ナルコレプシーは、日中に耐えられないほどの眠気が生じる病気です。授業中や会議中、歩行中など眠るような状況ではないタイミングで居眠りが生じます。
状況や場所に関係なく強い眠気に襲われるため、日常生活に多くの影響が及ぶでしょう。その他にも、起きている際や入眠時・睡眠中に現れる症状もあります。
この記事では、ナルコレプシーの症状や原因、診断や治療方法を紹介します。日中に強い眠気に襲われる方や、睡眠で気になる症状がある方の参考になれば幸いです。
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専門領域分類
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
ナルコレプシーの症状

起きているときに発生する症状を教えてください。
起きている際に生じる症状は、主に急な眠気と情動脱力発作です。急な眠気とは、耐えられないほどの強い眠気が、状況と場所に関係なくやってきます。仕事中や授業中、バスや電車での移動中などに生じることがあります。繰り返し出現するのも特徴です。情動脱力発作では、一時的に筋緊張の消失が生じます。数秒から数分で回復しますが、驚き・怒り・笑いなど感情の昂ぶりをきっかけに生じるのが特徴です。症状の程度には幅があり、呂律が回りにくい程度の身体の一部が脱力するものから床に崩れ落ちるほどの脱力まで、さまざまな状態を呈します。回復後は日常生活に戻れますが、睡眠に移行する場合もあるため、周囲の見守りが必要になるでしょう。
睡眠中・入眠時にも症状はありますか?
睡眠中・入眠時にも、睡眠麻痺や入眠時幻覚などの症状が現れます。睡眠麻痺は金縛りのような状態のことで、入眠時や目覚めた際に生じやすいです。数秒から数分の間、身体を動かせず声も出せない状態が続きます。入眠時幻覚は、入眠時や目覚めの際に出現しやすい幻視や錯視のことです。一般的な睡眠では、ノンレム睡眠から睡眠が始まり、レム睡眠に移行していきます。しかし、ナルコレプシーではレム睡眠から眠りが始まるため、現実と区別がつかないような夢を見るのが特徴です。人や動物など何者かが部屋にいるような感覚にもなります。また、日中に強い眠気に襲われるため、夜間に眠れなくなることがあります。
ナルコレプシーの原因

ナルコレプシーの原因を教えてください。
免疫細胞の攻撃により、オレキシン神経の変性や脱落が起きることで、ナルコレプシーが発症すると考えられています。オレキシンは、視床下部の外側とその周辺の領域で作られる物質です。正常な睡眠・覚醒の維持や制御、睡眠段階ごとの安定性の維持などの役割をしていると考えられています。その他にもオレキシンは、情動の制御やエネルギーの調節、摂食・代謝の亢進など脳の領域によって異なる働きをするのが特徴です。
ナルコレプシーは遺伝しますか?
遺伝の要因は高いと考えられています。ナルコレプシーの患者さんがいる家族では、一般の家族に比べて、ナルコレプシーの発現率が高いことがわかっています。ナルコレプシーの患者さんの家族では、ナルコレプシーに関連する遺伝子が4%あり、これは一般的な家族の10倍近く高い割合です。ただし、一卵性双生児での一致率は20%程度のため、遺伝要因に環境要因やその他の要因が関与して発症すると考えられています。親や兄弟がナルコレプシーの場合、遺伝子検査を行い、ナルコレプシーの遺伝子を持っているかどうかの確認が可能です。遺伝子を持っているかどうか把握することで、病気の発症の予防にもつながるでしょう。
ナルコレプシーが発症しやすい年齢層を教えてください。
ナルコレプシーは、10〜20代前半の方に発症しやすい疾患です。ピークは14〜16歳で、40歳以降に発症する例は稀です。発症すると居眠りによるミスや交通事故、労働災害などのリスクが高くなります。また、学業や仕事でのミスや過ちが原因で、精神面にも問題が生じる可能性があるでしょう。
ナルコレプシーの有病率はどのくらいですか?
日本の有病率は、600人に1人とされています。海外では2000人に1人とされており、日本の有病率は海外に比べて高いのが特徴です。そのため、人種や民族で有病率に差がみられると考えられています。また、罹患率に性差はないとされています。
ナルコレプシーの診断や治療方法

ナルコレプシーが疑われる場合、何科で相談すればよいですか?
精神科・脳神経内科・心療内科などで相談するとよいでしょう。ナルコレプシーのような過眠や不眠は、精神科の対応領域です。病院によっては、脳神経内科でも対応してくれます。気になる症状がある際には、近くの医療機関を受診しましょう。
どのように診断されますか?
診断では、問診と客観的な検査が行われるでしょう。行われる検査は、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)と睡眠潜時反復検査(MSLT)です。問診では、発症時期・現在の睡眠状況・眠気の性状・身体や精神の疾患・服薬の確認などを行います。PSGは、睡眠の状態や睡眠時の身体状態などを調べる検査です。病院で1~2泊して行います。脳波・心電図・呼吸状態・筋電図・酸素飽和度などを測定するため、自宅では行えません。MSLTは、PSGの後に行われる日中の眠気を知る検査です。検査機器を装着しベッドに横になり、眼を閉じて楽にします。眠くなった際には寝ても問題ありません。眠くならない場合には、20分ほどで検査は終わります。MSLTは、これを2時間おきに5回繰り返し消灯してから眠りに落ちるまでの早さで、眠気の強さを測定する検査です。ナルコレプシーの診断では、このMSLTでの所見と耐えがたい眠気や居眠りが少なくとも3ヶ月以上続いていることが、必須条件になります。MSLTの所見とは、布団に入ってから眠るまでの時間が8分以内で、レム期から始まる睡眠が2回以上あることです。PSGでレム期から睡眠が始まれば、それも1回に含めます。また、情動脱力発作が出ない場合もあり、発作の有無でタイプ1と2に分けられます。
治療方法を教えてください。
ナルコレプシーの治療には、薬物療法が適用されます。薬物治療が適切に行われると、症状もコントロールしやすくなるでしょう。日中の眠気には、中枢神経刺激薬が効くとされており、モダフィニルやメチルフェニデートなどが処方されます。日中の眠気以外の症状には、三環系抗うつ薬が選択されるでしょう。副作用や禁忌の場合には、セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)が使われます。夜間の睡眠に障害がある方には、睡眠導入剤が処方されることがあります。
普段の生活で注意するべきことはありますか?
普段の生活では、夜間の睡眠不足や生活リズムが不規則にならないように注意しましょう。また、学校や職場などで症状が現れる可能性があるため、周囲の方々への説明が必要になります。ナルコレプシーでは、短時間の計画的な昼寝は効果的です。昼寝はお昼の休憩時間内であれば取りやすいですが、時間外ではとりにくくなります。そのため、ナルコレプシーの周囲への説明や理解が必要になるでしょう。
編集部まとめ

ナルコレプシーは、日中の耐えがたい眠気・情動脱力発作・睡眠麻痺・入眠時幻覚などの症状が現れる疾患です。なかには、情動脱力発作が生じないタイプもあります。
世界の有病率は2000人に1人ですが、日本では600人に1人です。世界に比べて有病率が高い傾向にあります。
原因は、覚醒状態を安定させるオレキシンの変性・脱落と考えられています。オレキシンは、摂食や代謝の亢進にも役立っており、脳領域により異なる働きをする物質です。
問診やPSG・MSLTなどの客観的な検査を通して、ナルコレプシーの診断がなされます。治療は、薬物療法と生活指導です。
日中の眠気には中枢神経刺激薬が適用され、それ以外の症状には三環系抗うつ薬が選択されるでしょう。
薬の適応状態によっては、セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SNRI)が使われます。
夜間の睡眠に障害がある方には、睡眠導入剤が処方されることがあります。生活リズムの乱れや睡眠不足の影響を受けるため、規則正しい生活や薬を飲み忘れないように心がけましょう。