物や水分を摂ることが難しい患者さんのための栄養管理の一つです。ここでは、胃ろうの基本的な定義や手術の流れまで、具体的にみていきましょう。
胃ろうとは
胃ろうとは、おなかの外側から胃の中に直接カテーテルを留置し、栄養剤や水分、薬剤などを注入できるようにしたものを指します。経口摂取ができない患者さんの栄養管理に用いられます。手術によっておなかの外側から胃の内部に管を通すための小さなあな(ろう孔)を作り、それを通して胃の中に直接カテーテルを留置します。多くの場合は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を用いて行われます。この胃ろうを留置する処置はPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)と呼ばれます。胃ろうの仕組み
胃ろうは、外部から胃の中へ栄養剤や水分などを注入するためのものです。おなかの外側から胃の内部に管を通すための小さなあな(ろう孔)を作り、そこにカテーテルを通します。このカテーテルを通して、おなかの外側から胃の中に直接栄養剤などを注入できるようになります。 胃ろうのカテーテルには、大きく分けて2つの種類があります。一つは、おなかの皮膚から短いボタン状の器具が出るボタン型といわれるカテーテルです。もう一つは、おなかからチューブが体外に出るチューブ型と呼ばれるものです。チューブ型はチューブの形状であるため、皮膚の外側に出る部分がボタン型よりも長めです。胃ろう手術の流れ
胃ろうを造る前に、全身状態の評価、CT検査などの画像検査を行い、医師が胃ろうを造ることができるか判断します。胃ろうを造ることが可能と判断された場合、多くは上部消化管内視鏡(胃カメラ)を使用して胃ろうを造設します。ここでは、胃ろうを造る流れを具体的にみていきましょう。 内視鏡を口もしくは鼻から挿入し、空気を送り胃を膨らませ、胃ろうを造る場所を決定します。この際、大切なのが胃とおなかの壁の間に腸や肝臓などの臓器がないことを確認することです。胃とおなかの壁の間に別の臓器があると、ろう孔を造る際に、その臓器に穴が開いてしまいます。問題がないことを確認したうえで、胃ろうを造る場所を決定し、局所麻酔を行います。 次に、胃ろうを造る場所のおなかの壁と胃を固定します。具体的には、糸がつけられた針をおなかの皮膚(2か所)から胃の方まで刺し、その糸で胃とおなかの壁を固定します。2本の糸を使って胃をつり上げ、おなかの壁に固定するようなイメージです。その後、おなか側から少し太めの針を胃の中まで刺して、ガイドとなるワイヤーを通します。このワイヤーを通してあなを広げる器具(ダイレーター)を挿入し、その広がったあなに胃ろうのカテーテルを留置します。胃ろうが必要になるケース
胃ろうは、主に口から食べ物や水分を安全に摂取することが困難になった場合に選択されます。経口摂取ができなくなる原因には、嚥下機能の低下などさまざまな病態が挙げられます。嚥下機能とは、食べ物や飲み物を口から食道、そして胃へと安全に送り込むための一連の動作や能力のことです。具体的な病態は以下のとおりです。
| 胃ろうが必要な病態 | 原因となる主な疾患・状態 |
|---|---|
| 嚥下障害 | ・脳血管障害 ・神経難病(筋萎縮性側索硬化症:ALS、パーキンソン病など) ・重度の認知症 ・加齢に伴う嚥下機能の低下 など |
| 摂食機能不全 | ・頭部や顔面の外傷 ・咽頭や食道のがん など |
胃ろうのメリットとデメリット
胃ろうのメリットとデメリットを以下に示します。
| 対象者 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 患者さん | ・経鼻栄養に比べ不快感が少ない ・チューブが抜けにくく身体拘束が不要 ・口から食事をする練習がしやすい ・点滴管理に比べて感染のリスクが低い ・経鼻胃管と比べて入れ替えの負担は少ない | ・最初の挿入時に手術が必要 ・逆流による誤嚥のリスクはある ・定期的な入れ替えが必要 ・皮膚トラブルなど合併症が起こることがある |
| 介護者 | ・管理しやすい ・在宅介護が継続しやすくなる | ・トラブル発生時の対応が必要 |
| 費用 | ・医療行為は医療保険が適用される | ・栄養剤が食品の場合は全額自己負担 |
胃ろうのメリット
胃ろうの大きなメリットは、栄養状態の維持・改善と、患者さんのQOL(Quality Of Life:生活の質)を向上させることです。 経鼻胃管栄養と比較して、鼻や喉にチューブを通っている不快感がないため、患者さんはより快適に過ごすことができます。また、チューブが抜けにくく、身体拘束の必要性も低いため、患者さんの精神的な負担を軽減し、より自由に身体を動かせるようになります。さらに、胃ろうを造設しても、口から食べ物を摂取できないわけではありません。嚥下機能の程度によっては、口から摂取することができる場合があります。そのため、口から食べるためのリハビリテーションも並行して行うことが可能です。 介護者の視点から見ると、胃ろうは介護負担の軽減につながる可能性があります。経鼻胃管栄養のようにチューブを患者さんが抜いてしまうリスクが少なく、在宅での管理も経鼻胃管よりは容易な場合が多いとされています。胃ろうのデメリット
胃ろうの大きなデメリットは、おなかに穴を開けるための手術が必要となることです。内視鏡を使った短時間の手術とはいえ、抵抗を感じる方も少なくありません。患者さん本人やご家族にとって精神的・身体的な負担となる可能性があります。また、胃ろうを造設したからといって、トラブルが発生しないわけではありません。胃に注入された栄養剤が逆流し、誤嚥を引き起こすリスクはあります。また、胃ろうが挿入された部分の周囲の皮膚に、炎症や潰瘍などのスキントラブルが発生することもあります。また、定期的なカテーテルの交換が必要となります。胃ろうの管理方法
胃ろうは、日々の適切な管理が欠かせません。栄養剤の注入から清潔の保持、トラブルへの対応まで、いくつかの重要なポイントがありますので、それぞれみていきましょう。
栄養剤の準備と注入方法
まず、栄養剤を準備する前に、患者さんに栄養剤を投与していいかどうかを確認します。発熱がある、いつもと意識の状態が違う、吐いている、など異常がある場合は、栄養剤の準備をせずにほかの家族や医療従事者などに相談し指示を仰ぎましょう。いつもと変わりなく、栄養剤を注入してよい場合は、患者さんにこれから注入を行う旨を確認し、栄養剤の準備へ進みます。 栄養剤の注入は、正しい手順で行うことが大切です。開始前に流水と石けんでの手洗いを行いましょう。まず、注入に使用するバッグやカテーテルチップ型シリンジ(注射器)、栄養剤、白湯を用意します。栄養剤は種類、量を確認し、冷蔵庫から取り出したばかりの冷たいものは避けましょう。次に体位を調整します。ベッドの頭側を30~60度上げる、など上半身を上げる場合が多いので、これも指示があるかを確認します。 体位を調整して問題がなければ注入に進みます。注入用バッグのクレンメ(流量を調整できる部分)を閉め、栄養剤を入れ、バッグを高い所につるします。チューブ内に空気が残っていると、空気が胃に入って腹部膨満感の原因となるため、クレンメを少しずつ開放し栄養剤を流して空気を抜きます。チューブの先端まで栄養剤を満たしてからクレンメを再度閉じます。そして、胃ろうカテーテルに問題がないかを確認し、チューブをつなぎます。 再度、つないでいるものが胃ろうチューブであるかを確認し、患者さんに注入を開始することを声かけします(意識障害がある方でも声かけをします)。クレンメをゆっくりと緩めて注入を開始しましょう。患者さんの状態を確認しながら、ゆっくりと注入します。特に、液体状の栄養剤は、注入速度が速すぎると下痢や逆流の原因となることがあるため、注意が必要です。注入が終わったらクレンメを閉じ、注入用バッグのチューブを胃ろうから取り外します。そして、カテーテルの詰まりなどを防ぐために、カテーテルチップ型シリンジで白湯を注入してチューブ内を洗浄(フラッシュ)します。なお、栄養剤と別で白湯を投与する指示が出る場合もあります。投与量やタイミングは主治医の指示に従いましょう。清潔管理
胃ろう周囲の皮膚は、毎日発赤などの所見がないかを確認しましょう。異常がなければ特別な処置は不要です。皮膚とカテーテルの間に栄養剤が漏れると、皮膚の炎症や感染の原因となるため、優しくふきとりましょう。シャワーや入浴は、胃ろうがあっても特別なカバーは不要です。そのまま入浴やシャワーをすることができますが、感染の徴候があればフィルムなどでの保護が必要な場合があります。交換時期と交換方法
胃ろうカテーテルは、定期的な交換が必要です。交換の時期は、胃ろうカテーテルの種類によって異なります。胃の中にあるカテーテルが抜け落ちないようについているストッパーの形で分類されており、風船のようなバルーンがついているのがバルーンタイプ、そうでないものをバンパータイプといいます。交換頻度の目安はそれぞれ以下のとおりです。- バルーン型:1ヶ月~2ヶ月
- バンパー型:4ヶ月~6ヶ月
日常生活での注意点
日々の生活では、いくつかのポイントを意識することでトラブルの予防につながります。まず、胃ろう周囲の皮膚の状態を毎日観察します。赤み、腫れ、滲出、痛み、においがないかを確認しましょう。入浴やシャワーでは石けんとぬるま湯でやさしく洗い、よくすすいでからタオルで軽く押さえてふきとります。ときどき挿入部に肉芽(にくげ)と呼ばれる盛り上がった組織ができることがあります。出血しやすい、大きくなるなどの変化がある場合や、感染のサイン(赤み、熱感、膿など)があれば、早めに医療者へ相談しましょう。 次に、チューブがひっぱられないよう注意します。衣服やベルトでの圧迫、寝返りや排泄動作での引っかかりに気をつけます。抜けてしまった場合は再挿入を行わず、清潔なガーゼで覆って速やかに医療機関へ連絡、受診します。 そのほかにも栄養剤の流れが極端に遅くなっていないか、漏れや詰まりの徴候がないかを確認します。胃ろうでの栄養管理であっても、唾液の誤嚥リスクは残るため、毎日の口腔ケアを続けます。さらに、排便の回数や硬さ、腹部の張りなど、いつもと違う様子があれば早めに医療従事者へ相談しましょう。トラブル発生時の対応方法
日々の管理に注意していても、トラブルが発生することがあります。冷静に対処できるよう、主なトラブルとその対応方法を把握しておきましょう。ただし、基本的には介護者の方は、医療従事者や救急隊に連絡をするまでが仕事と考えましょう。 栄養剤の滴下が止まる場合、吐き気や嘔吐がなければ、カテーテルチップ型シリンジで10mlほど白湯を胃ろうカテーテルに注入します。このとき、強い力はかけないようにします。チューブのつまりが解消されない場合、胃の内圧が上がっている場合は改善しないため、医療従事者へ相談します。 栄養剤が胃ろうの穴から漏れてしまう場合、胃の内圧の上昇(便秘や消化管の運動の低下)やろう孔の広がりが原因の可能性があります。まずは注入速度をゆるめてみましょう。それでも改善がなければ注入は中止し、医療従事者へ相談します。 カテーテルが抜けてしまった場合も、医療従事者へ連絡を取ります。無理に再挿入しようとすると、ほかの臓器を傷つける危険があるため絶対に行わないでください。まとめ
胃ろうは、口からの食事が難しくなった方に対する栄養管理の一つです。胃ろうは造設した後も定期的な入れ替えが必要であり、日々の適切な管理も大変重要です。胃ろうの管理は、決して一人で行うものではなく、医師や看護師、管理栄養士、ケアマネジャーなど、さまざまな専門職のサポートが必要不可欠です。疑問があるときやトラブルが発生したときの連絡体制あらかじめ確認し、いつでも相談できる環境を整えておくことが、無理のない胃ろう管理の実現につながります。




