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脳が委縮する原因に!? 中年期以降の慢性的な孤独が認知機能低下に関連【医師による海外医学論文解説】

 公開日:2022/10/19

アメリカのボストン大学の研究チームは、中年期から長く持続する孤独が記憶などに対応する脳の領域の萎縮と関連していたと報告しました。この報告は2022年9月5日のeClinicalMedicine誌電子版に掲載されました。この研究報告について竹内先生にお話を伺います。


竹内 想

監修医師
竹内 想(名古屋大学医学部附属病院)

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名古屋大学医学部附属病院にて勤務。国立大学医学部を卒業後、市中病院にて内科・救急・在宅診療など含めた診療経験を積む。専門領域は専門は皮膚・美容皮膚、一般内科・形成外科・美容外科にも知見。

研究チームが報告した内容とは?

アメリカのボストン大学の研究チームが報告した内容について教えてください。

竹内想医師竹内先生

持続的な孤独感が認知機能の低下やアルツハイマー病の発症に関連する脳構造に関係しているかどうかはよくわかっていないため、今回取り上げるボストン大学の研究グループによる研究は、異なる孤独感のタイプ、認知機能、および脳局所容積の関係を調査することを目的として実施されました。

孤独感は、Framingham Heart Studyの第3世代におけるCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(うつ病自己評価尺度)の項目を用いて縦断的に測定しました。また、2609件の異なる孤独感のタイプと縦断的神経心理学的パフォーマンスと1829件の局所磁気共鳴画像法脳データとの関連を検証しました。結果は、性別、うつ病、アルツハイマー病の危険因子であるApoE4 = アポリポ蛋白質E4で分類しました。
その結果、持続的な孤独感が認知機能の低下、特に記憶と実行機能と強く関連しており、持続的な孤独感は側頭葉の容積と負の相関を示していました。性別で見ると、女性の持続する孤独は、前頭葉が小さいこと、側頭葉が小さいこと、海馬の容積が小さいこと、側脳室の容積が大きいことと関連していましたが、男性では有意な差が見られませんでした。一方、累積孤独スコアの大きさが、頭頂葉、側頭葉、海馬の容積が小さいこと、側脳室の容積が大きいことと関係していて、特にApoE4アレルを持つ人でこの関係が顕著になりました。
これらの結果から研究グループは、中年期の慢性的な孤独は、記憶や実行機能を担当する脳領域の萎縮との関連が示唆されたと結論づけています。

報告内容への受け止めは?

ボストン大学の研究チームが報告した内容について受け止めを教えてください。

竹内想医師竹内先生

持続的な孤独感によって刺激が低下することで、認知機能が低下しアルツハイマー病などの脳萎縮につながる可能性があることが今回の研究でわかりました。もともと”退職後に一気に老け込んだ”などと言われることがあるように、適切な刺激が減少することで認知機能が低下することは経験的に理解されていましたが、大規模かつ長期的な研究結果として証明したことは意義深いものであると考えられます。また一時的な認知機能の低下だけでなく脳の萎縮という形態的な変化が観察された点も意義があります。

治療現場に役立ちそうな点は?

今回報告された内容が、今後認知症やアルツハイマー病の治療や予防にどのように役立つ可能性があるか教えてください。

竹内想医師竹内先生

とくに新型コロナウイルス感染症の影響もあり、人と人との交流が途絶えがちで孤独感を感じる方も多いでしょう。適切な人と人との結びつきを維持するように努めていくことは認知機能の低下を防ぐだけでなく、身体が不自由になったときにお互いに手助けができるなどのメリットも生み出すことができると考えられます。周囲の人との交流を行い、孤独感を感じることがないよう努めていくことは健康増進に役立つと考えられます。認知症やアルツハイマー病には治療薬もありますが、現時点では治療薬だけで全てを治すことはできないため、日々の行動一つひとつを心がけることも大切です。

まとめ

アメリカのボストン大学の研究チームは、中年期から長く持続する孤独が記憶などに対応する脳の領域の萎縮と関連していたと報告しました。研究グループは、認知機能の予防とアルツハイマー病の予防に役立つ可能性があると述べていて、今後の動きにも注目が集まります。

原著論文はこちら
https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(22)00373-X/fulltext

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