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認知症発症率 人種・民族で異なる研究結果【医師による海外医学論文解説】

 更新日:2024/03/08

アメリカのカリフォルニア大学の研究グループは、55歳以上の約187万人を平均約10年間追跡した結果、認知症発症率は人種・民族によって有意に異なることが認められたとの研究結果を発表しました。この結果は2022年4月19日のJAMA誌に掲載されました。この研究報告について甲斐沼先生にお話を伺います。


甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

研究グループが発表した内容とは?

アメリカのカリフォルニア大学の研究グループが発表した研究内容について教えてください

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

今回の研究はアメリカのカリフォルニア大学のエリカ・コーンブリス氏らの研究グルー プによるもので、今年4月19日号の医学誌JAMAに掲載されました。研究グループは今回の目的を、「米国最大の統合医療システムでケアを受けた高齢退役軍人の大規模で多様な全国的コホートにおいて、5つの人種・民族グループと米国の地理的地域ごとの認知症発生率を明らかにすること」と設定しています。研究グループは1999年10月1日から2019年9月30日までにVHA = 米国退役軍人保健局医療センターで治療を受けた55歳以上の成人患者合わせて949万9811例から抽出した186万9090例について解析しました。人種・民族は、アメリカ先住民/アラスカ先住民、アジア人、黒人、ヒスパニック系、および白人の5つに分類しました。平均追跡調査期間中、13%に該当する24万3272例が認知症を発症し、それぞれの人種・民族の認知症発症率は、1000人あたりアメリカ先住民/アラスカ先住民は14.2例、アジア人は12.4例、黒人は19.4例、ヒスパニック系は20.7例、白人が11.5例と言う結果が出たとのことで、黒人とヒスパニック系で高い発症率が認められたとしています。

日本における認知症の現状は?

日本における認知症の現状について教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

認知症は歳をとるほどなりやすくなり、日本では65歳以上の認知症の人の数は2020年現在で約600万人と推計されています。また、2025年には高齢者の5人に1人に当たる約700万人が認知症になると予測されています。認知症には脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による「血管性認知症」、幻視や歩幅が小刻みになって転びやすくなる「レビー小体型認知症」、スムーズに言葉が出てこない、言い間違いが多い、感情の抑制がきかなくなる、社会のルールを守れなくなるといった症状があらわれる「前頭側頭型認知症」など複数タイプが存在します。

発表された研究内容の意義は?

アメリカのカリフォルニア大学の研究グループが発表した研究内容が今後どのような研究に役立てられる可能性があるのかなど、先生が感じた研究の意義を教えてください。

甲斐沼孟医師甲斐沼先生

米カリフォルニア大学のエリカ・コーンブリス氏らの研究によって、公衆衛生上人類にとって重要な課題として掲げられている認知症という病気に関して、人種や民族の違いによってその発症率に差異が生まれる可能性が示唆されました。
認知症は、これまでの研究からも複雑な環境因子や遺伝因子が密接に関わりあって発症すると信じられてきました。
今般のアメリカにおける認知症に関する病因と病態の進行度に関連する背景因子が一部判明しましたが、多種多様な人種・民族、地域間格差によって米国の事情と本邦の日本人における認知症発症リスクが必ずしも相互関連を有するとは限りません。
したがって、今後は日本人特有のゲノムデータや地域情勢などを用いたより詳細な解析を実践することによって、我々が現実的に問題直面している認知症における新たなメカニズム発見に繋がるものと期待しています。

まとめ

アメリカのカリフォルニア大学の研究グループは、55歳以上の約187万人を平均約10年間追跡した結果、認知症発症率は人種・民族によって有意に異なることが認められたとの研究結果を発表しました。研究グループは「これらの差の原因となっているメカニズムを理解するために、さらなる研究が必要である」と述べているため、今後の研究にも注目したいですね。

この記事の監修医師